【レポート&レビュー】新文芸坐オールナイト「ドニー・イェン アクションという名の芸術」怒涛の4作品上映!

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の公開で、いよいよ香港映画ファン以外にも知名度を抜群に上げた「宇宙最強の男」ことドニー・イェン。そんなドニー・イェンの香港時代の作品を特集したオールナイト上映「ドニー・イェン アクションという名の芸術」が、池袋にある映画館、新文芸坐にて2017年1月28日に開催された。今回はその模様と作品のレビューをお届けしよう。

上映作品は『ドラゴン危機一発’97』『レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳』『イップ・マン 序章』『カンフー・ジャングル』の計4本。上映開始前には映画評論家の江戸木純、くれい響の両氏によるトークショーも行われた。 トークショーではくれい氏がインタビュアーを務め、江戸木氏がドニー・イェンの歴史を低迷期から現在に至るまで語る形で進んだ。今では信じられないが、ドニー・イェンも主演作や監督作がなかなかヒットに繋がらず悩んでいたそうだ。映画が早々に上映打ち切りとなるなど、興収を全くあげることが出来なかったという。それでも江戸木氏は、ドニー・イェンの才能に惚れ込み、『ドラゴン危機一発’97』などの買い付け・配給を行うなど奔走したそう。

ちなみに江戸木氏は、「もう時効だよね」と前置きしてから、ドニー・イェンの好きな映画は『踊る大捜査線』と奥山和由版『RAMPO』だと証言。ゆうばり映画祭でドニー・イェンが来日した際に聞いたものの、本人から「絶対言ってはダメ」と口止めされていたそうだ。トークショーは上映4作品を時系列で並べ、その当時のエピソードを交えて30分ほど行われた。その後、小休憩を挟み、いよいよ23時から上映は始まった。

『ドラゴン危機一発’97』

ドニー・イェンが監督、アクション監督、製作、脚本、主演を務めた作品。ストーリーは現在パートと過去パートが描かれているが、ファン・マンヒン役のドニー・イェンの活躍は過去パートで描かれる。自身も一員だった盗賊団のボスを殺めたことから追われる身となったマンヒン。マンヒンの強さに憧れた村の青年ワイも加えての盗賊団とのバトルは、空前絶後の高速カンフーバトルが展開され、ラストは盗賊団の新たな頭領ビッグ・ウルフとの一騎打ちとなる。

もはや目で追うことは不可能なほどの速さのカンフーで、上映1本目にしてドニー・イェンの「宇宙最強」たる所以が証明された形だ。なお本作には、ドニー作品には欠かせない存在となった日本人アクションコーディネーターの谷垣健治氏が人員確保の都合で出演を果たしているのだが、その出番の多さが尋常ではない。江戸木氏がトークショーの中で触れていたが「少なくとも30カットは出ている」という。確かに村人役だと思った次のシーンでは敵の一員にいるなど、筆者も鑑賞中15カットは確認できたほどだ。また、どうやら「本作のカンフーファイトシーンを『発狂する唇』はリスペクトしている」という。オカルトホラー映画である『発狂する唇』のラスト、森の中で三輪ひとみや鈴木一真らがカンフーバトルを繰り広げるという謎展開がそれだ(あくまで同作は魔術や女子高生首斬り殺人事件を描いたオカルトホラーである)。

『レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳』

『インファナル・アフェア』シリーズのアンドリュー・ラウを監督に迎えた2010年の作品。本作でもドニー・イェンは主演とアクション監督を兼任している。大のブルース・リーファンであるドニー・イェンが、リーの出世作の一つ『グリーン・ホーネット』にオマージュを捧げた作品で、劇中では黒い制服状の衣装+目元を覆う黒いマスク姿を披露し、華麗すぎるカンフーで敵の集団を薙ぎ払っている。

本作では、序盤からドニー・イェンが第一次世界大戦下のフランスに登場、弾丸・砲弾の嵐をかいくぐり敵陣に特攻してのナイフアクションを見せる。さらに日本軍が占領を目論む香港に帰国すると、レジスタンス・ブラックマスクとして活躍。敵役には日本人俳優の木幡竜やEXILEのAKIRAが参加している。共演にアンソニー・ウォン、スー・チー。VFXや豪華なセット、ノワール的なストーリーはさすが『インファナル・アフェア』を手がけた監督の手腕だが、ここでもやはりドニー・イェンの強靭な肉体と流麗なアクションが見ものだ。ブルース・リーへのオマージュだけあって、ヌンチャクを振り回す姿も楽しめる。

