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『ブラック・フォン』スコット・デリクソン監督、ホラー映画における「電話」の変遷語る ─ 亡き父から着信の実体験も?【インタビュー】

ブラック・フォン
© 2021 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

殺人鬼に閉じ込められた地下室で、誘拐された少年のもとに謎の電話が鳴り響く。それはさらなる恐怖へと誘うものではなく、その部屋から脱出する鍵だった。『エミリー・ローズ』(2005)『フッテージ』(2012)『ドクター・ストレンジ』(2016)などのスコット・デリクソン監督最新作、『ブラック・フォン』が日本公開を迎えた。

『ブラック・フォン』の原作は、スティーヴン・キングの息子、ジョー・ヒルが執筆した短編集『20世紀の幽霊たち』(2005)に収められた『黒電話』。ある日の学校帰りに少年フィニーは、イーサン・ホーク演じる得体の知れない連続誘拐犯に誘拐され、鍵のかかった扉と鉄格子の窓に囲まれた地下室の部屋に閉じ込められてしまう。危機的状況のなか、部屋にある断線した黒電話から、まさかのベルが鳴り響く。それは、この部屋の恐怖と真実を知る死者からのメッセージだった。フィニーは死者たちの協力を得ながら、地下室からの脱出を試みていくことに……。

ブラック・フォン
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サイコパス、スーパーナチュラル、サイキックといった様々な要素が同時進行的に繰り広げられる本作は、誘拐された少年が想像を絶する恐怖に立ち向かう物語が見どころのひとつ。その恐怖とは、かつてスコット・デリクソン監督が少年時代に経験したことにも通じるものだという。このたび、THE RIVERのインタビューにてデリクソン監督が恐怖への向き合い方や、ノスタルジーへの見解、そしてホラー映画における電話の描き方などについて語ってくれている。

スコット・デリクソン監督、恐怖への向き合い方

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──『フッテージ』などホラー映画を数多く手がけてきていますがスコット・デリクソン監督にとって恐怖とは一体何なのでしょうか?

僕は多くの恐怖を感じながら育ちました。自分の子どもの頃や成長している時のことを考えると、一番に覚えている感覚は何かに怖がっていたことです。だから、大人になってから今まで歩んできた人生では、さまざまな形で自分が恐れていることと向き合ってきたんです。

──子どもの頃に感じた恐怖と向き合うことが、ホラー映画を作るきっかけとなったわけですね。

積極的に恐怖と向き合っていくうちに、それにどことなく夢中になっていったんです。何か怖いと感じるものがあれば、それが怖くなくなるまで立ち向かうのが、僕の今の本能でしょう。これこそホラー映画や小説の役割とも言えるのではないでしょうか。これらは僕が恐怖に立ち向かうための手助けにもなりましたから。すばらしいホラー映画は、僕たちに現実世界における本当の悪に立ち向かうための準備と力を与えてくれるのだと信じています。

『ブラック・フォン』と『IT』、ノスタルジーへの見解

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──『ブラック・フォン』原作者ジョー・ヒルの父、スティーヴン・キングによる小説で何度も映像化もされてきた『IT』と本作には、“子どもたちが連続殺人鬼に立ち向かう”という共通点があるように感じました。デリクソン監督としてはいかがでしょうか?

『IT』も『ブラック・フォン』も青春物語です。それはこの映画の基となった短編にも共通して言えることかもしれません。この短編小説を初めて読んだのは15~16年前、小説がまだ出版されたばかりの頃でした。そこで衝撃を受けたことがあるんです。この作品が連続殺人鬼の物語であり、幽霊の物語でもあるというという事実に。ふたつの要素が組み合わさった作品は読んだことがありませんでしたから。それもひとつの地下室で展開するわけですから、なおさら驚きました。これはすばらしいアイデアだと思い、そこで良い映画になると考えたんです。

(原作者の)ジョー・ヒルは、なるべく共感性を取り入れながら書いているように感じました。彼は本当に心から物語を描いていて、キャラクターたちが直面する痛みをとても大切にしているんです。だから、この短編小説を長編映画にしようと考えたとき、この感情や登場人物への愛情を大切にしなければならないと思いました。本当に怖くてサスペンスフルなものでありながら、とてもエモーショナルで笑える、そして最終的には観客に感動を与えられるものを作ろうとしたんです。

──フィニーの妹、グウェンがイエローカラーのレインコートを着ていると思うのですが、これも『IT』を彷彿とさせられました。監督は、『フッテージ』でもイエローのレインコートを衣装として活用されていましたが、これは単なる偶然でしょうか?

