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マーベル『ブラックパンサー』エヴェレット・ロス、善人でも悪人でもない「グレー」の魅力

マーティン・フリーマン
Photo by Fat Les (bellaphon) https://www.flickr.com/photos/bellaphon/4410297582/ Remixed by THE RIVER

マーベル・シネマティック・ユニバース作品、映画ブラックパンサーは、2016年『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で初登場したワカンダ国王ティ・チャラ/ブラックパンサーを主人公とする初めての単独映画だ。

実はこの作品には、ティ・チャラと同じく、『シビル・ウォー』で初登場したキャラクターが重要なポジションを担っている。マーティン・フリーマンが演じるCIAエージェント、エヴェレット・ロスだ。

本作は主要キャストをほぼ黒人で固めた初めてのハリウッド大作にして、ライアン・クーグラー監督がアフリカに関する描写にこだわり抜いた、映画史上、また文化史上において重要な意味を持つ映画である。そんな作品で、白人を代表して未知なる国ワカンダに入っていくのがロスなのだ。言うまでもなく、その人物描写や俳優の取り組みには、すさまじく繊細な作業が求められることになる。

『ブラックパンサー』の撮影時、そして公開を控えたプロモーションにて、ロス役のマーティンは、その思想やこだわりを含めて、本編からは窺い知れないほどにディープな役柄の解釈を語ってきた。

現実社会に通じる、優秀で「グレー」なキャラクター

もしもあなたが熱心なマーベル・ファン、あるいはマーティン・フリーマンのファンでないとすれば、『シビル・ウォー』のロス登場シーンをすぐに思い出すのは難しいかもしれない。バッキー・バーンズをめぐってキャプテン・アメリカやブラックパンサーらが激しいカーチェイスを繰り広げたのち、バッキーが拘留されたあとに登場するほか、映画の結末では「ある人物」との間で重要な言葉を交わしていたのだ。

Den Of Geekのインタビューによれば、マーティン自身、『シビル・ウォー』が紹介にすぎないことはマーベル・スタジオ側からあらかじめ聞かされていたという。

「『シビル・ウォー』で初登場して、それから数本の映画に出る、そのひとつが『ブラックパンサー』なんだと言われてました。だから(再登場は)常にありえたわけです。『シビル・ウォー』以上に、『ブラックパンサー』ではいろんなことをやらなきゃいけないのも分かっていました。前回はロスという人物をただ紹介しただけでしたからね。」

マーベル・シネマティック・ユニバースのエヴェレット・ロスは、コミックに登場する同名の人物とは性格が大きく異なる。マーティンは「どんなキャラクターなのか知るために、少しだけ読みました」と述べて、その特徴を「神経質で、汗っかきで、心配性。わかりやすくファニーな男ですよね」と説明するのだ。そして、映画版でこの人物をそのまま演じることには抵抗があったとも……。

「はっきり言って、コミックと同じようにロスを演じたくはなかったですよね。神経質な白人男性、カッコいい黒人男性、みたいなものは数え切れないほど作られてきましたから。幸い、ライアン・クーグラー(監督)とネイト・ムーア(プロデューサー)もまったく同じ考えだったんです。彼をどう描けるのか、たくさん話し合いました。」

マーティンはロス役を作っていくうえで、ライアン監督とお互いの意見を交換し、アメリカとイギリスの政治や歴史について話し合ったという。その結果として、ロスは単なるコメディリリーフではなく、きちんと劇中の世界に生きている優秀なCIAエージェントで、ティ・チャラとも確かな関係を築いていくキャラクターになったのだ。

『ブラックパンサー』の撮影中、マーティンはロス役を自分なりの言葉でこのように説明していた

ロスは優秀な男です。高い階級にいる人物としてリアルだと思いますよ。[中略]見聞が広くて、この世界について熟知している。そんな彼にとってもワカンダは驚くべきものなんですが、外交官や国王に会うこと自体は戸惑うことじゃないんです。だから彼のユーモアは、戸惑いではなく、むしろ憤りから来るものだと思いますね。[中略]

彼はスーツを着てるような男じゃない……まあ、実際には着てるんですけど、この地位にいるなら、ロスはエージェントとしての訓練などをきちんと積んでいるはずですよ。とはいえ、現場ですごくアクティブな男ではないでしょうけどね。救える命は救いたいと思っている――そのために自分の時間をすべて投じるわけではなくても――基本的にはまともな人間だと思います。彼の仕事はほとんどが外交ですよ。別の国々や文化からやってきた人々と関わって、自分の課題を解決するのがうまいんです。」

したがってロスの仕事は、時には自分自身が望んでいないこともあれば、誰かが幸せになるとも限らないことすらある。しかし、そんな仕事を遂行しなければならないのがCIAエージェントなのだ。けれどもマーティンは、Toronto Sun誌にて、むしろそうしたキャラクター設定こそが興味深かったと述べているのである。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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