巨匠スタンリー・キューブリック、未発表脚本が62年ぶりに発見される ― 「完全な脚本であり、映画化も可能」

映画『2001年宇宙の旅』(1968)や『時計じかけのオレンジ』(1971)、『シャイニング』(1980)などで知られる巨匠監督スタンリー・キューブリックが若かりし頃に執筆した未発表脚本が、実に62年ぶりに発見されたことがわかった。英The Guardian誌が伝えている。

このたび発見された脚本は『Burning Secret』と題された作品で、オーストリアの作家シュテファン・ツヴァイクが1913年に発表した同名短編小説を脚色したもの。あるリゾートを舞台に、30代のハンサムな男が、母親を誘惑するため10歳の息子と友人になる、いわゆる不倫を描く物語だったという。
原作小説はオーストリアを舞台にユダヤ人親子が登場するものだったが、キューブリックはこれをアメリカを舞台としたアメリカ人の物語として脚色。執筆されたのは1956年で、キューブリックとともに作業にあたったのは、のちに『突撃』(1957)でもキューブリックとの共同作業を経験する作家のカルダー・ウィリンガムだった。

脚本を発見したのは、キューブリック研究の第一人者として知られる、英バンガー大学のネイサン・ウィリアムズ教授。キューブリックの遺作『アイズ・ワイド・シャット』(1999)についての著書を執筆するため、リサーチのさなか脚本を見つけたという。なお、所有者はキューブリックと以前仕事をしていた人物の息子だった。

ウィリアムズ教授によると、『Burning Secret』がキューブリックが実現を熱望したプロジェクトだったことは知られていたものの、その脚本は失われたと考えられていたため、「誰も完成しているとは思っていなかった」そう。脚本には米国の映画スタジオMGMによる1956年10月24日付のスタンプが捺されており、『現金に体を張れ』(1956)に近い時期に完成していたのではないかとみられている。

当時、MGMが『Burning Secret』の映画化から手を引いた理由には複数の説が存在する。ひとつは、キューブリックが同社との契約に違反して『突撃』に携わっていたことが発覚したからだというもの。もうひとつは、スタジオが脚本への可能性を感じなかったというものだ。

 

またエイブラムス教授は、当時、この脚本の“子どもが不倫の仲介役として利用される”という内容がハリウッドの倫理コードに抵触するリスクが危惧された可能性もある指摘。本作について、同じくキューブリックがウラジーミル・ナボコフの同名小説を映画化した『ロリータ』(1962)の「逆転版」であると説明している。

「『Burning Secret』では主人公が母親に近づくため、その息子と友人になります。『ロリータ』では、主人公が娘を手に入れるためにその母親と結婚する。1956年の検閲制度を(『Burning Secret』が)くぐり抜けるのは難しかったでしょう。しかし1962年、彼は『ロリータ』でなんとかそれをやってのけたわけです。」

なおエイブラムス教授によれば、『Burning Secret』は「完全な脚本であり、現代のフィルムメーカーによって(映画として)完成させることも可能」だという。もしかするとこの未発表脚本は、遠からず長い年月を超えて甦ることになるかもしれない。

Source: The Guardian
Eyecatch Image: Public Domain

About the author

THE RIVER編集部。わかりやすいことはそのままに、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすくお伝えしたいと思っています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp へ。

JOIN THE DISCUSSION

※承認されたコメントのみ掲載されます。