これは偶然です。そもそもこの手の子供用レインコートは、イエローカラーが多く、あの時代では間違いなく主流だったはずですから。なので、『フッテージ』や『IT』を意識したわけではありません。ただ、グウェンが着そうな色だと思ったからですね。

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──スティーブン・スピルバーグの過去作を彷彿とさせるような要素も描かれていますが、“ノスタルジックな映画”とはまた異なる雰囲気の作品に仕上がりになっているとも感じました。監督はいかにして差別化を図られたのでしょうか?

過去を振り返るとき、良かった出来事を思い出そうとする傾向があると思います。自分にとって意味のあることや、魅力的だったこと、好きなことを思い出していくわけです。それらは僕たちが心に刻んでおきたいものですし、それがノスタルジーというものでしょう。過去をある種楽観的に、あるいは魅力的なものとして振り返るみたいな。ただ、僕はそういうことをあまりしません。

──デリクソン監督ご自身は、過去とどのように向き合い、また振り返っているのでしょうか?

僕は自分の過去を振り返るとき、過去1日、過去1週間、過去1カ月、過去数年、子供時代など、その時の真実を見るようにしています。何が良かったのかだけでなく、何が悪かったのかを知りたくて。魅力的でないもの、良くなかったもの、正しくないものに目を向けるのは勇気が必要なことなんです。僕としてはこれがとても大切なことだと思っていまして。なぜなら、過去の真実と向き合ったとき、初めてそこから自由になれますから。

郊外にいる子どもたちを描く映画や、テレビドラマをこれまでたくさん観てきましたが、どれもスティーブン・スピルバーグ監督の『E.T.』(1982)や『未知との遭遇』(1977)に出てくる郊外みたいに感じることがあるんです。ただ、僕は自分の家の近所のような郊外での子供時代を描きたかったんですよ。

そこはメキシコ人と白人とが半分ずついるような、労働者階級のブルーカラーエリアでした。争いが絶えず、血も多く流れていて、家庭内暴力も多く、父親はベルトで、子どものことを激しく叩いていましたよ。みんな衝突し合うばかりで、決して安全とは言えない環境でした。これが僕が子ども時代に経験したことだったので、それを正確に映画に反映させることができれば、多くの人に語りかけることができるのではないかと思ったわけです。そういう子ども時代を覚えている方も多いはずですし、『E.T』の子どもたちとは違って、そういう子ども時代を実際に過ごしたという方もたくさんいるでしょうから。同じような経験をしていなくても、少し違う世界を覗くと、それはそれで新鮮に感じるはずですしね。

──たしかにフィニーが住む場所も、決して治安の良い環境とは言えませんよね。

僕の子供時代は最悪とまでは言えないかもしれません。人が撃たれたりするような、サウスブロンクスで育ったわけでもありませんから。それでも楽な環境ではありませんでしたし、恐怖を感じながら生活していたので、それをフィニーというキャラクターの設定にしたいと思ったんです。

イーサン・ホーク演じる殺人鬼、そのマスクの製作裏

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──イーサン・ホークが演じる連続殺人鬼、グラバーのマスクのデザインはどこからインスピレーションを得られたのでしょうか。あの不気味な笑みを浮かべるマスクは、一度でも観てしまうと夢に出てくるほど恐ろしいですが。

ほとんどは僕のイマジネーションからきているものなんですが、脚本には笑みを浮かべる悪魔のマスクと、顔をしかめている悪魔のマスク、そしてオールドレザーのマスクみたいなことしか書いていませんでした。映画の準備が始まってからは、もっといいものでなければならないと考えるようになったんです。そこでアンティークなデザインのマスクにしようと思い、笑みを浮かべるマスク、顔をしかめているマスク、そして口が全くないマスク、この3つを用意することにしました。

