マーベル『ブラックパンサー』エヴェレット・ロス、善人でも悪人でもない「グレー」の魅力 ― 「コミックのように演じたくはなかった」

マーベル・シネマティック・ユニバース作品、映画『ブラックパンサー』は、2016年『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で初登場したワカンダ国王ティ・チャラ/ブラックパンサーを主人公とする初めての単独映画だ。
実はこの作品には、ティ・チャラと同じく、『シビル・ウォー』で初登場したキャラクターが重要なポジションを担っている。マーティン・フリーマンが演じるCIAエージェント、エヴェレット・ロスだ。

本作は主要キャストをほぼ黒人で固めた初めてのハリウッド大作にして、ライアン・クーグラー監督がアフリカに関する描写にこだわり抜いた、映画史上、また文化史上において重要な意味を持つ映画である。そんな作品で、白人を代表して未知なる国ワカンダに入っていくのがロスなのだ。言うまでもなく、その人物描写や俳優の取り組みには、すさまじく繊細な作業が求められることになる。
『ブラックパンサー』の撮影時、そして公開を控えたプロモーションにて、ロス役のマーティンは、その思想やこだわりを含めて、本編からは窺い知れないほどにディープな役柄の解釈を語ってきた。

現実社会に通じる、優秀で「グレー」なキャラクター

もしもあなたが熱心なマーベル・ファン、あるいはマーティン・フリーマンのファンでないとすれば、『シビル・ウォー』のロス登場シーンをすぐに思い出すのは難しいかもしれない。バッキー・バーンズをめぐってキャプテン・アメリカやブラックパンサーらが激しいカーチェイスを繰り広げたのち、バッキーが拘留されたあとに登場するほか、映画の結末では「ある人物」との間で重要な言葉を交わしていたのだ。

Den Of Geekのインタビューによれば、マーティン自身、『シビル・ウォー』が紹介にすぎないことはマーベル・スタジオ側からあらかじめ聞かされていたという。

「『シビル・ウォー』で初登場して、それから数本の映画に出る、そのひとつが『ブラックパンサー』なんだと言われてました。だから(再登場は)常にありえたわけです。『シビル・ウォー』以上に、『ブラックパンサー』ではいろんなことをやらなきゃいけないのも分かっていました。前回はロスという人物をただ紹介しただけでしたからね。」

マーベル・シネマティック・ユニバースのエヴェレット・ロスは、コミックに登場する同名の人物とは性格が大きく異なる。マーティンは「どんなキャラクターなのか知るために、少しだけ読みました」と述べて、その特徴を「神経質で、汗っかきで、心配性。わかりやすくファニーな男ですよね」と説明するのだ。そして、映画版でこの人物をそのまま演じることには抵抗があったとも……。

「はっきり言って、コミックと同じようにロスを演じたくはなかったですよね。神経質な白人男性、カッコいい黒人男性、みたいなものは数え切れないほど作られてきましたから。幸い、ライアン・クーグラー(監督)とネイト・ムーア(プロデューサー)もまったく同じ考えだったんです。彼をどう描けるのか、たくさん話し合いました。」

マーティンはロス役を作っていくうえで、ライアン監督とお互いの意見を交換し、アメリカとイギリスの政治や歴史について話し合ったという。その結果として、ロスは単なるコメディリリーフではなく、きちんと劇中の世界に生きている優秀なCIAエージェントで、ティ・チャラとも確かな関係を築いていくキャラクターになったのだ。

『ブラックパンサー』の撮影中、マーティンはロス役を自分なりの言葉でこのように説明していた

ロスは優秀な男です。高い階級にいる人物としてリアルだと思いますよ。[中略]見聞が広くて、この世界について熟知している。そんな彼にとってもワカンダは驚くべきものなんですが、外交官や国王に会うこと自体は戸惑うことじゃないんです。だから彼のユーモアは、戸惑いではなく、むしろ憤りから来るものだと思いますね。[中略]
彼はスーツを着てるような男じゃない……まあ、実際には着てるんですけど、この地位にいるなら、ロスはエージェントとしての訓練などをきちんと積んでいるはずですよ。とはいえ、現場ですごくアクティブな男ではないでしょうけどね。救える命は救いたいと思っている――そのために自分の時間をすべて投じるわけではなくても――基本的にはまともな人間だと思います。彼の仕事はほとんどが外交ですよ。別の国々や文化からやってきた人々と関わって、自分の課題を解決するのがうまいんです。」

 

