Menu
(0)

Search

『ジョーカー』が導いた、ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 ─ 悲しく恐ろしいヴィランと、明るくキュートなヴィランの共通点とは

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY
©2019 WBEI and ©&TM DC Comics

2019年、1本のアメコミ映画が世界を席巻した。ホアキン・フェニックス主演『ジョーカー』である。アメコミ界屈指の人気ヴィラン、“悪のカリスマ”ジョーカーが誕生するまでの物語を新解釈で描き切った本作は、アメコミ映画史上初めて、ヴェネツィア国際映画祭で最高賞(金獅子賞)を受賞。ゴールデングローブ賞ではドラマ部門の作品賞・主演男優賞、監督賞作曲賞の4部門にノミネートされ、来たるアカデミー賞にも期待が寄せられている。全世界興行収入10億ドル超えの大ヒットを記録し、R指定作品の歴史も塗り替えた。

そして2020年、ジョーカーの恋人として知られる、もうひとりの“最凶ヴィラン”がやってくる。『スーサイド・スクワッド』(2016)で実写映画に初登場した、マーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインだ。彼女が主人公となる『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』で、アメコミ映画はまたもや新たな境地へ踏み出すのである。

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY
©2019 WBEI and ©&TM DC Comics

『ジョーカー』の〈覚醒〉

そもそも、一体なぜ『ジョーカー』はこれほどのヒットに結びついたのか。理由はいくつもあるだろう。従来のコミック映画に対するイメージを裏切った、巨匠マーティン・スコセッシ監督の影響も色濃いリアルでダークなトーン。主人公アーサー・フレックからジョーカーへの変貌を演じきった、名優ホアキン・フェニックスの迫力。そして観る者の心を深くえぐる、「なぜ優しい男がジョーカーになったのか」を描いた脚本・演出だ。

大道芸の仕事で日銭を稼ぎ、家に帰れば母親の介護をしているアーサーは、自分自身も病気を抱えている。そんな、とても豊かとは言えない生活を送っていた彼は、ひょんなことから自分の居場所を失いはじめるのだ。観客はアーサーの物語を、彼が犯罪に手を染めるまでの心の動きを、彼が置かれている環境をたやすく理解することができる。そして、彼の苦しみにも共感をおぼえるだろう。これは私たちの知る世界での出来事かもしれない、とさえ思ってしまうのだ。

「日常生活でうまくいかない主人公が、自分の力に目覚めて活躍する」という物語は、ヒーロー映画における定型のひとつだ。『ジョーカー』はその路線にのっとりつつ、「うまくいかない主人公が、うまくいかないまま自分の力に目覚める」物語を描いた。生きづらい世界で英雄のごとく活躍する主人公の物語は観る者に快感をもたらすが、実のところ、現実世界にはそうではない人々のほうが多い。“最も悲しく、最も恐ろしいヴィラン”に人々が共感を抱いたのは、きっと必然だっただろう。「最凶の悪が、自分とそう変わらない人間かもしれない」という物語は確かにつらく苦しいが、ある意味では快感でもあったのではないか。

ハーレイ・クインの、華麗なる〈覚醒〉

待望の新作映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は、そんな『ジョーカー』のダークな路線、あるいはシリアスなドラマに重きを置きつつあるヒーロー映画の潮流にも一石を投じるかのような作品だ。

マーゴット・ロビー演じる主人公ハーレイ・クインは『スーサイド・スクワッド』で映画をまるごとかっさらうほどの魅力を世界中に見せつけた。底抜けのキュートさとセクシーさはもちろん、そのファッションにも注目が集まり、一躍アイコン的な存在となったのだ。常識はずれの活発さとぶっ飛んだメンタリティ、ときおり炸裂する暴力性も観客を惹きつける。街中のショーウインドウをバットで叩き割り、そこにあったカバンをつかんでは、狼狽する男たちに「私たちは悪者。これが仕事でしょ」と言い放つシーンはいかにも象徴的だ。

『ジョーカー』で描かれたのが最も恐ろしく、最も悲しいヴィランだったとしたら、こちらは“最も明るく、最もキュートなヴィラン”と言えるはず。ハーレイ・クインは、とにかく快活でスタイリッシュ、ハチャメチャで破壊的なのだ。演じたマーゴットは、ハーレイの魅力を「まるで予想がつかないところ」だといい、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』については「ハイテンションで、ポップで、暴力的で、クレイジー。不条理で、イカれてて、とっても楽しい」映画だとアピールしている。『ジョン・ウィック』監督が監修を務めたアクションシーンにも注目だ。

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY
©2019 WBEI and ©&TM DC Comics

しかし、そんな本作をよくよく覗き込んでみると、どこか『ジョーカー』に通じるところが見えてくるからおもしろい。なにせ今回のハーレイは、愛するジョーカーと別れたばかり。自分を縛っていた恋愛から解放され、ツインテールもバッサリ切って、これから人生の新たな一歩を踏み出そうというところである。ところがそんな時、自分を思いのままに支配しようとする悪党(ユアン・マクレガー)が現れる。快活でハチャメチャなはずのハーレイが、恋人との破局、そして立ちはだかる壁を前に、ありのままの自分を発揮できなくなってしまうのだ。ならば彼女は、そこからどうやって抜け出し、〈覚醒〉の時を迎えるのだろうか?

『ジョーカー』が人々を魅了した理由のひとつは、ジョーカーという存在を従来のイメージから解放し、コミックのヴィランとしてではなく、あくまで一人の人間として捉えたところにもある。どうやら今回も、その路線はきちんと継承されることになりそうだ。監督のキャシー・ヤンは、「人生は白黒つかない」「ヒーローと悪人がいるだけの単純な世界ではない」という考え方でハーレイの物語に挑んだという。

とはいえ『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は、リアルでダークな『ジョーカー』とはうってかわって、本格的なアクション・エンターテイメント。きっと今回のハーレイも、誰にも予測できない暴れっぷりを見せつけてくれるに違いない。だって彼女は、見かけだけなら“やりたいことをやっているだけ”のヴィランなのだから。しかし今の時代、“やりたいことをやっているだけ”がいかに難しいことだろう。

マーゴットの言葉を借りれば、本作は「ポップで、クレイジーで、とっても楽しい」映画。けれども観客は作品のテイストにひたっているうち、ハーレイが苦境から〈覚醒〉へと至る姿に心をつかまれてしまうはず。ジョーカーと同じく、ハーレイ・クインの映画もまた、観る者を悪の世界に引きずりこんでしまう危険度MAXの一本なのだ。“最も明るく、最もキュートなヴィラン”が、今度は世界を〈覚醒〉させにやってくるのである。

映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は2020年3月20日(金)全国ロードショー

Source: Screen Rant

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

THE RIVER編集部。「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。劇場用プログラムや各種媒体への寄稿なども喜んで承りますので、お気軽にお尋ねください。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly