【解説レビュー】息、すると死ぬってよ。『ドント・ブリーズ』何がそんなに怖いのか
マニー以外の二人は、盗みに入る直前に、彼が障害者である事を知って少し戸惑う様子を見せる。このように、普通の人はどこか障害者を特別扱いしていて、彼らに悪さをする事はモラルに反するという認識があるはずだ。
私は、これと全く同じ感覚を、昨年の映画『ザ・トライブ』でも感じた。全編サイレンスの映画で聾啞者が繰り広げる暴力とセックスには衝撃を受けたものだ。障害者がまさかそんなバイオレンスな事をするなんて思わなかったのである。
そしてもうひとつのキーは、彼が“孤独な老人”でもある事だ。
だが、彼が地下室に隠していたものをのちに知った時、その想像以上の暴力に、あなたは同情していた故にショックを受ける事となる。
全女子が震撼したシーン
この映画が斬新なホラーだといわれるゆえんは、敵が幽霊ではなく生身の人間、しかも盲目の老人という事にある。しかし私は、例のあのシーンにこそ注目したい。そう、全女子震撼のあの問題シーンだ。
【注意】
ここから後には、映画『ドント・ブリーズ』のネタバレが含まれています。
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屋根裏をくぐって、ついに外にでる小窓を発見したロッキー。安心して身を乗り出したと思ったら、ジジイに捕まってめちゃくちゃに殴られる。年頃で美しい娘がグーパンチを顔面に容赦なく食らうシーンは、それだけでも悲しく痛ましい。
意識を失ったロッキーが目を覚ますと、地下にある拘束具に囚われてしまっていた。目の前にいるあのジジイは、拘束具に先ほどまで囚われていた女性について話しだす。
ジジイは自分の娘を殺した女性を、一体どんな手を使ったかは謎だが、捕まえて地下に監禁していたのだ。しかし、ロッキーたちが彼女を見つけて逃がそうとした時、ジジイは誤ってその女性を撃ち殺してしまった。
「Oh ベイビー……」と死体を抱きしめながら嘆くジジイに、私は「まさかこのジジイ、頭がおかしくなって自分の娘を繋いでたのか?失明した自分でも世話ができるように?」と思っていたのだが、どうやら話が違った。
しかし、実際はその予測を遥かに超えていた。冷蔵庫が出てきた時、まさかと思った。しかし、ジジイがそんな話をしながら卵焼きを作るとは思えない。冷蔵庫に冷やしておくものなんて、瓶詰めの精子しか考えられないだろう。予想は的中、彼は熱した精子をスポイトにたっぷり含み、彼女に迫っていく。この時、劇場内の女性全員が凍り付いた事は言うまでもないはずだ。
今の今まで、殺される恐怖を抱えていた身が、新しい命を強制的に産ませられる。つまり死を意識していた者が、なんと生を意識して恐怖に怯えるのだ。なんと皮肉的で惨い話なんだろう。