【プレゼント付】ボン・ジョヴィ新アルバム『2020』全曲解説 ─ 「歴史の証人として」突き動かされた一作

また、バンドは、アルバム4曲目「ビューティフル・ドラッグ」(原題: Beautiful Drug)で、愛こそ我々に必要なものだと、リスナーに訴えている。続いて、「父親は娘に愛を注ぐ 母親が息子を愛するように」という一節で始まる次の「ストーリー・オブ・ラヴ」(原題:The Story of Love)は、“親であるということ”がテーマだ。胸を打つその歌詞は、ジョンが自身の家族に触発されたもの。「子供たちのために歌を書くことにしたんだ」とジョンは語る。“命の環”という旅路を渡っていくこの曲では、突然、子供が親になり、そして親は次第に年老いていく。「子供たちや、妻、両親といった、自分の家族全員のことについて書いていると気づいた。出会いから別れまで、それは愛の物語なんだ」。
全10曲の至る所で、ボン・ジョヴィは精神の浄化を呼びかけており、それが特に顕著なのが「レット・イット・レイン」(原題:Let It Rain)だ。私たちがこの曲で突きつけられるのは、次のような歌詞である:
「いつの日か、偏見の目がなくなって/眠るベッドや、祈る神/あるいは肌の色によって/判断されなくなる日が訪れるかもしれない/聖職者や政治家たちが/真実以外の何も売り物にしなくなった時/その日こそ、全ては何のためだったのか分かるのだろう」
その雨は、魂の浄化の必要性と、太陽が再び輝くチャンスの象徴だ。
それからジョンは、次のような問いを投げかける──もし自分の家族が、無分別な悲劇的事件によって引き裂かれたとしたら?と。心を揺さぶる「ローワー・ザ・フラッグ」の核心を成しているのは、そういった悪夢のようなシナリオだ。「州北部のジョーから連絡が来た/半旗を掲げて哀悼すべき、銃乱射事件が再び起きたと/今度はオハイオ州南西部デイトン/昨夜はテキサス州エルパソで、死者は22人に上った」という重々しいオープニングで始まるこの曲。続く歌詞で、追悼する時間すらないまま、ニュースが次の話題へと移っていくことを人々が嘆いていると、語り手はこう問いかけてくるのだ。「あそこで倒れ伏しているのが、もし自分の愛する人だったなら?」。ジョンによるシンプルなギターの弾き語りから成るこの曲は、ネバダ州ラスベガス、サンディフック小学校、フロリダ州オーランド、コロンバインなど、銃乱射事件に巻き込まれた都市の名の暗唱で締めくくられている。「もしそれが自分の家族だったら?と考えていた。それが自分の妻や、子供たち、夫だったなら感じるであろう苦しみを、想像してみてほしい」。
「ブラッド・イン・ザ・ウォーター」は、元々2018年に書かれた曲だが、依然として今日的な意義を失っていない。2019年から2020年にかけて変わったのは、次に引用する歌詞の重みによって光が当てられている人物たちの名だ。
「俺はケーブルTVのレポーターじゃない/奴らの話に新情報などありはしない/俺は新体制の代弁者/『アナーキー・トゥデイ』のスター/俺はページの一番下に表示され、人々が読み続けるコメント/俺が握っているのは実権/俺は愛国者/俺の本業はロシアのハッカー/本業はロシアのハッカーだ」
その静かなる非難に活を入れるのが、次の曲「ブラザーズ・イン・アームズ」だ。 圧倒的なリフ、そして元NFLクォーターバック選手コリン・キャパニックへの言及であることが言わずと明らかな歌詞で始まるこの曲の中で、ジョンはこう歌っている。
「アラバマ州南部では礼儀ある言葉遣いを躾けられる/『はい』『いいえ』『ありがとう』『お願いします』と/だが方針に反することをしてはならない/都合よく書き換えるな 定義するな/一人の男が片膝をつく姿の表す意味を」
そういった抗議の形に関しては、私たちのそれぞれが異なる見解を持っているかもしれない。だが、私たちは皆、アメリカという共有の社会経験の一部なのだ。語り手は、最終的にこの国を、大勢の中の掛け替えのない一人に誰もがなれるような場所とするため、互いの違いについて公平かつ偽りのない議論を行うつもりがある者はいるのか、と尋ねている。
本作を締めくくる「アンブロークン」は、PTSDに苛まれる退役軍人たちを取り上げたドキュメンタリー映画『To Be of Service[原題]』のために書かれた曲であり、ここでは現実に交わされた会話がリスナーを引き付ける。訓練と戦争を経て、「悪魔でさえ眼を背けるような夢 」と共に帰還した兵士の旅路について、ジョンは歌っており、「結局、尽くすだけの価値があったのか」という永遠の問いを、そこで投げ掛けている。「この曲を書くのは難しかった。自分には軍務経験がなかったから。そして任務に尽くした人たちに対し、心から誠実に敬意を表したかった」とジョン。「兵士の人たちが誇りに思えるような曲を書きたいと思ったんだ」。