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【インタビュー】『囚われた国家』ルパート・ワイアット監督、〈支配〉と〈抵抗〉を重層的に描く ─「もしもケン・ローチがSF映画を撮ったら」

囚われた国家
© 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

近未来、エイリアンに支配されたアメリカを舞台にレジスタンスたちの戦いを描くSFサスペンス『囚われた国家』が2020年4月3日(金)に公開される。政府による事実の隠蔽、メディアを巻き込む情報操作など現代的なテーマを盛り込み、「起こりうる未来への警告」とも評された一作だ。

地球外生命体の侵略から9年後、2027年のシカゴ。政府は“統治者”と呼ばれるエイリアンの管理下に置かれていた。犯罪抑止という名のもと、全市民の身体にはGPSが埋め込まれ、ルールを犯した者は地球外に追放される。貧富の差はかつてないほど拡大し、街は荒廃。自由を取り戻すべく結成されたレジスタンス・グループは、“統治者”による団結集会への爆弾テロを計画し……。

確かに「SFサスペンス」でありながら、現代を撃つポリティカルな群像劇。しかも、演出は非常に抑制されたドキュメンタリー・スタイル。この意欲作を手がけたのは、『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(2011)の鬼才ルパート・ワイアットだ。THE RIVERでは、そのインスピレーションの源泉から、脚本執筆・撮影など創作の秘密までをじっくりと聞いた。

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「支配についての普遍的な物語を描きたかった」

──非常に現代的なテーマのストーリーです。時事的なテーマを意識されたのか、それとも監督の構想に現実が近づいてきたのでしょうか。

現代のアメリカだったり、どこか別の国の政治を参照したわけではありませんでした。むしろ、支配についての普遍的な物語を描きたいと思っていたのです。ネアンデルタール人の部族が別の村を支配したこと、ナチスドイツがフランスを侵略したこと、フランスがアルジェリアを侵略したこと、そういう“支配”の文脈でストーリーを語りたかった。外部から現れた人々に、人間がどのように抵抗するのかということも。

──そういう意味で、映画や小説など既存の作品にインスパイアされたところはありますか?

『アルジェの戦い』(1966)や、フランスの映画監督ジャン=ピエール・メルヴィルが晩年に撮った『影の軍隊』(1969)には大きな影響を受けています。『影の軍隊』は、メルヴィル自身がフランスのレジスタンス運動に参加していたことについての映画ですし、僕は今回のストーリーを、支配する側と抵抗する側、両方の視点で描きたいと考えていました。『アルジェの戦い』では、まずレジスタンスを鎮圧する中佐の視点でフランス側を描いておいて、それからアルジェリア人のレジスタンスの視点を見せる。だから僕は今回、若いアフリカ系アメリカ人(ガブリエル)が兄を理由にレジスタンスに入ること、ジョン・グッドマン演じる警察官がレジスタンスを弾圧することの両方を描きたいと考えたんです。

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──レジスタンスのメンバー、司令官、その周囲の人物を含めた群像劇でもありますが、監督自身が最も感情移入して描いたキャラクターを教えてください。

アシュトン・サンダースが演じてくれたガブリエルですね。若い彼の視点からすべてを見せたいと思っていました。ガブリエルはとにかく普通の生活を送りたい。ガールフレンドがいて、監視されていることが普通の“日常”から逃れられる、そんな生活を望んでいるんです。

──では、逆に最も描くのが難しかったキャラクターは?

えっと…それも、きっとガブリエルだと思いますね。普通のストーリーならガブリエルが主役になるんでしょうが、この映画はそういうアプローチではなく、いくつもの視点から物語を描きたかった。だから、ガブリエルに十分な出番を与えて、観客にきちんと感情移入してもらいつつも、同時に大勢のキャラクターがいる世界も見せていかなければいけなかったんです。たとえば「レジスタンスの戦士たちを描くのに20分は必要だな…」とか、いろんなところでバランスを取っていくのが大変でしたね。

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──意外なお答えで驚きました。ジョン・グッドマン演じる司令官マリガンは非常に複雑なキャラクターなので、苦労されたのではないかと思っていたんです。

