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ヘンリー・カヴィル、MeToo運動に関する発言が波紋 ─ 謝罪文を発表へ

Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/19509955158

『マン・オブ・スティール』(2013)などで、正義の象徴でもあるスーパーマン役を演じ、出演最新作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』も控える俳優のヘンリー・カヴィルが、米GQ誌に向けて語ったインタビュー発言で波紋を呼んでいる。勇気を持ってハラスメント行為を告発する#MeToo運動に関する意見を求められたときの回答が不適切であるとの声が相次いだのだ。

これを受け、ヘンリー・カヴィルが代理人を通じて謝罪文を発表する事態にまで発展。この記事では、事の顛末を記しておきたい。

Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/19509955158

スーパースターへのクリプトナイト

発端となったのは、オーストラリアで特派員として活動する男性記者アダム・バイダイ氏が米GQ誌でカヴィルに行ったインタビュー。「ヘンリー・カヴィルが学んだ最大の教訓とは”心が取り乱されても、対処できるのは自分だけ”」と題したこの記事は、記者がカヴィルへのインタビューに挑む前後の物語が、ルポ形式で書き記されている。フライトを乗り継ぎ、ようやくカヴィルのもとに辿り着いたことや、インタビュー終了後にやりとりを録音したレコーダーを何者かにひったくられるも、予備のレコーダーを使用していたため事なきを得た、などの苦労が綴られている。

このように、一筋縄ではいかなかった取材の裏話を添えることで、記事は俳優ヘンリー・カヴィルをスーパーマンそのもののように、浮世離れしたスーパースターとして描いている。記事には16枚の撮り下ろし写真が掲載された。柔らかな日差しにアンニュイな視線を落とすカヴィルは、はだけたシャツの隙間から男らしい胸毛を覗かせている。馬と戯れ、楊枝を加え、50年代の映画スターのようなオーラをまとったカヴィルは、古き良き男性像を体現しているようにも見える。

記者は、カヴィルの写真撮影時の様子をこう書き起こしている。

「カヴィルは、手を額に、もう一方の手を鼻の方にやり、しっとりとした声と共に動きを止めた。トム・フォードのニットとプラダのローファーを着用して。女性は失神。男性も失神。ショーが始まった。」

記事本文からは、記者もカヴィルの持つスーパースター然としたオーラに呑まれているような様子も伺える。「ヘンリー・カヴィルと話していると、苛立ってもくる。礼儀にこだわり、己の完璧さにもこだわる。近くにいると、信じられないほど心地よい」とか、「カヴィルは、バカげたほど見た目が整った、成功を収めた俳優だ」と気圧されている。

インタビューは、カヴィルのマネージャーも同席して、「ここ5年は使われていないような埃っぽいオフィス」で行われた。記者は、カヴィルからネタを引き出そうとするも、どうやら苦戦を強いられたようだ。かつて太っていて、いじめられっ子だった頃、映画の撮影で学校にやってきたラッセル・クロウとの出会いが俳優を目指すきっかけになったというエピソードを引き出すが、「このネタはもう何度も語られているものだ」と、手応えを感じていない。

確かに、GQ誌の記者がカヴィルから得た「撮れ高」は本質的には多くない。カヴィルが語っているのは、先のラッセル・クロウとのエピソードや、スーパーマンの好きなところ、『ミッション:インポッシブル』の現場でトム・クルーズがいかに優れた人物であったか、Instagramなどで自分の写真を見かけたとき、写りが悪いとあまり良い気がしないという話、ガールフレンドがいると日常の出来事をシェアできるから良いことだ、など、他愛もない話に寄っている。

#MeTooへの考え

そうこうしているうち、インタビュー終了時間が残り1分半に差し迫る。記者はここで、突然「#MeToo運動から学んだことは何か」という質問をぶつけるのである。どういう文脈だったのかまで記されてこそいないが、#MeTooの話題は急に出現している。問題視されたのは、ここからのカヴィルの回答内容だった。

「幸いにも、そういう振る舞い(=ハラスメント行為)を働くような人は、自分の周囲にはいませんでした。僕の記憶では、後になって”あぁ、あれはマズかったかな”と思うような出来事はなかった。一緒に仕事をしてきた人たちの中にも、女優と親しくなりすぎるような状況があったと思います。そんな時、僕は歩み寄って、”ねぇ、大丈夫?気持ち悪いよ”と言うんです。」

