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『ある女流作家の罪と罰』ついに日本へ、メリッサ・マッカーシー主演の必見作を解説 ─ 劇場未公開を惜しむ声と絶賛相次ぐ

ある女流の罪と罰
(C) 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

「リー・イスラエルさんですよね?」

脚本家のジェフ・ウィッティーは、ニューヨークのゲイバー”Julius”で偶然見つけた中年女性に声をかけていた。「私はジェフ・ウィッティー。今、あなたについての映画の脚本を書いているんです。」この時ジェフは友人とコスプレをしていて、頭からはウサギの耳が伸びていた。決して社交的ではない中年女性は答える。「ああ、私ね、あんた達があのウサギ耳の連中とまとめて早く帰ってくれないかなって見てたのよ。

マリエル・ヘラーは、ニューヨークのかかりつけセラピストの元を訪れていて、今度自分が監督する映画について話していた。90年代の落ち目の作家が主人公で、お金がなくて、ノエル・カワードやドロシー・パーカーといった著名な作家の手紙を捏造して捕まった人なんです。するとセラピストはこう返した。

リー・イスラエルさんですよね?彼女、このビルに住んでたんですよ。私がリー・イスラエルをどう思ってたか、知らない方が良いかも。いい人ではなかったですよ。」

日本未公開が惜しまれる必見作『ある女流作家の罪と罰』

リー・イスラエル。実話映画『ある女流作家の罪と罰』で描かれる、2014年に他界した伝記作家の名だ。メリッサ・マッカーシーが愛と悲壮を込めて演じ上げた彼女が犯すことになる奇妙で無自覚な犯罪ドラマを、The Guardian「ユーモアと哀愁の狭間を優雅に切り開いた」と評した。ジェフ・ウィッティーが『おとなの恋には嘘がある』(2013)などのベテラン、ニコール・ホロフセナーと共に書き上げた脚本の巧みさ、2016年にインディペンデント・スピリット賞で新人作品賞を受賞したばかりのマリエル・ヘラー監督の手腕も各所で評価されている。

この物語と評判が、ここ日本へ上手く届いていないのも無理はない。本作『ある女流作家の罪と罰』は、日本では劇場公開が見送られていたからだ。国内では2019年6月19日にデジタル先行配信され、7月3日にDVDがリリース、ついに日本の映画ファンの元に届くことになる。

ある女流の罪と罰
(C) 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

「心に残る作品」「なぜ劇場で観られないんだ」(”にいみゆき”さん)。2019年6月、THE RIVERはこの作品特別上映会を開催。参加した読者からは、日本公開見送りを惜しむ声が続々と上がった。「こんなにも良い作品は、劇場で是非公開して欲しかったです。」(”Ayako”さん)

「人間くさく、元気をもらえる作品でした。」(”岡すみれ”さん)「静かに心に染み入る作品。」(”クラウス・フォアマン”さん)「ドラマとして趣深く、ほろ苦さが良かった。」(”かに太郎”さん)「味わい深かった。51才、無収入、恋人なし、金なし、猫だけが友だちというキャラクターがどうしても他人とは思えないというか、性格はヒドいけど嫌いになれない。」(”ジェシカ”さん)……THE RIVER特別上映会に参加した読者からも大評判のこの良作、一体どんな作品なのか?この記事では、ついにDVDで観られることになる『ある女流作家の罪と罰』の見どころや解説を、読者の声と共に詳しくご紹介しよう。

「私が創った偽物は、本物よりも価値がある」

『ある女流作家の罪と罰』には、ノンフィクションならではの生々しい波乱が描かれている。伝記作家のリー・イスラエルは、かつてはニューヨーク・タイムズのベストセラーリストにも選ばれるほど、物書きとしての才能と名誉を手にしていた。ところが50代に突入した今では全く売れなくなり、物価がべらぼうに高いニューヨーク暮らしの現実が重くのしかかる。家賃も払えず、唯一の癒しである飼い猫の治療費すらも払えない。仕方なく古本をまとめて売りに出かけても二束三文にしかならないばかりか、書店員には「あのセール品の作家ですね」と貶まれる始末……。

切羽詰まったイスラエルは、自分が以前伝記を書いた大女優キャサリン・ヘプバーンから贈られた手紙を売りに出すことにする。どうやら、私的な内容が書かれた手紙ほど高く売れるらしいと気付いたイスラエルは一線を越え、著名人の手紙の捏造に手を出してしまう。手口は次第にエスカレート。作家としての文才を武器に著名人になりきって、完全にでっち上げの手紙まで偽造するように。用紙はオーブンで焼いて、それらしい古紙に見立てた。始めのうちは鑑定員からも「これはすごい」と興奮されて売れたものだが、次第に捏造を疑う声が現れ始めて……。

ある女流の罪と罰
(C) 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

「『フローズン・リバー』や『やわらかい手』など、平凡なオバハンが犯罪やいかがわしい職業に手を染めてしまう映画は傑作が多い中で、この映画はうまいことコメディとシリアスが融合されていて、オバハン映画のトップ5に君臨するかもしれません。」「リー・イスラエルが人間臭くて愛おしい。」(”フシキアキオミ”さん)

ニューヨーク在住の作家というカッコいい響きとは裏腹に、イスラエルの才能はもはや枯れている。このままでは生活もままならない。もう、私の作家人生は終わったのだろうか。彼女が手紙の捏造に手を染めた理由には、もちろん「中年の危機」もあるだろう。しかし、そこに「やり甲斐」があったらしいことも事実だ。本作のキャッチコピーを見ると、「私が創った偽物は、本物よりも価値がある」、とある。つまりイスラエルにとって、捏造は立派な創作活動であり、作家として、そして人間として生きるための手段だったのである。果たしてあなたは、この「罪」に下る「罰」が予想できようか。

