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【インタビュー】『デッド・ドント・ダイ』巨匠ジム・ジャームッシュ「このままでは世界は終わる」 ─ ゾンビ映画でメッセージを語る理由

デッド・ドント・ダイ
© 2019 Image Eleven Productions, Inc.

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)『ブロークン・フラワーズ』(2005)などの巨匠ジム・ジャームッシュが新境地を拓いた。最新作デッド・ドント・ダイは、ビル・マーレイやアダム・ドライバーティルダ・スウィントンら豪華キャストが揃い踏みし、ジャームッシュ作品らしいオフビートな笑いをもって描かれる“ゾンビ・コメディ”だ。

2020年3月中旬、THE RIVERはジャームッシュ監督に質問を投げかける機会に恵まれた。『デッドマン』(1995)や『ゴースト・ドッグ』(1999)、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013)などでジャンル映画にも意欲的に取り組んできたジャームッシュは、初のゾンビ映画にどう挑んだのか。作品のテーマやアプローチだけでなく、アダム・ドライバー&ティルダ・スウィントンの魅力についても聞いてみた。

デッド・ドント・ダイ
(c) Kazuko Wakayama

『デッド・ドント・ダイ』ジム・ジャームッシュ監督に聞く

──これまで監督が作られてきた“ジャンル映画”は、どこかジャンルそのものを解体するような狙いがあったと感じます。しかし今回は、ジョージ・A・ロメロ監督へのオマージュも含め、王道のゾンビ映画志向です。大きな変化だと思うのですが、その理由を教えてください。

そうですね、つまりゾンビ映画の歴史を振り返れば、ロメロ以前のゾンビにはいろいろいたわけです。たとえばタヒチのブードゥー教には、人を洗脳し、(ゾンビとして)働かせるということがあった。だけどジョージ・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968)以来、ゾンビの形が決まり、“完全に死んでいない者”ということになりました。外部からやってくるモンスターではなく、彼らは我々自身なんです。

僕に言わせれば、ジョージ・ロメロは「ポストモダン・ゾンビ映画」の達人。そこで(ジャンルを)開発し直すのではなく、建て増しをしようと思いました。そこで今回は、ロメロが始めた、ゾンビの比喩的な使い方をそのまま使っています。『ゾンビ』(1978)に出てくるゾンビたちには、ショッピングモールに行くとか、生きていたころの記憶めいたものがある。それをそのまま活かして、ゾンビがコーヒーやシャルドネ、薬や携帯電話などに惹かれていくようにしました。この映画では、ロメロの思い描いたゾンビ像を拡張したかったんですよ。

デッド・ドント・ダイ
© 2019 Image Eleven Productions, Inc.

──その一方、『デッド・ドント・ダイ』のゾンビは、首を斬ると黒い塵のようなものが舞い上がります。ゾンビは血を流すことで人間だったことを示す面もあると思うのですが、どうして塵だったのでしょう?

ビジュアルとして面白いアイデアだと思ったのと、僕自身がスプラッター映画の大ファンではないから。血がたくさん出るのは好きじゃないので、血みどろの映画にはしたくなかったんです。それに生物学的に言えば、死んだ人に血は通ってないでしょ?

──出演者の方についてお聞かせください。ロニー巡査役のアダム・ドライバーは、『パターソン』(2016)とはまるで異なる役柄です。大勢のフィルムメーカーに愛され、監督も今回で2度目の起用ですが、俳優アダム・ドライバーの魅力とは?

彼は素晴らしい俳優ですよ。決して過剰な演技をすることなく、人物に肉体を与えてくれる。それから本当に人間らしくて、誰もが彼に共感できる。僕が彼のために書いた役は…どうでしょう、僕にとってはごく普通の人なんですよね。で、それが僕は大好き(笑)。そこで、今回は笑える役をやってほしいと思いました。僕は、彼が控えめなアプローチで役づくりをするところもすごく好きでね……とにかくアダム・ドライバーのことは大好きですよ。アダムに演じられない役はほとんどないと思う。同じ理由でビル・マーレイも大好きで、役柄をとても人間らしくしてくれる。だけど二人にはぜんぜん違うところもあって…たとえばビル・マーレイが『スター・ウォーズ』で良い役をやることはないだろうとか(笑)。

アダムはセットにいる時、すごく集中しているし、とても真面目。だから時々アダムを呼んできて、ジョークをひとつふたつ言うんです(笑)。僕はアダムを笑わせるのが大好き。仕事中の彼はすごくシリアスな表情なんだけれども、とても遊びたがっている時もがある。だから時々笑わせるんです、面白いことを考えてる時の彼はすごくいいから(笑)。だけど彼は一生懸命に仕事をしてくれるので、ボンヤリしたり、気が散ったりということはないし、きちんと力を尽くしてくれますよ。彼は本当に素晴らしかった。一緒に仕事ができてよかったと思います。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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