【特集】『ブレードランナー』伝説の名ゼリフ『雨の中の涙』を徹底解説【はじめてのブレードランナー2】

編集部注:本記事は2017年7月13日に公開されたものです。
ごきげんよう。唐突ですが読者の皆様は無事入手できましたか? 映画前売り券専門サイト『メイジャー』で2017年7月10日の1日だけ先行限定発売された『ブレードランナー 2049』の1/5留之介ブラスターミニチュア付ムビチケカードですよ。
筆者はといえばずっと楽しみにしていたにも関わらず、販売開始の当日深夜0時手前で不覚にも寝落ちしてしまい、はっと目が覚めたら時すでに遅し。ハリソン版、ライアン版ともにソールドアウト。僕のここ三カ月間はいったい何だったのかと、2017年8月頃に発売されるというネカ社のアクションフィギュアに留之介ブラスター持たせてニヤニヤしたかったなぁと、世の無情さにお風呂でシャワーを浴びながらハラハラと涙を流していたところ思い付いたのがこの特集です(前置きなげえ)。
【注意】
この記事には、映画『ブレードランナー』第一作のネタバレが含まれています。

雨の中の涙
「おまえたち人間には信じられないようなものを私は見てきた。オリオン座の近くで燃える宇宙戦艦。タンホイザー・ゲートの近くで暗闇に瞬くCビーム、そんな思い出も時間と共にやがて消える。雨の中の涙のように。死ぬ時が来た。」
(原文:I’ve seen things you people wouldn’t believe. Attack ships on fire off the shoulder of Orion. I watched C-beams glitter in the dark near the Tannhäuser Gate. All those moments will be lost in time, like tears in rain. Time to die.)
『ブレードランナー(1982)』クライマックス。職務として脱走したレプリカントを殺してきたデッカード(ハリソン・フォード)でしたが、最後の一人、レプリカント達のリーダー、ロイ・バティー(ルトガー・ハウアー)の猛反撃に遭います。ロイの戦闘力は非常に高く、デッカードに勝ち目はありません。狩る側は狩られる側にまわり、雨の中ビルの中や屋上を必死で逃げ回るデッカードでしたが、ついに足を滑らせ、ビルの縁から鉄の梁に宙ぶらりんになった形で追いつかれてしまいます。その無様な様子を嘲笑するロイ。彼からすればデッカードは自らの命を狙っているというだけでなく、苦楽を共にした仲間たちの仇、許せない相手です。雨で両手のグリップを失い、ついに落下するデッカード。しかしその刹那、デッカードの手を取り引き上げるロイ。助けられるはずのない相手に命を救われ呆然とするデッカードを前に、ロイは上段の台詞を呟き、そして絶命します。
通称「Tears in rain monologue」(雨の中の涙モノローグ)、または「Cビームスピーチ」として知られるこの台詞は、SF映画だけでなく映画史全体においても屈指の感動的なスクリプトとして知られています。筆者の個人的見解では、『ブレードランナー』を後世に残る偉大な作品たらしめる要素の中でも、この台詞を含めたロイの最後の場面は最も重要だったといって過言ではありません。冷酷な殺人マシーンのようだったロイが、短い人生の最後に愛おしむように鳩を抱きしめ、動かなくなっていく体を雨の中震わせながら絞り出す稀代の詩人のようなセンテンス。全ての観客を予期しなかった感動の渦に巻き込んだこの名台詞は、一般的にロイ・バティーを演じたルトガー・ハウアーのアドリブであったとして知られています。しかし私見ながら、これは正確な情報とは言えないと考えます。
オリジナル脚本にアドリブを加えて生まれた名台詞
ハンプトン・ファンチャーが製作上の意見の相違から降りた後、二人目の脚本家として招集されたディヴィッド・ピープルズ。彼がこのシーンの為に書き下ろしたオリジナル脚本では、該当の台詞はこうなっていました。
「私は冒険を知っている。お前達人間が決して目にすることはない場所を見てきた。オフワールドへ行って戻ってきたんだ…フロンティアだぞ!プルーティション・キャンプへの信号機の背甲板に立って、汗で沁みる目で、オリオン座の近くの星間戦争を見たんだ。髪に風を感じていた。テストボートに乗って黒い銀河から去りながら、攻撃艦隊がマッチのように燃えて消えていくのを見た。そう、見た、感じたんだ!」
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