したがってロスの仕事は、時には自分自身が望んでいないこともあれば、誰かが幸せになるとも限らないことすらある。しかし、そんな仕事を遂行しなければならないのがCIAエージェントなのだ。けれどもマーティンは、Toronto Sun誌にて、むしろそうしたキャラクター設定こそが興味深かったと述べているのである。

「(『ブラックパンサー』の)キャラクターは、すごく善人でも、すごく悪人でもないところが面白い。だって、現実の世界はもっと複雑ですから。ロスはそんなグレーな部分で生きていて、そこが魅力的なんです。」

またマーティンは、現実世界の社会や人々と照らし合わせながら、自身の演じるロス役についてこう説明する。

「僕は(現実には)白黒いずれかだとは思いませんし、多くの場合、人々はそれぞれ自分のベストを尽くしているわけです。ロスもアメリカのためにベストを尽くしている。
みんな、常に妥協しているし、だいたいはそうしなきゃいけないでしょう。意見が合わない人を全員殺そうとでもしていない限り、間違った方向か、つらい方向か、自分の行く道を選ばなきゃいけない。嫌いな人とでもうまくやっていくためにね。ユリシーズ・クロウはひどい人間ですが、それでも交渉には臨まなきゃいけないんです。」

では劇中で、ロスはティ・チャラやワカンダの人々とどのように関わり、どのように変化していくのだろうか。マーティンは「ロスはティ・チャラが好きですよね、敬意を抱いてますよ」と述べて、そこからストーリーのポイントを紐解いていく。

「ロスは自分が関わるものについて何も知りません。地理的にも、文化的にも、歴史的にも。ヴィブラニウムの影響やその意味も分かってない。クロウが持っていて、武器に使えることは知っていても、まさかそれで一国が成り立っているなんてね。僕がロスのことを好きなのは、使い古された言葉ですけど、彼がある物事を考えて、発見して、視野が広がるという経験をするからなんですよ。」

マーティン・フリーマン、『ホビット』以来の大作映画

マーティン・フリーマン

Photo by Fat Les (bellaphon) https://www.flickr.com/photos/bellaphon/4410297582/
Remixed by THE RIVER

『ブラックパンサー』でエヴェレット・ロス役を演じるマーティン・フリーマンは、1971年生まれの46歳(2018年3月時点)。1997年ごろより舞台・テレビなどで活躍をスタートさせ、のちに映画館でもその存在感を発揮。『銀河ヒッチハイク・ガイド』(2005)で主演を務めたほか、『ベイビー・ドライバー』(2017)のエドガー・ライト監督が手がけた『ホット・ファズ —俺たちスーパーポリスメン!—』(2007)や『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013)などに出演している。
しかし、マーティンを日本で一躍有名にしたのは、ドラマ『SHERLOCK/シャーロック』(2010-)のジョン・ワトソン役だろう。シャーロック・ホームズを演じたベネディクト・カンバーバッチは、マーベル・シネマティック・ユニバースでドクター・ストレンジ役を演じているだけに、いずれエヴェレット・ロスとの対面を望むファンが少なくないのも頷ける。

映画『ブラックパンサー』は、マーティンにとって『ホビット』3部作(2012-2014)以来となる大作映画への本格出演だ。主演に抜擢された同シリーズで、彼は『ブラックパンサー』でユリシーズ・クロウを演じたアンディ・サーキスとの共演を果たしている。久々の再会について、マーティンはワールド・プレミアのインタビューでこう語っていた

「最高ですね。アンディとはロンドンからの友人で、『ホビット』で共演して。彼は本当に楽しい人だし、一緒に仕事をするのはすごく嬉しいんです。」

ちなみに『ホビット』の中つ国と『ブラックパンサー』のワカンダ、二つの世界観を比較すると……?

「どちらも、とっても感動的ですよ。この手の映画を撮影するのは、ものすごく想像力を必要としますね。『ホビット』を観て、お客さんは“あっ、このシーンは駐車場で撮ってるな!”とは思わないでしょう。実際はそうだったわけですけど。」

映画『ブラックパンサー』は2018年3月1日より全国の映画館で公開中。

Sources: https://screenrant.com/black-panther-set-visit-martin-freeman-interview/
http://www.denofgeek.com/us/movies/black-panther/271044/black-panther-reinventing-everett-ross
http://torontosun.com/entertainment/movies/hes-no-goofy-white-guy-black-panthers-martin-freeman-explains-what-makes-his-character-tick
Photo by Fat Les (bellaphon) https://www.flickr.com/photos/bellaphon/4410297582/ Remixed by THE RIVER

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THE RIVER編集部。わかりやすいことはそのままに、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすくお伝えしたいと思っています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp へ。

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