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人類の夢!ブラックホールを『観る』映画と、ブラックホールを『見る』科学プロジェクト

この記事はとにかく、心の叫びである。

誰も見たことがないブラックホールをこの目で見たい! 

これは好奇心の申し子ともいうべき人類の夢の1つである。その好奇心に駆動された気持ちを満たすために、物理学者であるDr.Falconは自身の研究の傍で、ブラックホールが登場するSF映画をよく観ている。今回はその中から2つを紹介しながら、その心の叫びをひたすら綴ってみようと思う。この記事を読んで、映画を見ながら、その背景にある科学にどっぷり没入する楽しみ方もあるのだと知ってもらえると嬉しい。

ブラックホールとは?

ブラックホールはアインシュタインの一般相対性理論によってその存在が予言された。その名の由来は、アメリカ人物理学者ジョン・ホイーラー(John Wheeler)が、光でも脱出できないその物体をブラックホール(Black Hole)と名付けたことによる。

ブラックホールを「観る」

ブラックホールは数多くの科学者によって研究され、とりわけ1970年代はブラックホール研究の黄金時代であった(タイムマシンの論文もこのころに登場する)。そんな中、1979年にブラックホールが映画”The Black Hole”において初めて映像化された。当時の観客に驚きを持って迎えられたことだろう。

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=63z9dPE6fD4]

                The Black Hole trailer(1979)

“The Black Hole” あらすじ

人類が居住可能な惑星を探していた宇宙船U.S.S.パロミノ号が、地球への帰路の途中で超巨大ブラックホールに遭遇。さらにそこには20年前に消息を立っていた宇宙船シグナス号とその艦長ラインハート博士の姿が。ラインハート博士に出迎えられた一行だが、彼らはやがて20年前に起きたラインハート博士がブラックホールを探検するという野望のために乗組員をヒューマノイドにしたという恐ろしい真実を知り、ラインハートの作ったロボット兵と闘いながらブラックホールへと吸い込まれていく…

※シグナス(Cygnus)ははくちょう座の英語名。後述するはくちょう座X-1は歴史的に初めてブラックホール候補天体である。

ストーリーはSFサスペンスなのだが、この映画に出てくるブラックホールの映像表現はとにかく異様だ。紫に澱んだ渦巻きには不気味さを感じる。強烈な重力場によって宇宙船内部が破壊されていく様子は身に迫るものがあり、恐怖を憶えるほどである。このようなブラックホールの表現はかなり一般的なものとなった。Dr.Falconが小さい頃に科学図鑑で見たのも同じような描写であった。

その後、VFX技術が飛躍的に向上し、高精細なグラフィックによってブラックホールは再び映画に登場する。2014年に公開されたクリストファー・ノーラン監督の作品、『インターステラー(Interstellar)』は記憶に新しい。

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=zSWdZVtXT7E]

                        interstellar movie trailer (2014)

『インターステラー』あらすじ

近未来の地球は、植物の枯死や異常気象により、人類は生存の危機に瀕していた。元宇宙飛行士クーパーは娘のマーフが話す幽霊のサインがバイナリーコードであることを見抜き、かつての同僚ブランド教授と再会。別銀河に種の存続をかけて移住するラザロ計画に参加。新天地を求めて向かった先には、巨大ブラックホールを周回する惑星があった。惑星に降り立つが、そこではラザロ計画の発案者マン博士の陰謀により、ラザロ計画は失敗。生存をかけて脱出を試みるが、クーパーはクルーを助けるために、ブラックホールに身を投じる。しかし、ブラックホールの中心にある5次元空間から時間軸を超越して、飛び立つ前の自分、そしてマーフにシグナルを送る…

※クーパーとマーフは運命の糸ならぬ、運命の”重力”で結ばれている。宇宙は万有重力によってあらゆる物質とつながっている。それに感動して涙が止まらなかったのを思い出した。

The Black Holeと同じく、インターステラーもまた、SFとヒューマンドラマを掛け合わせた映画であるが、実はインターステラーで登場するブラックホールの映像は最新科学の粋を集めた科学的にリアルなものである。

劇中で登場する超巨大ブラックホール、ガルガンチュア(Gargantua)の姿がこれだ。

https://www.reddit.com/r/wallpaper/comments/3e98z4/gargantua_1920x1080/
https://www.reddit.com/r/wallpaper/comments/3e98z4/gargantua_1920x1080/