この作品がジャンル映画として珍しいのは、確かに敵はエイリアンですが、人類側の政府が彼らと協力していて、いわばエイリアンたちの“顔”となっているところ。実際のエイリアンと、彼らに協力している人類、2種類の敵が存在するわけです。だけどジョン・グッドマンの役柄は、エイリアンに協力する人々でありながら、ほかの協力者たちとは明らかに違う。ジョンはあらゆる側面を同時に演じなければいけなかったんです。でも、だからこそ我々は、とても魅力的な人物になっただろう、マリガンという役柄の多くをあえて見せないことにしました。非常に曖昧な存在にすることで、どんな人物なのかを掴みづらい、共感しづらいキャラクターにしたんです。

だけど、これは大きなチャレンジでした。だって、マリガンを演じるのはジョン・グッドマンで、彼は伝説的な俳優でありパフォーマーですから。彼はいろんなものを役柄に取り入れてくださいましたし、観客もそういうところを期待しますよね。それが観られないとすると、観客が混乱してしまうかもしれない。だから、キャラクターという意味でも、ジョン・グッドマンが演じているという意味でも難しい選択でした。

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もしもケン・ローチがSFを撮ったら

──ドキュメンタリー・タッチで撮ることは最初から決めていたのでしょうか? 撮影現場では、どれくらい俳優に演技を委ねられたのでしょう。

今回は『アルジェの戦い』や『影の軍隊』だけでなく、『無防備都市』(1945)のようなネオレアリズモの映画もたくさん参照しました。だから、脚本を書く時点でそのつもりでしたね。シーンの内容、登場人物のセリフは脚本に忠実に撮っています。けれども、俳優たちに立ち位置や動きは任せましたよ。俳優に任せるのと、カメラを基準に決めるのではまったく違うんですが、今回はカメラが俳優を追うことにしました。おかげで、“君はこの椅子に座って、あそこにいる俳優に向かって喋ってね”みたいな演出を付けるよりも、ずっと自然な演技を撮ることができましたね。自由に演じてもらうことで、俳優と一緒に物語を具現化していくことができたと思います。

──ということは、スタッフの皆さんは大変だったのでは……。

そうそう、その通りですよ。そもそも、物理的に大変なスケジュールだったんです。撮影期間が38日間しかないのに、セリフを喋る役は120人以上出てくるし、ロケーションも40以上ある。だからすごい速度で撮っていきました。(ドキュメンタリー・タッチの作風は)プリプロダクション(撮影準備)の時点で決めたところもあるんです。いわゆる一般的なやり方、1台のカメラで撮る方法では絶対に間に合わないと分かったから。脚本をカットするのではなく、ドキュメンタリーのようにシチュエーションに人物を放り込み、なんとか撮りきったという感じ。とても怖かったけれど、すごくエキサイティングでした。

僕の大好きなイギリスの映画監督にケン・ローチがいて、彼はSFやジャンル映画はまったく作っていない、非常に現実的な、リアリストのフィルムメーカー。だけど今回は、彼が映画を作るようなやり方で作品に取り組んだらいいんじゃないかと思ったんです。俳優には自由を与え、そのぶんプレッシャーも与える(笑)。

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──ところで、やけにエイリアンの造形がグロテスクですよね。劇中にはモビルスーツなどのカッコいいデザインも見受けられますが、どうしてエイリアンはこんなにグロテスクなんでしょうか…。

エイリアンの外見は、イギリスの彫刻家、アントニー・ゴームリーの作品を参考にしました。棘などを使って人間の像などを作っているアーティストで、それがエイリアンの造形として面白いんじゃないかと思ったんです。(見た目は強そうだけれど)実際には非常に脆い。政治的なことを抜きにしても、現在の世界で、我々のリーダーの多くはとても年を取っていますよね。肉体的には弱い存在だけれど、すさまじい力を持っている。政治的、精神的に強い権力を持っているわけです。エイリアンをそういう感じにしてみたらどうかな…と思い、非常に攻撃的かつ恐ろしい外見にしました。けれども、それを一旦はがしてしまえば、実際の彼らはヨボヨボの老人みたいなものなんですよね。

映画『囚われた国家』は2020年4月3日(金)よりイオンシネマほか全国公開

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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