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【解説】『ブラック・クランズマン』知っておきたい7つのキーワード ─ もっと深く理解するために

ブラック・クランズマン
(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

スパイク・リー監督『ブラック・クランズマン』は破天荒な物語である。何しろ、黒人の捜査官が白人の振りをして、クー・クラックス・クラン(KKK)に潜入してしまうのだから。しかも驚くべきことに、本作は実話をベースにしている。リーによって大胆な脚色がほどこされているものの、物語の大半はロン・ストールワースによる同名著書の記述そのままなのだ。

『ブラック・クランズマン』は痛快なコメディ映画である一方で、人種差別の実態を一切の虚飾なく突きつけてくる。また、70年代後半の風俗映画としても非常に良質だ。この記事では、『ブラック・クランズマン』を深く理解するために、本作に登場した7つのキーワードを解説していきたい。


記者たち~衝撃と畏怖の真実~
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1. 異人種間混交

冒頭、ボーリガード博士(アレック・ボールドウィン)がしきりに訴えているのは「異人種混交」の恐ろしさだ。要するに、「異なる人種が交じり合うのは罪である」と主張しているのである。南北戦争以降、表向きには黒人奴隷が解放され、白人と有色人種は平等になった。しかし、ジム・クロウ法をはじめとして、20世紀になっても隔離政策を奨励する法律は残されていた。

『ブラック・クランズマン』の舞台である1979年には、人種隔離政策の多くは撤廃されている。それでも、長年アメリカに蔓延していた白人至上主義がすぐになくなるわけもない。差別主義者たちは有色人種を「異人種混交によってアメリカを侵略しようとしている悪党」のように見せようとした。そして、知識人の中にも人種隔離政策を復活させるべきだと説く者がいた。残念ながらこうした状況は、21世紀にまで引き継がれている。

2. クー・クラックス・クラン

秘密結社であるクー・クラックス・クラン(KKK)の発祥ははっきりしないが、南北戦争後、アメリカ南部で勢力を強めていったといわれている。活動方針は白人至上主義に基づいており、あらゆるアングロ・サクソン系以外の人種を攻撃してきた。また、同性愛者に対しても一貫して不寛容な立場をとっている。

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KKKの活動内容は支部によって異なる。ただ、過激派になると黒人を無差別的にリンチし、殺害することも少なくなかった。60年代は、黒人解放の公民権運動に関わった白人さえもがKKKによって命を奪われている。KKKは停滞と復活を繰り返しながら現代でもまだ活動を続けている。秘密結社であるがゆえに、警察でさえ関係者が完全に把握しきれてはいない。だからこそ、ロンが行った潜入捜査には大きな意味があったのだ。

3. ブラックパワー

ロンが潜入した黒人運動家たちの集会で、クワメ・トゥーレはしきりに「ブラックパワー」という言葉を使って聴衆を扇動していた。これは、1960年代の黒人公民権運動で生まれた概念であり、トゥーレは提唱者の1人とされている。当時、黒人たちは度重なる弾圧によって、尊厳を奪われていた。そんな中、マルコムXをはじめとする運動家たちは黒人であることを美しい(Black is beautiful)と主張し、人種の誇りを取り戻そうとした。

コロラドスプリングス初の黒人警察官だったロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、トゥーレの演説を聞いて感動してしまう。組織の中から現状を変えていこうとするロンは、過激派であるトゥーレとは思想を共有できない。しかし、そんな彼ですらトゥーレの「黒人であることを誇ろう」という言葉は心に響いたのである。

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4. ブラックスプロイテーション

70年代は公民権運動の成果によって、黒人の社会的地位が向上しつつあった。そして、黒人たちの文化も社会に浸透しつつあった。ソウル・ミュージックにアフロヘアー、ディスコなどだ。黒人のヒーローやヒロインが巨悪に立ち向かうアクション映画なども大量生産されるようになった。これらの作品を総称して「ブラックスプロイテーション」と呼ぶ(編注:「ブラック」+「エクスプロイテーション・フィルム(娯楽映画)」の造語。黒人の観客を主なターゲットとして製作された)。代表作に『黒いジャガー』(1971)、『スーパーフライ』(1972)、『コフィー』(1974)などがあった。ロンも映画好きらしく、劇中には恋人のパトリスに熱弁を振るうシーンがある。

『ブラック・クランズマン』はブラックスプロイテーションのパロディでもある。ロンのビジュアルは典型的な同ジャンル作品のヒーローだし、後半の展開も史実にはないアクション要素が加えられている。

5. 『國民の創生』

1915年に公開され、大ヒットしたアメリカ映画(原題:The Birth of a Nation)。監督は、ストーリー映画の基本を作ったとされるD・W・グリフィス。実際、技術的な意義は大きく、本作によって映画の編集やストーリーテリングは大幅に進化した。問題はあらすじである。

『國民の創生』では解放奴隷を悪役として描いている。黒人は異人種混交を企む下品で暴力的な生き物であり、彼に迫られた白人女性は自死を選ぶ。そして、そんな黒人を成敗するのがほかならぬKKKなのだ。『國民の創生』は映画技術の発展を10年早めたかもしれない。しかし、黒人の地位向上を50年遅らせた可能性すらある罪深い作品だ。

ちなみに、『ブラック・クランズマン』に.登場するKKKが『國民の創生』の上映会を行うのは、原作通りの描写である。KKKが正義の味方として描かれる『國民の創生』は白人至上主義者のバイブルとなり、今もなお一部のアメリカ人から愛され続けている。

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6. WASP

「白人(White)」「アングロ・サクソン(Anglo-Saxon)」「プロテスタント(Protestant)」の頭文字をとった言葉。過激な白人至上主義者が掲げる理想的なアメリカ人の条件である。どうして白人保守層がWASPにこだわるのかというと、1620年、イギリスから「ピルグリム・ファーザーズ」と呼ばれるプロテスタントがアメリカ大陸に渡ったことが建国のきっかけとなったからだ。KKKもWASPであることを入会条件としている。そのため、ユダヤ人はKKKに入れないばかりか攻撃対象となってきた。

ロンの代わりにKKKと接触をするフリップ捜査官(アダム・ドライバー)は自分がユダヤ人だと意識せずに過ごしてきた。しかし、KKKのWASPたちの排他的な思想に直面して、民族意識を強めるようになっていく。

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7. 逆差別

『ブラック・クランズマン』のKKK会員たちが根強く抱いているのは、「自分たちは逆差別を受けている」という感覚である。社会が黒人にばかり寛容で、白人が割を食っているという発想だ。しかし、こうした逆差別は度の過ぎた被害者意識に根付いている場合もある。ナチスがユダヤ人を迫害するようになったきっかけも「ドイツがユダヤ人に侵食されている」という被害者意識に端を発していた。本当に民族の誇りがあるなら、ほかの民族を攻撃する必要などない。誰かを貶めて得られるのは誇りではなく、加害者であることの優越感である。


1970年代を舞台にした『ブラック・クランズマン』は現代アメリカの物語でもある。本作は「昔はこんなことがあった」と伝えているのではなく、「昔から同じことが続いている」と告発する。そして、同じことは現在進行形で、世界のどこでも行われているといえるだろう。醜い加害者たちと同じ轍を歩まないよう、被害者になったときに正しく怒りを抱けるよう、『ブラック・クランズマン』で人種問題を考えてみてほしい。

映画『ブラック・クランズマン』は、2019年3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

『ブラック・クランズマン』公式サイト:http://bkm-movie.jp/

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[参考文献]片田珠美(2018)『被害者のふりをせずにはいられない人』青春出版社

Writer

石塚 就一
石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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