コメディ女優からドラマ女優へ メリッサ・マッカーシーの名演技光る

結果としてFBIをも騒がせた以上、イスラエルの劇中を通じた行動は、紛れもなく犯罪である。それでも観客はいつの間にか、イスラエルに心を寄せていることに気付く。これは、主演メリッサ・マッカーシーの深みある演技が成せる技だ。

『ゴーストバスターズ』(2016)など、コメディ女優としての印象がひたすらに強かったメリッサが突如として見せてくれた新たな一面を、批評家や観客はこぞって大絶賛。米映画批評サイトのRotten Tomatoesでは98%(本記事時点)という極めて優れた批評家スコアを叩き出しているが、そのレビューの多くがメリッサの演技力を称えるものだ。たとえば、「これはメリッサの覚醒だ」「メリッサのキャリア最高到達点」「哀れだが共感できる演技が素晴らしい」「コメディ女優からドラマティックな女優への転身」…、こんな絶賛が並ぶ。2019年のアカデミー賞でも主演女優賞にノミネート、最も受賞が有力視された候補者となった(実際には同じFOXサーチライト作品である『女王陛下のお気に入り』オリヴィア・コールマンが射止めた)。

当然、メリッサのこれまでのコメディエンヌ的印象を大きく覆すような本作に驚く声も多い。しかしメリッサは、「どんな映画なのか、どんなスタイルなのかは特に気にしたことがない」と米Forbesに語っている。「私が気にするのはキャラクターとストーリー。本作が、これまでの自分とは違うなと考えたことはありません。」

ある女流の罪と罰
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ところで本作の主演がメリッサ・マッカーシーに定まるまでは紆余曲折があったことで知られる。もともと、『エデンより彼方に』(2003)『アリスのままで』(2014)のジュリアン・ムーアが演じる予定だったが、撮影開始6日前になって突如降板。続けて前監督も降板し、企画は宙吊り状態になった。

後にメリッサが本作を認知したのは、夫のベン・ファルコンが出演者として加わっていたのがきっかけ。共に役者であるこの夫妻は、互いの出演作の脚本を読み合ってはお喋りするそうで、メリッサは本作の脚本もそんな日常の中で手にしていた。メリッサは「これは凄い、私が今まで読んだ中でも最高の脚本だ」と驚いた。特にリー・イスラエルの人物像をいたく気に入り、「なぜ私は今までリー・イスラエルを知らなかったのだ」とも。企画が凍結したと聞くと、それでは一体誰がこの物語を世に伝えるのかという気持ちに駆られたという。「私もこの映画が観たい。彼女の物語が観たい。」メリッサが主演に選ばれたのは、彼女自身が立候補したためだ。

メリッサ・マッカーシーって、こんなに繊細が演技ができるのか」上映会に参加した”クラウス・フォアマン”さんは驚いた。”kurumi”さんは「主人公のリーの表情がどんどん変わってゆく」作品の流れを見逃さない。”ろばすけ”さんは、イスラエルのこじらせたようなプライドの高い性格をメリッサが見事に演じていたとレビュー。そんな名演技に心掴まれた”たか”さんは、最後には大号泣してしまったという。「リー・イスラエルはダメ人間なはずなのに、気持ちが痛いほど分かってラストはボロボロでした。

Can You Ever Forgive Me?

「あんた達があのウサギ耳の連中とまとめて早く帰ってくれないかなって見てたのよ。」実際のリー・イスラエルは、自分の映画の脚本家を冷たくあしらうほど(後日2人は仲良くハンバーガーを食べたとのこと)、人付き合いに興味がない無愛想なタイプ。良く言えば、すごく正直なのだ。生活のため、そして己の創作意欲に正直に導かれるがまま手紙の捏造を繰り返したイスラエルは、たどり着いた数奇な運命の果てで一体何を思うのか。

映画の原作は、イスラエル自身がこの出来事を自伝としてまとめた著書で、そのまま原題『Can You Ever Forgive Me?』となっている。「私を許してくれますか?」さあ、あなたはどう答えるか。等身大に情けなくて哀しいけど、前向きで愛のあるリー・イスラエルの罪と罰を、DVDでじっくり。

『ある女流作家の罪と罰』

ある女流の罪と罰
(C) 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

ベストセラー作家から転落したリーは、今ではアルコールに溺れ、仕事も続かず、家賃も滞納、愛する飼い猫の病院代も払えない。生きるために著作を古書店に売ろうとするが店員に冷たくあしらわれ、かつてのエージェントにも相手にされない。

どん底の生活から抜け出すため、大切にしていた大女優キャサリン・ヘプバーンからの手紙を古書店に売るリー。それが意外な高値で売れたことから、セレブの手紙はコレクター相手のビジネスになると味をしめたリーは、古いタイプライターを買い、紙を加工し、有名人の手紙を偽造しはじめる。

様々な有名人の手紙を偽造しては、友人のジャックと売り歩き大金を手にするリー。しかし、あるコレクターが、リーが創作した手紙を偽物だと言い出したことから疑惑が広がり、ついにFBIが捜査に乗り出す。もう偽造した手紙を売ることはできなくなったリーは、ジャックの提案で有名人の手紙の原本を図書館から盗み出すことにするが…。

『ある女流作家の罪と罰』は、デジタル配信中。2019年7月3日(水)DVDリリース。

映画『ある女流作家の罪と罰』公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/canyoueverforgiveme/

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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