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【解説】『クルエラ』の音楽、パンクとディズニーの共存

クルエラ
© 2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

エマ・ストーン主演、『101匹わんちゃん』(1961)のヴィラン・クルエラの誕生秘話を実写映画化したディズニー映画『クルエラ』が公開となった。この映画を彩るのは、劇中で聞かれる印象的な挿入歌の数々。

サウンドトラックでも『クルエラ』の世界観がたっぷり堪能できるが、この作品の音楽の魅力はどういったところにあるのか。音楽ライターの新谷洋子 氏が解説する。

クルエラ
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『クルエラ』の音楽

水と油とまでは言わないにしても、“パンク”と“ディズニー”が仲良く共存するシチュエーションなんて、すぐには思いつかないのだが、先頃公開された『クルエラ』は間違いなく、この意外なコンビネーションが最高の結果を実らせた映画だ。舞台設定は1970年代後半のロンドン。そして主人公は、まさにパンク精神を体現する、ファッション・デザイナー志望の女性エステラ。彼女こそは、ディズニー史上最も悪名高きヴィランとして『101匹わんちゃん』と『101』で悪名を轟かせたクルエラ・ド・ビルの、若かりし日の姿である。そう、この映画はエステラがクルエラへと変わっていく過程を描いたいわゆるプリクエルであり、宿敵の大物デザイナー=バロネスとの関係を解き明かす復讐劇。何しろふたりを演じるのが、エマ・ストーンとエマ・トンプソンというアカデミー賞®受賞俳優同士とあって、スリリング極まりない競演が楽しめる。

そんな映画において、時代の気分を巧みに演出しているのは、これでもかと盛り込まれたファッションと音楽。例えばクルエラのために47着、バロネスにも30着以上の衣装が用意されたが、これらは全て、同じくアカデミー賞を輝いている大御所コスチューム・デザイナーのジェニー・ビーヴァンが、綿密なリサーチに基づいて作り出したものだ。破天荒なクルエラの場合は、パンク・ファッションを象徴するヴィヴィアン・ウエストウッド、古風なバロネスのほうは、クリスチャン・ディオールにインスピレーションを求めたといい、鮮烈なコントラストが両者のスタイルを差別化。色彩も然りで、前者はブラック&ホワイト&レッド、後者は深いグリーンやゴールドにまとめられ、パンク・ムーヴメントがもたらした価値観や美意識の転換を物語っている。

クルエラ
© 2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

一方、数では衣装に負けてはいるとはいえ、ニコラス・ブリテル(『ムーンライト』『ビール・ストリートの恋人たち』)が手掛けたスコアを含めると50曲以上をフィーチャーしているという音楽のパワーも、誰もが実感するのではないかと思う。まず書き下ろしのエンドソング「Call me Cruella」には、現代のロンドンっ子を代表して、フローレンス・アンド・ザ・マシーンことフローレンス・ウェルチを起用。幼い頃からディズニー映画の名曲に親しんできたという彼女、クルエラになり切って、このドラマティックな曲を挑発的に歌い上げている(日本語吹替版では、クルエラの日本版声優を担当した柴咲コウによる日本語ヴァージョンの「コール・ミー・クルエラ」を、聴くことができる)。

サントラ盤は、これら2ヴァージョンのエンドソングを含む計16曲を抜粋して収めているが、映画本編にはR&B(アイク&ティナ・ターナーの「胸いっぱいの愛を」「カム・トゥゲザー」)、ファンク(オハイオ・プレイヤーズの「ファイアー」)、シャンソン(ブリジット・フォンテーヌの「エターナル」)、ディスコ(ローズ・ロイスの「カー・ウォッシュ」)などなど実に幅広いジャンルの曲がちりばめられ、歌詞の内容や曲調がどれもシーンとマッチしていることは、言うまでもない。聞けば監督のクレイグ・ギレスピーは、撮影中も携帯電話で色んな音楽をかけていたそうで、例えばナンシー・シナトラの「にくい貴方」を始め、彼が現場でかけた曲も多数使われているという。

クルエラ
© 2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

そんな中でも音楽における主役を担うのはもちろん、クルエラの反骨精神とも響き合う、パンクを始めとする60~70年代のロックだ。ザ・クラッシュにブロンディ、クイーン、スーパートランプ、ローリング・ストーンズ、ゾンビーズ……といった具合に。ちなみに、「Call me Cruella」とスコアについても、こうしたサウンドに馴染むようギターを強調したり、レコーディングにヴィンテージ機材を使ったりしたのだとか。ファッションも音楽もオーセンティシティにこだわりぬいたこのパンク・ディズニー・フィルム、見どころ・聴きどころを全てチェックするには、リピート鑑賞が必要かもしれない。

文:新谷洋子
女性ファッション雑誌の編集者を経て、フリーランスの音楽ライターに。メインストリーム・ポップからインディー・ロックまで、主に海外アーティストの取材、日本盤アルバムのライナーノーツの執筆、歌詞対訳などを手掛ける。訳書に『モリッシー インタヴューズ』(シンコーミュージック刊)がある。

『クルエラ オリジナル・サウンドトラック』(日本版)
デジタルアルバム好評配信中 / CD 6月23日(水)発売 [UWCD-1104 税込2,750円]
サウンドトラックに収録されていない楽曲も含めたオフィシャル・プレイリストも展開中。

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THE RIVER編集部THE RIVER

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