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『デビルマン』の悪夢再び!大コケ『CUTIE HONEY-TEARS』とアメコミ映画は何が違うのか?

『CUTIE HONEY-TEARS』のコケ方がすさまじい。先週末の興行成績ランキングでは初週にもかかわらずベスト10圏外。レビューサイトでの評判も芳しくない。主演の西内まりやもメディア露出に舞台挨拶にフル稼働したものの、ほとんど反映されていない状況だ。いや、反映されてこれ、というべきか。

永井豪原作コミックの映画化では、2004年の実写版『DEVILMAN』の大失敗を覚えている映画ファンも多いだろう。しかし、『キューティーハニー』とともに、いずれも原作とテレビアニメは名作と名高い。では、どうして実写になるとこうなってしまうのか。

ここでは、ハリウッドにおけるコミック映画を参考にしながら『CUTIE HONEY-TEARS』の惨事の原因を探りたい。

  1. 不明確なターゲット層しかし、今回の主演は男性よりも女性ウケが高い、モデル出身の西内まりや。コスチュームも女性からの支持を得られるようにマイルドなデザインとなっている。 
  2. 結果、ハニーのお色気に期待した男性ファンを取り逃し、西内の支持層である女性すらもオタクっぽいSF的な世界観にそっぽを向いてしまった。ハリウッドに目をやれば、あのリアリズム志向が賛否両論だった『ダークナイト・ライジング』すら、キャットウーマンの衣装はきちんとエロかったというのに!
  3. 『キューティーハニー』の見せ場と言えばお色気シーンや、ヒロインである如月ハニーの見せる数々のコスプレ。それは1970年代の発表当時、ターゲットが思春期の少年たちに的を絞っていたためである。庵野秀明による2004年の実写版もまた、お世辞にも評判はよくなかったものの、オタク男子を喜ばせるというテーマははっきりとしていた。
  4. 演出放棄と演技の不在コミック原作映画なら、演技なんてできなくても見た目がいいならそれでいい、という意見もあるだろう。しかし、それは大きな間違いである。世界観が過剰で、オーバーなビジュアルと台詞を纏わなければいけないコミック映画の主役には、容姿と同じくらい説得力のある演技力も要求される。『アベンジャーズ』の面々を見てほしい。いずれもリアルな人間ドラマに出演しても絶妙な演技を見せられる俳優ばかりだ。
  5. 今回、共同監督に抜擢されたのはA.T.とヒグチリョウ。これは犬童一心と樋口真嗣が共同して『のぼうの城』を監督したようなものかと予想した。前者が演出部を、後者が特殊技術を監督するケースである。しかし、今回の二人はいずれもアニメやCGのエキスパートであり、俳優を演出できる能力に欠けている。しかも、メインキャストは演技の基礎ができていないモデル出身の女性たち。
  6. 圧倒的な安っぽさ。本作では、未来世界の富裕層が繰り広げるパーティーが「全然楽しそうじゃない」という一言に尽きる。現代のギャルがたむろするようなクラブでも、ピークタイムにはあれの100倍は盛り上がっている。エキストラに演出している時間も、セットにかける予算もないのだろう。『アイアンマン』でトニー・スタークが出席するパーティーの豪華さに比べたら! 
  7. 予算でハリウッドと比べるのは間違いという人もいるだろう。しかし、間違いなのは中小規模の予算で、大作”風”の映画をでっちあげなければいけない日本映画の悪循環ではないだろうか。
  8. 日本映画の問題点は、巨額な予算がつぎ込まれているわけでもないのに、大作”風”な映画を作ってしまうことである。マーケティングと芸能事務所の都合が最優先されるシステムでは、誰もクオリティなど気にしていないということなのだろうか。作り手すら諦めているようなやる気のないショットが度々登場する。
  9. アクションのショボさよって、アクション映画なのにアクションがない、という不思議が生まれる。難易度の高いアクションを仕込んでいる暇などないからである。本作では西内まりやが不自然なカット割のもと、手足を振り回していたらなぜだか敵が倒れている、という映像を眺めることができる。 
  10. 尚、今回はストーリーの粗探しは控えておいた。理由は、文字数がいくらあっても足りないから、である。
  11. あまり評判のよくない『アベンジャーズ』シリーズのスカーレット・ヨハンソンだって、もう少しまともな動きは見せている。
  12. 日本の俳優はハリウッド俳優のように、一本の映画のために肉体改造を行ったり、演技のために職業訓練を受けたりすることが少ない。特に女優はそうである。なぜなら、日本では映画のプライオリティーが圧倒的に低く、CMやテレビドラマに支障が出るようなことはさせられないからだ。所属タレントのスケジュールを事務所が主導で管理しているシステムの弊害である。

Writer

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石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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