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【解説】『ブラック・クランズマン』知っておきたい7つのキーワード ─ もっと深く理解するために

ブラック・クランズマン
(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

ブラック・クランズマン』はブラックスプロイテーションのパロディでもある。ロンのビジュアルは典型的な同ジャンル作品のヒーローだし、後半の展開も史実にはないアクション要素が加えられている。

5. 『國民の創生』

1915年に公開され、大ヒットしたアメリカ映画(原題:The Birth of a Nation)。監督は、ストーリー映画の基本を作ったとされるD・W・グリフィス。実際、技術的な意義は大きく、本作によって映画の編集やストーリーテリングは大幅に進化した。問題はあらすじである。

『國民の創生』では解放奴隷を悪役として描いている。黒人は異人種混交を企む下品で暴力的な生き物であり、彼に迫られた白人女性は自死を選ぶ。そして、そんな黒人を成敗するのがほかならぬKKKなのだ。『國民の創生』は映画技術の発展を10年早めたかもしれない。しかし、黒人の地位向上を50年遅らせた可能性すらある罪深い作品だ。

ちなみに、『ブラック・クランズマン』に.登場するKKKが『國民の創生』の上映会を行うのは、原作通りの描写である。KKKが正義の味方として描かれる『國民の創生』は白人至上主義者のバイブルとなり、今もなお一部のアメリカ人から愛され続けている。

記者たち~衝撃と畏怖の真実~
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6. WASP

「白人(White)」「アングロ・サクソン(Anglo-Saxon)」「プロテスタント(Protestant)」の頭文字をとった言葉。過激な白人至上主義者が掲げる理想的なアメリカ人の条件である。どうして白人保守層がWASPにこだわるのかというと、1620年、イギリスから「ピルグリム・ファーザーズ」と呼ばれるプロテスタントがアメリカ大陸に渡ったことが建国のきっかけとなったからだ。KKKもWASPであることを入会条件としている。そのため、ユダヤ人はKKKに入れないばかりか攻撃対象となってきた。

ロンの代わりにKKKと接触をするフリップ捜査官(アダム・ドライバー)は自分がユダヤ人だと意識せずに過ごしてきた。しかし、KKKのWASPたちの排他的な思想に直面して、民族意識を強めるようになっていく。

記者たち~衝撃と畏怖の真実~
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7. 逆差別

『ブラック・クランズマン』のKKK会員たちが根強く抱いているのは、「自分たちは逆差別を受けている」という感覚である。社会が黒人にばかり寛容で、白人が割を食っているという発想だ。しかし、こうした逆差別は度の過ぎた被害者意識に根付いている場合もある。ナチスがユダヤ人を迫害するようになったきっかけも「ドイツがユダヤ人に侵食されている」という被害者意識に端を発していた。本当に民族の誇りがあるなら、ほかの民族を攻撃する必要などない。誰かを貶めて得られるのは誇りではなく、加害者であることの優越感である。


1970年代を舞台にした『ブラック・クランズマン』は現代アメリカの物語でもある。本作は「昔はこんなことがあった」と伝えているのではなく、「昔から同じことが続いている」と告発する。そして、同じことは現在進行形で、世界のどこでも行われているといえるだろう。醜い加害者たちと同じ轍を歩まないよう、被害者になったときに正しく怒りを抱けるよう、『ブラック・クランズマン』で人種問題を考えてみてほしい。

映画『ブラック・クランズマン』は、2019年3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

『ブラック・クランズマン』公式サイト:http://bkm-movie.jp/

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[参考文献]片田珠美(2018)『被害者のふりをせずにはいられない人』青春出版社

Writer

石塚 就一
石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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