ディズニー実写『モアナ』でAIドウェイン・ジョンソンを断念 ─ コンプライアンス代表「AIは変革をもたらすが、無法である必要はない」

実写映画版『モアナと伝説の海』で、マウイ役のために“AIドウェイン・ジョンソン”が製作される計画があったことがわかった。米Wall Street Journalが報じている。
本作はディズニー製作の人気アニメーション映画『モアナと伝説の海』(2016)を実写化するもので、モアナ役には新人キャサリン・ラガアイアを起用。マウイ役はアニメ版に続いてドウェイン・ジョンソンが演じるが、ディズニーはジョンソンが毎日撮影に参加せずにすむよう、一部のショットでAIによるディープフェイクを生成しようとしていたという。
実写版でジョンソンのスタントダブルを務めるのは、『ワイルド・スピード』『ジュマンジ』シリーズなど数々の作品でもスタントを担当してきた、実のいとこであるタノアイ・リード。セットでのリードの演技に、ディープフェイクのジョンソンの姿を重ねる方針で、ジョンソン自身も計画を承認。『HERE 時を越えて』(2024)や『エイリアン:ロムルス』(2024)などに技術を提供してきたAI企業Metaphysicと18ヶ月間にわたり作業を続けてきたというが、最終的には断念された。
ディズニーが“AIドウェイン・ジョンソン”をあきらめた理由は、主にセキュリティと権利の点にあったという。実写版『モアナと伝説の海』のために生成されたジョンソンのディープフェイクが今後どのように保護されるのか(流出の懸念はないか)、そしてAIジョンソンの権利をディズニーが所有できるのかということだ。これらの問題は、2023年に全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)がストライキに及んだ当時も大きな争点となっていた。
完成した映画に、ディズニーとMetaphysicが取り組んできた“AIドウェイン・ジョンソン”の映像はまったく含まれていないという。逆に言えば、一連の課題が解決されれば、映画スタジオはAI技術の導入を一気に推し進めることになりそうだ。
もっとも、セキュリティや権利以外の問題も存在する。企業の評判、ひいては人々の感情である。
報道によると、ディズニーは『トロン:アレス』にもAI技術を導入する計画で、シリーズを通じて登場しているケヴィン・フリン(ジェフ・ブリッジス)の相棒ビットを、AI生成のアニメーションキャラクターとして登場させようとしていたという。脚本家によって提供された文脈に基づき、実際のAIが質問に対する応答を生成するというプロセスだ。しかし、こちらも「悪い評判を招くリスクは冒せない」という理由から断念された。
ディズニーはAIとの関係に苦慮しており、2025年5月には、人気オンラインゲーム「フォートナイト」において『スター・ウォーズ』ダース・ベイダーとAI技術で会話できる新機能が物議を醸した。声優の故ジェームズ・アール・ジョーンズは生前にアーカイブ音声のAI活用に同意しており、遺族も協力していたが、SAG-AFTRAは適切なプロセスを経ていないとして開発元を非難。国家労働関係委員会(NLRB)に不当労働の申し立てを行っている。
また、翌6月にはAIによる画像・動画生成企業Midjourneyをユニバーサルとともに提訴。ところが、自社のポスターにもAI生成画像が使用されていることが告発された。
ディズニーの法務・コンプライアンス代表を務めるオラシオ・グティエレス氏は、ディズニーの“次の100年”を見据え、「AIは変革をもたらすものですが、無法である必要性はありません。長期的に会社に悪影響を与えることなく、クリエイターが最高のAIツールを利用できるようにすることが我々の仕事です」とコメントした。
実写映画版『モアナと伝説の海』は2026年7月10日に米国公開予定。『トロン:アレス』は2025年10月10日公開。
▼AIについての記事
Source: Wall Street Journal