ただ、せっかくイーサン(・ホーク)が出演しているので、マスクなしの顔も映したいと思うようになったんです。そこでマスクを半分に割るという案を思い浮かびました。マスクの上部と下部のみのものにして、両方で顔全体を覆うこともできるみたいな。それでこのアイデアをトム・サヴィーニに伝えたんですよ。

──トム・サヴィーニといえば、『ゾンビ』(1978)などのジョージ・A・ロメロの作品をはじめ、さまざまなホラームービーでメイクアップやデザインなどを担当してきた人物ですよね。

『笑ふ男』という名作映画に出てくる人物のような見た目にしてほしいと依頼しました。それ以外のディレクションは、全て彼自身が行い、3つのマスクをスケッチにまとめてくれたんです。それを見て、“これだ。素晴らしい”と思い、あとはスケッチに書かれたものをどのように作り上げるのかを考えていくだけでしたよ。

ホラー映画における「電話」

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──『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)をはじめ、『スクリーム』シリーズや『エルム街の悪夢』(1984)なども然り、ホラー映画における“電話”とはどちらかというと恐怖の存在として登場してきた印象があります。本作では主人公が密室から脱出するための重要な鍵を握っていますが、ホラー映画における電話の使い方について監督はどのように考えていますか?

それはとても素晴らしく、興味深い質問ですね。『ストレンジャー・コール』(2006)という映画でも素晴らしかったですし、『スクリーム』シリーズのオープニングもまた記憶に深く刻まれています。コードレスの電話が怖い映画で重要視されるようになったのも、この頃ぐらいが初めてだったでしょう。

ただ、ホラー映画史上で一番好きな電話の場面はやはり、『ローズマリーの赤ちゃん』です。ローズマリーが公衆電話で主治医に電話する場面が特にお気に入りで、自分が情緒不安定となり、悪魔により妊娠したと信じ始めているんですけど。公衆電話の外から撮影されているにもかかわらず、電話越しのフィルターがかかっていて、主治医の声だけでなく、ミア・ファロー(ローズマリー役)の声が、彼女を観ている僕たち観客にも聞こえるようになっているんです。それにとても衝撃を受けたことをいまでも覚えています。

──『ブラック・フォン』でも活用されていた手法ですね。

フィルターを通した声は、とても幽玄で、どこか別世界のような感じがするものですから。

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──スマートフォンといった現代の電話を使った場合の映画はいかがでしょうか。いまのホラー映画でも成立すると思いますか?

もちろん、成立自体はすると思います。ただスマートフォンの問題というのは、その技術があまりにも複雑であることです。情報にアクセスすることができて、世界中の誰にでもいつでも連絡をとることもできるわけですから。

──昔よりも遥かに電話技術が発展し、電波などの問題も向上していて、ホラージャンルにおいて電話で設定を作り上げるのはやはり大変ということでしょうか?

“圏外”という設定を取り入れている物語はあまり好きではありません。多くの映画がやらざるを得ないのですが、それは僕にとってはあまり納得がいくものではないんです。スマートフォンのようなテクノロジーを怖い映画への導線とするには制限が足りないように感じてしまいますね。

『死霊館』シリーズでいうと、“呪われた人形”が登場しても、“アナベルの中に悪魔がいるのか”というように何となく受け入れられるんです。ただ、最新版のコンピュータや、Macのノートパソコンが悪魔に取り憑かれているみたいなのは、“え、それはどういうことだ”と理解できなくて。だから、同じようには感じられませんね(笑)。

──“電話”における恐怖体験を監督ご自身がなされたことはありますか?

とても良い質問ですね。これと言った怖い携帯電話の体験はないのですが、18年前に父が亡くなったとき、その夜に姉・妹のもとに何度も電話がかかってきたことがあったんです。電話に出ると雑音が入るだけでした。そのときは、それが父からの電話だと彼女は信じていたんです。“これなら2回、これなら3回叩いて”みたいな。まるで父と実際に会話をしているような気分になったそうです。なので、こういうような経験であればありましたね。

『ブラック・フォン』は公開中。

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Minami

THE RIVER編集部。「思わず誰かに話して足を運びたくなるような」「映像を見ているかのように読者が想像できるような」を基準に記事を執筆しています。映画のことばかり考えている“映画人間”です。どうぞ、宜しくお願い致します。

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