光っているところは重力のエネルギーを使って輝いている星やガスで、本来はガルガンチュアの周りをレコード円盤のようにくるくる回っているのだが、ガルガンチュアの強力な重力によってぐにゃっとひしゃげている。ガルガンチュアの本体は真っ黒な球体の方である。文字通り「黒い穴 (Black Hole)」がぽっかりと空いている。

実際、この作品に関連して科学論文が2編書かれたというから、相当な熱の入れようだ。科学的な理論に基づく精確なブラックホールの可視化は高い評価を受け、遂にアカデミー賞視覚効果賞を受賞した。

Dr.Falcon自身、この映画は封切りから間もなく劇場で鑑賞した。そのとき、劇場で目の前にあるブラックホールの姿に、何本もの数式が頭を過り、のめって見入っていた。静かに、しかし心は熱狂していた記憶がこうして文章を書いていると蘇ってくる。

ああ、ブラックホールをこの目で見てみたい …. 

こうして映像化がされているわけだが、リアルなブラックホールの存在を誰も見たことはないのだ。どうせならやっぱり本物が見たい!

ブラックホールは実在する!

ブラックホールの実在は、科学的にはもはや疑う余地はない。
はくちょう座X-1が歴史上初めて最初に発見されたブラックホールである。

https://en.wikipedia.org/wiki/Black_hole#/media/File:Chandra_image_of_Cygnus_X-1.jpg
https://en.wikipedia.org/wiki/Black_hole#/media/File:Chandra_image_of_Cygnus_X-1.jpg

(x-1のチャンドラ衛星によるイメージ画像。レントゲンで用いるX線で光っている。)

それから、我々の住む天の川銀河の中心には、銀河系内にある約2000億個の星を引きつけいている太陽の400万倍も重たい超巨大ブラックホールがあると考えられている。その名はいて座A*という。

https://en.wikipedia.org/wiki/Sagittarius_A*#/media/File:Sagittarius_A*.jpg
https://en.wikipedia.org/wiki/Sagittarius_A*#/media/File:Sagittarius_A*.jpg

(銀河系中心にあるいて座A*。小さな領域に太陽400万個分莫大な質量を詰め込んでいる。)

こうした天体は、「ブラックホール候補天体」と呼ばれ、今や100天体以上発見されている。

さらに、2016年2月、アメリカの研究チームが重力波を捉えたという。これはこれまでになかったブラックホールが存在するという直接証拠である。

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=I_88S8DWbcU]

(LIGOチームが作っているブラックホール合体の動画)

ブラックホールを「見る」プロジェクト

ブラックホールを実際に見るための科学プロジェクトが現在進行中だ。世界中の電波望遠鏡のネットワークで巨大な望遠鏡 Event Horizon Telescopeを作り、ブラックホールの姿を捉えるという壮大なものだ。

https://en.wikipedia.org/wiki/Black_hole#/media/File:IonringBlackhole.jpeg
いて座実際に観測されるであろうブラックホールの「影」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Black_hole#/media/File:IonringBlackhole.jpeg

これを見てまず思うのが、

『インターステラー』のガルガンチュアにそっくりじゃん!

ブラックホールは光って見えるわけではなく、むしろその強力な重力で曲げられた光を観測し、ブラックホールの「影」の形を見ることになる。現在まだ立案の段階だが、今世紀中には完成するだろう。ついに物理学者はブラックホールの姿を写真に収めることが可能になるかもしれない。
ブラックホールにとどまらず、宇宙には未だその存在が確かめられていない物質が数多く残されている。例えば、ダークマターやダークエネルギーなどである。宇宙に重力波の発見を皮切りに、見えないものを追い求める時代が到来した。

人間のイマジネーションを膨張宇宙のように膨らませていった先にどんな世界が見えるのか。映画はまだ見ぬ世界へ誘ってくれる可能性に満ちている。ハードSFが大好物なDr.Falconは物理学の立場から今後も見ていきたいと思う。

今回参考にした本はこちら。洋書ではあるが、インターステラーの科学がぎっしり詰まっている。ブラックホー研究の世界的権威Kip Thorne氏が監修しており、インターステラーの背景の科学にどっぷりと浸ることができる。

Writer

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Dr.Falcon新居 舜

若き理論物理学者。専門は宇宙論・重力理論。この世界の成り立ちを求める探求者であり表現者。映画やゲームなどでヴァーチャルで表現される世界観を科学的に分析するのが大好き。ブラックホールに入りたい。

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