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なんだこの映画!?『ディストラクション・ベイビーズ』を観なければならない理由

現在公開中の真利子哲也監督『ディストラクション・ベイビーズ』。
エンドロールを眺めながら、私はすっかり放心状態だった。
この作品を絶対に観るべきだと確信できる理由を述べたいと思う。

こんなキャラクター、どこにもいない。

『ディストラクション・ベイビーズ』は、普通の映画ではない。
なんといっても、主人公が普通じゃない。

柳楽優弥が演じる主人公・泰良は、
ある日フラッと弟と暮らす土地から消える。
繁華街をホームレスとして彷徨いながら、
彼は【特に理由もなく】道行く人間に暴力を振るう。

相手をボコボコにしているときも、
相手にボコボコにされているときも、
泰良の瞳は輝き、口元には微笑が浮かんでいるようだ。

純粋な暴力衝動だけを根源に生きる泰良に魅せられて、
彼と行動を共にすることでビッグになろうとする高校生・裕也。
成り行きから2人の人質になったキャバクラ嬢・那奈。

そして、兄に去られ、兄を探す泰良の弟・将太。
たった一人の肉親である将太は、泰良の鏡であり
【もうひとりの泰良】に他ならない。

泰良は、ほとんど喋らない。ただ、暴力をふるい続ける。

何の意味もなく行われる暴力。
何の理由もなく選ばれるターゲット。

恐怖と嫌悪感でいっぱいになるはずの
泰良による暴力シーンは、なぜか魅力的だ。
善も悪もない、罪も罰も意識しない、
ただ純粋なる衝動=暴力の前には
一切の言葉も理性も意味をなさない。
そこにいるのは、人間という枠を超えた純粋なる【なにか】だ。

とにかく音楽が、かっこよすぎる。

『ディストラクション・ベイビーズ』の音楽を担当するのは、向井秀徳。
ZAZEN BOYSとしても、ソロ名義としても活躍する彼の音楽は
圧倒的なテクニックに裏打ちされた【衝動】以外のなにものでもない。

泰良の暴力行為の始まりと共に掻き鳴らされる轟音。
ZAZEN BOYSのライブで体感する高揚感そのままに、
いやがおうにも高まるテンション。

泰良の行為が純粋な【衝動】であること、
それは彼にとって人生の悦びであることを
向井秀徳の奏でる音楽が、どんな言葉よりも饒舌に語っている。

柳楽優弥が凄すぎる。

『ディストラクション・ベイビーズ』は
柳楽優弥を観るための映画といっても過言ではない。

それくらい、凄い。

セリフがほとんどない上に、終盤になるまで名前すら分からない。
しかし、彼が【ヤバいヤツ】ということは本能的に分かる。

ターゲットを探しながら彷徨うときも、
ボコボコにされた後に公園で空を眺めながら寝そべるときも、
誰かに暴力をふるっているときも、
一定の目の輝きを保ったまま、テンションがほとんど変わらない。

何を考えているのか全く分からないが、
暴力が彼にとって生きることなのだということは分かる。

物語の終盤の那奈のある行為により、
サングラスをかけている彼の表情は、一層輝きを増す。
『楽しかったか?』というそのセリフに、ゾクッとした。

他者との関係にも、倫理観にも全く囚われず
ただ破壊者として刹那的に生きる泰良。
柳楽優弥は、超人間的なこの役を、
圧倒的な説得力をもって演じ切っている。

『誰も知らない』で日本中に鮮烈な印象を残した天才少年は、
いま俳優という枠を超えた怪物になろうとしているのかもしれない。

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umisodachi

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

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