マーベル『ブラックパンサー』武器商人ユリシーズ・クロウの狂気とユーモア ― 名優アンディ・サーキスが人物造形を語る

マーベル・シネマティック・ユニバース作品『ブラックパンサー』で、久しぶりに観客の前に姿を現す男がいる。
2015年『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で、ウルトロンの求めに応じて登場した武器商人ユリシーズ・クロウだ。ワカンダで採掘される、地球最強の金属ヴィブラニウムを使用して完璧な身体を手に入れようとしたウルトロンは、激昂して彼の左腕を切り落としているのだ。本作でユリシーズ・クロウは、予告編にもある通り、失われた左腕に武器を装着してティ・チャラ/ブラックパンサーと対峙する。
『エイジ・オブ・ウルトロン』につづいてクロウ役を演じるのは、リブート版『猿の惑星』シリーズのシーザー役や『スター・ウォーズ』新3部作のスノーク役など、現代最高のモーション・アクターとして知られるアンディ・サーキス。今回は生身の肉体と演技力をもって、恐ろしくも魅力的な悪役を“怪演”している。
モーション・アクターである以前に一人の名優たるアンディは、この役柄をいかに解釈し、その内面をいかに掘り下げていったのだろうか。本記事ではその細やかなアプローチに迫っていきたい。
『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』から現在まで
そもそもアンディは、当初『エイジ・オブ・ウルトロン』に出演者としてではなく、まったく別の役割で関わっていたという。彼の設立したモーションキャプチャー・スタジオ「ジ・イマジナリウム」は、ハルク役のマーク・ラファロ、ウルトロン役のジェームズ・スペイダーのため、自社技術を同作に提供していたのだ。その過程で、ジョス・ウェドン監督に出演を打診され、クロウ役を引き受けたのだという。
英Den Of Geekのインタビューで、アンディはクロウの再登場について、「『ブラックパンサー』の映画があるなら、そこに出てくる予感はありましたよ。コミックの世界で、クロウが主要な悪役であることは知ってましたから」と述べている。
「ジョスが呼んでくれた時、(『エイジ・オブ・ウルトロン』が)紹介の類であることはわかってました。でも、どうなるのかは知らなくてね。どんな可能性があるのかは分かってなかったですよ。ライアン(・クーグラー監督)は、クロウを楽しいキャラクターにしたがってましたね。」
では、左腕をウルトロンに斬られてからあと、クロウはどこで何をしていたのだろう? アンディは、映画で描かれていない空白の時間をこのように想像している。
「物事の大小はあれ、彼はずっと世界に混乱を起こし続けていたと思います。彼は武器商人であり、ビジネスマンですから、ある意味で賢い男ですよ。うまく姿をくらませて、世界中のあちこちで傭兵と一緒に仕事をしている。ウサギの穴に飛び込んで、別の場所に現れるんです。賢いんですが、ちょっと正気じゃないですよね。」(米Screen Rant)
『ブラックパンサー』でクロウを再演するにあたって、アンディはコミックを読み込み、あらゆるストーリーやエッセンスを自分に吸収していったという。『エイジ・オブ・ウルトロン』とは異なり、本作では首尾一貫した一人の人物として、その造形をきちんと形づくっていく必要があったのだ。Den Of Geekでは、アンディがキャラクターの背景を演技に活かしたことが語られている。
「クロウは南アフリカのボーア人(編注:南アフリカに居住する、ヨーロッパからアフリカに入植した白人)で、いつも有色人種には偉そうにしていました。つまり、差別主義者としての要素がある。クロウはキルモンガーと話す時、彼を昔の南アフリカなまりで“ガキ(boy)”と呼びます。彼が育ったアパルトヘイト(編注:白人と有色人種の隔離政策)の感覚が、今も一切消えていないんです。」
一方でアンディは、クロウ役について「タガの外れた男を演じるのは楽しかったですよ」とも振り返っている。彼は「世界の“奪う者”を象徴する男」であり、そこに他者への感情はさほど差し挟まないように留意したようだ。
「彼が誰かに与えたり、貢献したり、気遣ったりすることはありません。誰にもまったく共感しないんです。できるだけ多くのヴィブラニウムを手に入れることで頭がいっぱいなんですよ。武器商人で、政府とも仕事をする優秀な交渉人で、誰とも近しい関係を築かない。でも、彼を魅力的に見せたい、酒を飲みに行くのも悪くないと思わせるキャラクターにはしたかったんです。本当に危険な人物だと気づくまでは、一緒にいると楽しい男なんだって。」
こう語るアンディの言葉からは、クロウを複雑な人間として、魅力的に、かつ恐ろしく体現しようと苦慮を重ねたことがわかるだろう。実際に『ブラックパンサー』の撮影中、彼はそのアプローチを非常に端的な言葉で説明していた。
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