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【レビュー】なぜ『ドクター・ストレンジ』はMCUの『どこでもドア』となる必要があったのか?フェイズ3最重要キャラが担う「起承転結の起」

『アイアンマン』から始まったMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)も本作で数えること14作目。同一の世界観と時間軸上で、各作品の登場人物を「共有」するというアメコミの方法論を映画に導入したこのシリーズは、単体作品で各キャラクターをそのオリジンから掘り下げておいて、数年おきの「全員集合」作品を「お祭り」的に盛り上げるというサイクルで、大成功を収めてきました。

ネット等で散見されるMCUやDC映画に対する批評の中に、よく「ヒーローを登場させすぎ」といったような批判が散見されますが、シリーズを既に14作も重ねているMCUに関して言えば、もはや「このサイクルありき」で成立させている映画群であり、好むと好まざるとに関わらずシリーズがどれも世界的にヒットしているという事実があります。

映像化は必然的だったドクター・ストレンジ

人気の出たキャラクターにリンクさせて新しいキャラクターを登場させ、次なる人気キャラクターに育て上げる「お友達紹介制」的なこの手法は、先ほど申し上げたように、いわゆる「アメコミ」が古くから執ってきた手法であり、「シリーズの永続性」を考えればこれほど効果的な手段もないわけです。また、興味のない方には全部一緒に見えるのかもしれませんが、マーベル映画の本体、マーベル・スタジオは、マーベルヒーローの中でも特に人気の高い、「X-MEN」と「ファンスタスティック4」の映画化権を持っていません。(「スパイダーマン」は現時点で権利を持つSONYとMarvel Studioが協力関係を結べていますので、MCUへの参戦が可能となっています)これら名前だけで客を呼べるようなキャラクターはこれからも使えない、そしてこれまでのMCUを支えてきたと言っていいアイアンマンは、単体作品がとっくに一区切りし、マンネリ感やキャストの年齢を考えても、いつまでも頼るわけにもいきません。

こういったことから考えると、まさにこのタイミングで、MCUは、これからの10年を担う新たなキャラクターを観客に紹介しておく必要があったわけです。多士済々のマーベル・ヒーロー、その数は百を優に超えますが、「映画の主人公ができるキャラクター」となるとその数はグッと減ります。アイアンマン、ソー、キャプテン・アメリカのBIG3にハルクを加えた4人のアベンジャーは既に登場させてしまっていますので、原作の文脈からバックストーリーが充実していて、既出の彼らと肩を並べて遜色ない実力のキャラクターは、と考えたときに、ドクター・ストレンジはリストの筆頭に来たのではないでしょうか。

ドクター・ストレンジ

ベネディクト・カンバーバッチ本人がインタビューで語っているように、ドクター・ストレンジことスティーヴン・ストレンジは、設定においてアイアンマンことトニー・スタークと非常に似ています。どちらも天才、性格は傲慢で皮肉屋。常に他者を見下ろしているようなところがあり、それ故人間関係の構築がうまくないが、心の奥底には強い「善」の心が存在するという、昔から「探偵もの」などで親しまれてきた「主人公」のテンプレート的キャラクター。私見ですが「人気が出やすいタイプ」のキャラクターです。その上演じるのが、今やイギリスを代表する俳優となったベネディクト・カンバーバッチ、原作ファンが絶賛するほどイメージ通りのハマりっぷりで、MCUの次なる「顔」として、これ以上は望めないベストのキャラクター選定、キャスティングであったと思います。

映画を構成する3要素とは、よく「1.キャラクター、2.世界観、3.ストーリー」と言われ、この中の1つでも突出すれば、記憶に残る映画となりえますが、今作はとにかく1.のキャラクターが素晴らしいです。特にストレンジ役のベネディクト・カンバーバッチ、エンシャント・ワン役のティルダ・ウィンストンが完璧な演技をしていました。それぞれ冒頭の弾丸摘出シーンや、難易度の高い手技を交えたアクションシーンなど、短い時間で「天才性」だったり、「凡人とは違う次元を見ている」ということだったりを、観客に説得力のある形で伝えることに成功しています。また二人とも、ヒーローとしての姿、立ち居振る舞いが単純にカッコいい、バカっぽく聞こえるかもしれませんが、ヒーロー映画において何よりも大切なことです。

エンシェントワン

『ドクター・ストレンジ』の真のテーマ

本作の見どころとして、とかく最先端のCG技術をつめこんだ「ドラッグ的」とも言われる視覚効果が取りざたされることが多いですが、個人的にはとにかく前半のストレンジがエンシャント・ワンに師事するまでが、ハムレットもかくやという重厚でシリアスな展開と、情感溢れる風景描写とが相まって、一番の見どころであると思います。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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