日本でも大きな話題になったように、#MeToo運動とは恒常化していた男性から女性へのハラスメント行為を告発し、被害撲滅を訴えるもの。2017年にハリウッド業界を中心に反響があり、大物映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが過去数十年にわたって女優へのセクハラ行為を行っていた事実が暴かれて失脚。他にも各所で多数の告発があった。

#MeToo運動を受けて、女性への接し方に影響はあったか、と尋ねられて「特にないと思います」と答えるカヴィルだが、これより危うい発言が続くことになる。

誰だって、ライトに照らされたら、”わかったわかった、そう言われるなら、そうなんだろう”となる(=認めざるを得なくなる)でしょう。」

一連の話題に触れるにあたって「慎重にならなければいけない」と弁えながら、カヴィルは自身の恋愛観について語る。「社会環境における男女の駆け引きには文脈があり、それは許容されるもの」で、「男性が女性を追うというのは素晴らしいことだと思います。これが伝統的なアプローチの仕方で、素敵だと思います。女性というのは、求められ、追われるべきだと思う。でも、多分僕の考えが古風なんでしょうね」と持論を展開する。

最も波紋を呼んだのが、次の発言である。「男が女を追いかける」という構図を好むカヴィルは、#MeToo運動によって女性への積極性を失った旨を、ぶっきらぼうな言葉で答えている。

「一定のルールが出来てしまうと、難しいものがあると思う。そうなってしまうと、“彼女に話しかけるのも嫌だな、レイプ犯とか何とか言われそうで”、なんて思ってしまう。”もういいや、元カノでも呼んで、あの頃の関係に戻ろう。うまくいくわけないけど”って。」

カヴィルは、「僕も公の目に晒される立場なので、あえて危険な状況に陥るわけにはいかない。もし僕が誰かと(男女の仲として)遊んでも、そこからどうなるかなんて分からないでしょう?」と続ける。記事は、カヴィルが今は女性を追いかける気になれない理由として、「投獄されたくないからかな?」という極論的な言葉と共に取材部分を終えている。

批判の声

この発言が、Twitterを中心に様々な意見を呼んだ。「強姦を助長している」「ヘンリー・カヴィルは”うっかり”レイプしない方法を見つけるまで、デートをするな」などの声が上がる中、最も話題を呼んだのがHelen Price氏による一連のツイートだ。

「これはひどい。レイプ犯と呼ばれたくないなら、レイプをしなければ良いだけでは。
ときどき男性が、自分たちを#MeToo運動の犠牲者であるように仕立てようとするけど、馬鹿馬鹿しい。
女性にアプローチして相手に嫌がられたり危険が生じるようなことがあるんだったら、自分の行動を見直すべきでしょ。一部の男がやってきたハラスメントが招いた結果に泣き言を言うのはおかしい。
#MeToo運動のせいで、”男性が女性と話せなくなった”とかなんとか言って、話を逸らすのはやめて。礼儀正しくデートに誘うこととセクハラの区別がつかないんだったら、あんた相当ヤバいよ。

「意図ではなかった」謝罪へ

筆者は、ヘンリー・カヴィルの一連の発言について擁護も批判もするつもりはない。しかし、同インタビューの開始と共に発せられたというカヴィルの次の発言を見逃すわけにはいかない。カヴィルは、世に出された自分のインタビューを自分でも読むのかと尋ねられ、こう答えたという。

「気にしないほうが良いでしょう。文字にされた言葉の多くは、元々の意図と大きく違うものですよ。

皮肉なように思われるが、記事への批判意見が広まるとカヴィルは、やはり「私の意図ではなかった」として、代理人を通じて次の謝罪文を発表した

「私の#MeToo運動に対する考え方についての記事への反応を見て、混乱と誤解を招いてしまいましたことをお詫び申し上げます。このような無神経さは、私の意図するところではありませんでした。これを踏まえまして、それが友情であろうとも、仕事上の関係であろうとも、あるいは特別な関係であろうとも、常に女性に対して最大級の敬意を払ってきましたし、これからもそうであるということ、ここに明確にお伝えしたいと思います。
どのような形であれ、無礼をはたらくつもりはありません。今回の経験は、編集の自由における文脈やニュアンスについて学ぶ貴重な機会となりました。今後は、自分の立場を明確に示したいと思います。この話題は非常に重要なものであり、全面的に支持したい所存です。」

Source:GQ,Bustle
Eyecatch Image:Photo by Gage Skidmore

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。