『ダークナイト』初期脚本、ジョーカーのオリジンを描くよう求められていた

クリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』(2008)でヒース・レジャーが演じたジョーカーは、公開から12年が経った今も頻繁に語られ、今後も語り継がれるキャラクターだろう。DNAも指紋も照合できず正体不明、顔にはピエロのメイク、口元には大きく裂けた傷跡がある。彼は、自分の口が裂けた理由について、毎回違ったエピソードを語る……。
正確なオリジンがわからないコミックのジョーカーを映画に落とし込む上で、『ダークナイト』のアプローチは鮮やかだった。しかし製作当初、米ワーナー・ブラザースはジョーカーに確固たるオリジンを要求したという。原案を担当した脚本家のデヴィッド・S・ゴイヤーは、オンライン版コミコン「ComicCon@Home」で、当時の様子を振り返っている。
「それまでのスーパーヒーロー映画には慣例がありましたよね。サム・ライミの『スパイダーマン』や過去の映画版『バットマン』『X-MEN』にせよ、映画に出てくるヴィランはオリジン・ストーリーがしっかりと語られる。そこで僕たちは、“ジョーカーにオリジン・ストーリーがないのはどうでしょう?”と話しました。[中略]猛反対されましたよ、オリジンをやるべきだって。どうやってオリジン抜きでやるつもりなのか、どうやって観客に伝えるのか、と心配されたわけです。」

デヴィッドによると、スタジオは『バットマン ビギンズ』(2004)のヒットを受けて守りの姿勢に入っていたそう。ジョーカーのオリジンを描かないことでさえ、「物議を醸すものだと受け止められていた」のだ。前作以上に携わるスタッフが増えた『ダークナイト』では、リスクを負い、興行的成功への期待を脅かすような取り組みが難しくなっていた。
「誰もが失敗から身を守ろうとしていたし、彼らは僕らに対して、前作(『バットマン ビギンズ』)と同じことを、だけど少しだけ違うことをやってほしいと思っていました。だから、何かが成功したあとに、映画やテレビのお偉方に向かって“同じことはやりません、違うことをやります”と言うのはすごく怖いことなんです。」
それでもノーランやデヴィッドは、ジョーカーのオリジンを描かないというアプローチを貫くことができた。『ダークナイト』ではハービー・デント/トゥーフェイスの物語にもコミックから大きな変化が加えられているが、これもリスクをはらむ行為だったという。法廷の中で硫酸をかけられ、顔の半分が焼けただれてしまうというオリジンは、コミックファンにはあまりにも有名だったからだ。
ちなみに、デヴィッドが『ダークナイト』に携わったのは約6~7週間ほど。ノーランとともにストーリーを考案し、約40ページのトリートメント(物語の要約)を執筆したという。その草稿をもとに、ノーラン監督と弟のジョナサン・ノーランが脚本作業に着手したのだ。しかし、それだけでも作業は非常に難しかったという。「クリス(ノーラン)からは“三幕構成じゃなくて四幕構成になると思う”と言われていて、最終的にそうなった。とても複雑で大変な仕事だったし、いわゆるスタジオ映画よりもずっと小説的な作品です。まさに叙事詩でした」。
Source: ComicCon@Home