『ブラック・ウィドウ』に異変、2週目にして67%米ダウン ─ Disney+と海賊版の影響か

米映画業界の大異変が、『ブラック・ウィドウ』を通じて観察されている。マーベル・スタジオ待望の新作『ブラック・ウィドウ』は2021年7月17〜18日で公開2度目の週末を迎えたが、米興行収入は前週比67%マイナス(2,625万ドル)と大幅なダウンに苦しんでいる。天下のマーベル映画に一体何が起こっているのか。
日本の映画業界でも、興収記録は毎週3割ほど下降していくと見るのが一般的な目安。『ブラック・ウィドウ』の米成績は約7割も落ちたのだから異常事態だ。同じマーベル・スタジオ作品では『アントマン&ワスプ』(2018)が2週目に62%ダウンしたが、今回はそれ以上である。
米メディアは、この要因を主にふたつ論じている。ひとつは配信サービスのDisney+(ディズニープラス)での同日配信形式による弊害だ。米Varietyは映画館オーナーらによる協会 The National Association of Theatre Owners (NATO)による声明を紹介。Disney+で同日配信していなければ、『ブラック・ウィドウ』は初週末に9,200万〜1億ドルも稼げたはずだと伝えられている(実際の米初週末は約8,000万ドル)。映画の興行収入は配給と映画館で半々に分配されるから、2週目の興収がここまで暴落しては、館側のダメージも大きい。
米Deadlineは、Disney+で同時配信されていることによって、映画館でのリピート需要に影響を与えたのではないかと考察している。「多くの場合、熱心なファンは映画館で2度観てから、家庭用を購入する。これが『ブラック・ウィドウ』で起こらなかったのではないか?ファンは映画館で一度観てから、二度目用に家庭用(Disney+のプレミアアクセス)を購入したのだろうか?」
映画館の成績が落ちた分、Disney+ プレミアアクセスでの視聴が増えているのでは?Disney+は独自の配信サービスなのだから、ディズニーは収益を総取りできて好都合なのでは?報告によると、どうやらそういうわけでもないらしい。
確かに『ブラック・ウィドウ』は、配信開始直後の週末にDisney+ プレミアアクセスで全世界累計6,000万ドルの売上を記録していた。実のところ、ディズニーはこの収益のうち15%を、Amazon FirestickやApple TV+といった視聴プラットフォームに収めなければならない仕組みになっており、ゆえに初週の6,000万ドルのうち、ディズニーの取り分はおよそ5,100万ドルという計算。もちろん映画館との折半よりも取り分は大きいものの、「ディズニーは通常の劇場公開と比べ、サブの稼ぎ口を早くに使い果たしてしまい、最終的に得られる金額は少なくなってしまうだろう」と米Deadlineは分析している。Disney+のプレミアアクセスは一度購入すれば何度でも観られるので、「リピート購入」が起こり得ない。つまり『ブラック・ウィドウ』の興収はこの後、急激にやせ細りつづけるしかない運命なのだ。
もうひとつの理由は、違法な海賊版の横行。残念なことに、『ブラック・ウィドウ』が家庭で鑑賞された方法は、Disney+での正規の視聴ではなく、海賊版によるものが最多であり、かつ、最も海賊版で視聴された映画は、同週は『ブラック・ウィドウ』であったとの報告がなされている。米Deadlineは、海賊版サイトは映画の公式素材を無断使用しており、「あたかも合法的であるように装っている」とその悪質性を指摘。「海賊版が『ブラック・ウィドウ』のパフォーマンスに影響を与えていることは疑いようがない。これは、今後の作品の国際市場にも影響を及ぼすはずだ」とNATOは危惧している。実際、『ブラック・ウィドウ』は一大市場である中国での公開日が未定の状態だが、同地では既に海賊版が出回ってしまっているようで、その損失は2億ドルにものぼると言われている。
米Deadlineはこの現象を、かつて音楽共有サービスのNapsterが音楽業界を転覆させたのと同じように、大作映画の収益構造が「崩壊することになってしまう」と指摘。同記事は、「Napsterのミレニアル世代が大人になった。ディズニーよ、彼らはメディアを無料で手に入れることに慣れているのだ」「今後の劇場映画でも、本当にこの道で続けていきたいのか?」の2文を、それぞれ改行させて目立たせている。
『ブラック・ウィドウ』2週目の米興収ランキングは2位。1位の座は『スペース・プレイヤーズ』に譲った。日本での動員成績は2週目にして5位。3週目の『ゴジラvsコング』が3位で奮闘する中、1位は東宝『竜とそばかすの姫』、2位はワーナー『東京リベンジャーズ』と邦画が続いた。
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※2021年7月20日11:30 訂正
記事内にて、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』の米劇場公開・配信が同時であるとお伝えしておりましたが、誤りでした。お詫びしてい訂正いたします。