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「劣っているのではない。異なっているだけだ」自閉症を扱い、殺し屋映画の新たな地平を開いた映画『ザ・コンサルタント』レビュー

この『ザ・コンサルト』という映画のレビュー記事を寄稿するにあたり、最初にお断りしておきますが、筆者は「自閉症」と一般に呼ばれる先天性脳機能障害について、専門的知識を持ち合わせておりません。ネットで通り一遍の情報は仕入れており、題材となっている小説なども読んだことがありますが、基本的に「よく判っていない人間」の一人であるということを前提にして続きをご覧ください。

まず眉間にしわ寄せて小難しそうなことを言う前に、結論から申しておきますと、本作『ザ・コンサルタント』はアクションエンターテインメント映画として単純に面白い作品です。手放しに「楽しい」映画というよりも後述するような要素から「興味深い」って感じのニュアンスが入ってしまうのですが、それをさておいても、『ボーン・アイデンティティー』から連なる軍隊格闘を用いた体術アクションや、「あ、この銃の使い方、『ジョン・ウィック』がやってた!」と誰かに教えたくなるガンアクションは、2016年時点アクション映画の最新トレンドって感じで見惚れてしまいますし、ストーリーもこれでもかってくらいひねった展開で、先がほとんど読めず、上映時間128分があっという間でした。この時点で、観ようかどうしようかまだ考えている方は、ひとまず劇場へ向かってください。次段からは『ザ・コンサルタント』のオリジナル要素について触れてみます。

『自閉症』への理解も深まる意欲作『ザ・コンサルタント』

古今東西『凄腕の殺し屋』が主人公の映画は世界中でたくさん製作され、「一見普通に(弱そうに)見えても実は凄い奴」ってなキャラ設計もすっかりありふれたものとなりました。今作『ザ・コンサルタント』はさらにその上に「自閉症」という要素を主人公に加えています。野心的な設定に見えますが、過去にも今作でベン・アフレックが演じるクリスチャン・ウルフのような「高機能発達障害」一般的な呼び方で「アスペルガー症候群」を題材にした映画は数多く作られてきました。簡単に思い出せるところで言うと『レインマン』(1988)や『恋する宇宙』(2009)『ソーシャルネットワーク』(2011)などがそうでしたね。
これらの映画の多くは「自閉症」に由来する映像記憶能力だったり、発想だったりといった「天才性」を取り上げており、確かに健常者から見ればそれらの「特殊能力」はドラマチックで、「映画の題材にしやすい」であろうと推測できます。また、それらの映画の多くで描かれる「自閉症」のキャラクターは天使的な「善人」であることが多かったように記憶していますが、語弊を恐れず言うならば、その演出は、健常者が彼ら「自閉症」を持つ人々を「社会の特異な存在」としての意識していることの裏返しのように感じます。

しかし今作の主人公の職業は「殺し屋」、その善性を取沙汰するような存在ではありません。『ザ・コンサルタント』は、健常者と発達障害者を真にフェアに扱い、アクション映画というジャンルにも関わらず、可能な限り誠実にこの題材に取り組んだ作品で、そういった意味でも鑑賞する価値のある一本です。主人公の幼少時に両親が相談に訪れる施設の教師の発言や、劇中様々な箇所に挿入される「自閉症」であったとされる歴史上の偉人たちへのオマージュ、さらに何といっても主人公の立ち居振る舞いからも、この映画の製作者たちが軽いノリでこの題材を取り扱っておらず、調査と取材を綿密に行ったことがみてとれます。繰り返しになりますが、本作は「殺し屋」を主人公としたアクション映画でありながら、「自閉症」への理解を深める一助となりうる作品である、という点が白眉であるわけです。余談ですが、筆者のお気に入りのタイ映画『チョコレート・ファイター』(2008)も、主人公の女の子は「自閉症」でした。あの映画も小気味いい面白い映画ではありましたが、設定として「自閉症」がポン付けされてる感は否めず、近親者や自らにそういった方がいる観客は愉快ではなかったかもしれません。

『ザ・コンサルタント』ギャビン・オコナー監督のオススメ作

本作の監督・製作総指揮を務めたのはニューヨーク出身のアメリカ人監督ギャビン・オコナー。20年以上のキャリアを持つ監督ですが、こと日本においては映画通を自負する読者の皆様にも、あまり聞きなれない名前なのではないでしょうか。それもそのはずこのオコナー監督、もともと多作な作家ではないのですが、その実績において欧米で高い評価を博した作品がいくつかあるにもかかわらず、その悉くが日本では劇場公開されずDVDスルーの憂き目に合ってきたという経緯があります。(カート・ラッセルがアイスホッケーチームのコーチを好演した『ミラクル』(2004)、エドワード・ノートン、コリン・ファレルの警察汚職サスペンス『プライド&グローリー』(2008)など)

そんなオコナー監督のフィルモグラフィーの中で筆者が個人的におすすめしたい作品を一本挙げるならば、みんな大好きトム・ハーディー主演の格闘映画ウォーリアー(2011)ですね。「ああ、あの映画の監督か」と急に合点がいった読者の方も少なくないと思いますが、父親、兄弟の絆を軸とした重厚なドラマとリアルな総合格闘技アクションが融合した、記憶に残る快作でした。また、『ザ・コンサルタント』の脚本ビル・ドゥビュークはキャリアこそまだ浅いですが、前回脚本を担当したロバート・ダウニーJr主演の法廷ドラマ『ジャッジ 裁かれる判事』で鮮烈な印象を残しています。『ザ・コンサルタント』を鑑賞すると、この『ウォーリアー』と『ジャッジ 裁かれる判事』二本の映画それぞれに、今作と繋がるエッセンスを確かに感じることができます。

Eyecatch Image:Photo by Chuck Zlotnick – c 2015 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

Writer

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アクトンボーイ

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。