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ジェームズ・キャメロンは「丸くなった」? ─ かつての怒れる監督が学んだ「映画が一番大事なのではない」という事実

ジェームズ・キャメロン
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/28003289954

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』公開を迎えたジェームズ・キャメロンには、長年つきまとう評判がある。“怒れる監督”“恐怖政治の完璧主義者”。90年代に『タイタニック』(1997)や『アビス』(1989)の現場で語られた逸話は、彼を「扱いづらい天才」の象徴へ押し上げてきた。

だが、71歳となった現在ではずいぶん柔らかい人柄になったようだ。それは、単なる「性格が穏やかになった」という話ではない。キャメロンは相変わらず鋭いし、要求水準も高い。ただ、その刃の振るい方が変わったようだ。

『タイタニック』(1997)でローズを演じたケイト・ウィンスレットは米The New York Timesの特集で振り返る。「正直、彼が怒鳴る場面もあったし、みんなにとって難しい瞬間もあった」。それでも彼女は、いまのキャメロンについて「今のジムは違う人だ」と語る。

その変化を、別の角度から照らすのがシガニー・ウィーバーのエピソードである。『エイリアン2』(1986)でリプリーを演じ、現在も『アバター』シリーズでキリ役を担う彼女は、キャメロンの“別の顔”を知る人物だ。『エイリアン2』撮影が終わった後、ヴェネツィア国際映画祭で一緒に食事をした際、彼が「とてつもなく面白く、機知に富んだ」魅力的な男性だったことに驚いたという。「『エイリアン2』の撮影中にその性格が出せなかった理由はわかります。特に彼にとっては過酷な撮影でしたから。言うならば、彼と『アビス』を撮らなくて良かった」。

監督としてのキャメロンと、人としてのキャメロン。そこに落差があった。決定的なのは、『エイリアン2』の現場で彼女が目撃した場面だ。若い俳優が扱いづらい小道具に苦労していたとき、キャメロンは厳しく当たっていた。そこでウィーバーは、こっそり近づいてこう伝える。「一人の俳優を叱るのは、私たち全員を叱るのと同じ。彼女が実はすごく難しいことを頑張っていると、わかってあげて」。そして「別のシーンを撮って、あの子が慣れる時間をつくるのはどう?」と提案する。

キャメロンはこの助言を受け入れたという。ウィーバーは「彼はいい人。ジムは本当に丸くなったと思う」と変化を認める。だが、ここで「丸くなった」と言うのは、温厚になったというより。“チームの力を引き出す方法を覚えた”という意味に近い。

『アバター』シリーズで悪役クオリッチ大佐を演じるスティーヴン・ラングもまた、キャメロンの変化を「年月を経て柔らかく、軽くなった」と表現し、「自己改善の道を歩み始めた」と評価する。面白いのは、ラング自身がそれを「意識的にやったとは限らない」と語っている点だ。変化は“改造”ではなく、経験によってじわじわと沈殿し、染み込んでいく。キャメロンはそれを「mellow(丸くなる)」ではなく「marinating(漬け込んでいる)」と呼ぶ。

では、何が彼を漬け込ませたのか。見えてくるのが、初期キャリアにおける成功体験の歪みである。若い頃の彼は、怒りによって現場を動かし、結果を出すことで“強化”されてしまった。うまくいった。だから繰り返した。しかしその後、深海探査のような命のやり取りを伴う現場で「問題を解くにはチームの敬意が必要だ」と学んでいく。『アバター』に入る頃、彼の優先順位は変わったという。「映画が一番大事なのではない。人との接し方や創作プロセスが大事で、そっちのほうが結果的に良い映画になる」。

『アバター』は家族サーガであり、テクノロジーの祝祭であり、同時に「人間は地球をどう扱うのか」という寓話でもある。これほど巨大な世界を長期にわたり束ね続けるには、単なる強権では足りない。制作が巨大化し、時間が延び、人が増えるほど、監督の能力は「怒りの瞬発力」より「信頼の運用力」が大切になる。キャメロンは、そのことを身をもって理解したのだろう。

もちろん、刃が消えたわけではない。キャメロンは「誰にだって悪い日はある。仕事をしていないなら邪魔をするな」とも言う。遠慮なく刺す言葉を持ち続けている。また、最近出演したポッドキャスト番組では、『エイリアン2』で自身が築き上げたキャラクターが『エイリアン3』(1992)の冒頭であっさり死亡させられていた展開については「クソバカだと思ったね」「全く賢い連中だ」と皮肉を放ってみせた。

今後は2031年予定の『アバター5』まで監督を続ける意向。ほか、『ターミネーター』シリーズの完全新作や、広島・長崎への原爆投下を題材とする映画作品など注目の企画が控えている。

Writer

アバター画像
Joe Kishi

THE RIVER編集部。ハリウッド大作からインディー作品、アニメーションまで幅広くカバー。魂を揺さぶる瞬間に出会える記事を届けたい。

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