『イップマン 序章』

中国・佛山にて武術の達人と謳われたイップマン=葉問は、手合わせを乞う他武館の師匠や道場破りも寄せ付けない強さを誇る。攻守を同時に繰り出す詠春拳の型は、ドニー・イェンだからこそ美しく映えるというものだ。佛山が日本軍に占領されてから、本作のトーンは一気に雰囲気を変える。『レジェンド・オブ・フィスト』に続き、日本軍が徹底的に悪として描かれているが、ジャッキー映画やワンチャイシリーズの敵が香港を領土としていたイギリス人だったことを考えると、これも時代の流れなのかもしれない。

本作で悪役(といっても多少は分別をわきまえてはいるが)を演じるのは日本から参戦した池内博之だ。空手の名手である三浦将軍を演じており、ラストの葉問との試合は壮絶かつ熱いものを感じた。敵側だったのが惜しいくらいだ。

そして余談だが、かつて詠春拳の達人イップマンに弟子入りし、のちに世界中に名を轟かせることになったアクションスターがブルース・リーである。この辺りはシリーズ最新作『イップ・マン 継承』(4月22日より全国順次公開)や、製作が噂される第4作辺りで語ってほしいところだ。ちなみに今回のオールナイト上映では、本編上映前に『継承』の特報と、葉問が稽古しながら観客に上映中の注意事項を語るマナー映像が流れるサービス付きだった。

『カンフー・ジャングル』

深夜を駆け抜けてきたオールナイト上映もいよいよ最後の作品。寝落ちしてしまってもおかしくはない時間帯の上映だったが、ここまでの作品で完全にテンションがおかしなことになっており、眠気が襲ってくることはほとんどなかった。

本作『カンフー・ジャングル』は、今回の上映作品中もっとも新しい映画で、日本でも2015年10月に公開されたばかり。各拳法のチャンピオンが何者かに次々殺害される事件が発生し、不慮の事故により服役していたハーハウは、事件がカンフー習得の口伝の順番通りに起きていると推測。事件の解決を条件として仮釈放されたハーハウは犯人を追う……というストーリーだ。ドニー・イェンの活躍は後半に集約されているが、カンフー映画には欠かせない存在であるシー・シンユ―やルイス・ファンが武道の達人役を演じ、犯人との激しいカンフーバトルを演じてみせる。

とにかく今までのカンフーアクション映画に敬意を払った作品であり、カンフー映画ファンであるほど嬉しくなる仕掛けが施されているのが特徴だ。ルイス・ファンらのゲスト出演にとどまらず、至るところで往年のカンフー映画スターやプロデューサーらがカメオ出演を果たし、壁にはポスターが貼られ、テレビ画面には映画のワンシーンが映し出される。エンドロールでは誰がどこに出演し、何が映っていたかの答え合わせも出来るが、全てに気付いた観客は相当のカンフー映画フリークだろう。一例を挙げると、刑事役に前述のアンドリュー・ラウ監督が扮していたり、カンフー映画の一時代を築いたプロデューサーであるレイモンド・チョウが屋台の客として出演している。制作陣のほとばしるカンフー映画愛に貫かれた映画であり、筆者は初回鑑賞時に作り手の想いにいたく感動して、思わず落涙してしまった。

計4作品の上映が終わったのは、朝日も昇った午前6時半。観客の誰もが、疲れた様子もなく、むしろ嬉々として感想を口々に語り合いながら劇場を後にする様子からも、“ドニー・イェンという名の芸術”の素晴らしさを改めて体感することができた。

Eyecatch Image: https://www.wsj.com/articles/kung-fu-jungle-director-says-movies-have-missed-strong-characters-1414665095
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About the author

映画・映画音楽ライター。愛知県出身。
竜巻映画『ツイスター』で映画に覚醒。映画音楽に魅了されてからはサウンドトラックも買いあさり、映画と映画音楽漬けの日々を送る。

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