クリストファー・ノーラン、『ダークナイト』3部作をヴィランから解説 ― 「作品ごとにジャンルが異なる」

現代、ハリウッドにおけるヒーロー映画の隆盛を語るにおいて『ダークナイト』3部作を外すことはできないだろう。今や巨匠として評価されるクリストファー・ノーランは、現実的でダークなトーンの作品として「バットマン」シリーズを甦らせた。ノーランのフィルモグラフィにおいても、この『ダークナイト』3部作――とりわけ2008年『ダークナイト』は――出世作と呼んで差しつかえない。
2018年5月12日(現地時間)、カンヌ国際映画祭にクリストファー・ノーランが登場。およそ2時間にわたるパネルイベントにて、『ダークナイト』3部作を改めて振り返った。米Variety誌がその様子を伝えている。
『ダークナイト』3部作、ヴィランに注目すると
今になって思えば、のちに『インセプション』(2010)や『インターステラー』(2014)、『ダンケルク』(2017)を手がけるクリエイターが、なぜバットマンを撮る仕事を引き受けたのだろうか。しかも、長期にわたって拘束されるシリーズ映画を……。
しかしこの問いこそが、ある意味ではすでに誤りなのだというべきだろう。そもそもノーランは、第1作『バットマン ビギンズ』(2005)をシリーズの出発点として捉えていなかったのだという。ワーナー・ブラザース側の思惑はともかく、同作を引き受けた時点で「自分が続編を作ることは考えていなかった」のだ。ひとまずノーランは、コミックの世界をフィルム・ノワールやスリラーとして映画化するというアプローチに力を注いでいる。
「ジャンルを移し替えて、悪役の本質で観客を引っ張っていくこと。そして独特のブルース・ウェインを描くこと。[中略]スーパーヒーローでありながら、彼は根底に罪悪感や恐れ、強い衝動を抱えています。莫大な財産以外に特別な力もありません。ただし、すごく鍛えてはいますよね。そういう面で非常に共感できる、人間的なキャラクターなんです。そこに魅力を感じました。」
“悪役の本質で観客を引っ張っていく”という言葉は、ノーラン自身によってこのようにも言い換えられている。
「僕にとって(『ダークナイト』3部作は)それぞれジャンルの異なる映画なんです。ヴィランが特徴なんですよ。」
『バットマン ビギンズ』でリーアム・ニーソンが演じたヘンリー・デュカード/ラーズ・アル・グール、『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じ、今もなお新鮮に語られるジョーカー、そして『ダークナイト ライジング』(2012)でトム・ハーディが演じたベイン。まずノーランは、『バットマン ビギンズ』を直球のオリジン・ストーリーとして捉えたという。
「ヘンリー・デュカードは(オリジン・ストーリーに)ふさわしい悪役なんです。彼はメンター(師匠)であり、のちに宿敵となる。『ダークナイト』のことは、いつもマイケル・マン流の犯罪映画だと思っています。ジョーカーはテロリストであり、混沌の代理人なんです。『ダークナイト ライジング』は壮大な歴史劇で、軍国主義者のベインがその点を支えていますね。」
ヒーローのオリジン・ストーリー、犯罪映画、そして歴史劇。ユニークな方法で「バットマン」を現代の物語に仕立てていったノーランの仕事ぶりを、ぜひ悪役に注目しながら再度確かめてみてほしい。
ちなみにそれぞれの映画を異なるジャンルの作品として捉えていたノーランだが、そんな中でも『007』シリーズへのオマージュは一貫しており、モーガン・フリーマン演じるルーシャス・フォックスを、ボンドに秘密の道具を提供する「Q」に近づけていたという。ただしノーランは、このように補足を加えてもいる……。
「でも僕なりのジェームズ・ボンドといわれれば、『ダークナイト』よりも『インセプション』の方がずっと後ろめたいですね…。」
映画『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイト ライジング』はブルーレイ、DVD、4K ULTRA HD ブルーレイが現在発売中。
Source: Variety
Eyecatch Image: 『ダンケルク』© 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.