【レビュー】なぜ『ドクター・ストレンジ』はMCUの『どこでもドア』となる必要があったのか?フェイズ3最重要キャラが担う「起承転結の起」
ラストバトルも、これまでのMCUで定番であったラスボスとのてんやわんやバトルとは一風異なり、言ってみれば実にストレンジらしい戦い方を挑むところも大きな魅力です。またMCUならではのオフビートな笑いも多めに配置されているところに好感が持てました。
今作はドクター・ストレンジのオリジンとして、彼がヒーローとして覚醒する経緯が描かれますが、作品の根底に流れるテーマは「時間」です。「永遠の世界」を求める悪の勢力に対して、現状の「失い続ける世界」を守る戦いの物語です。ストーリーの中で主人公は、自らを構成してきた要素のほとんどを失ってしまいます。失意の底に落ちてなお、悪に与せず(手段を手にした後も)、自らに残酷な仕打ちをした「世界」を守るために立ち上がる、そこにドクター・ストレンジのヒーローがヒーローたるゆえんがあるわけです。
ドクター・ストレンジがMCUにもたらした新たな「起」
これまでのMCUはシリーズを大きなストーリーとしてみれば、アイアンマンとキャプテン・アメリカ、この二人のキャラクターを軸にした「アベンジャーズ」というチームの物語でした。その「アベンジャーズ」はシビルウォーにて修復が難しい形で離散、差し迫った脅威も取り合えず提示されないまま、話としては一区切り、MCUは前述の二人から離れた「新しい展開」を待つ状態であったわけです。そういった意味においても『ドクター・ストレンジ』は、MCU全体の数回目の「起承転結の起」を担わなければならない作品でもありました。今作で提示されたMCUの次なる「起」とは、ドクター・ストレンジの能力「魔術」に起因する、別次元とのリンクです。
平たく言うと、MCUはドクター・ストレンジをメンバーに加えることによって「どこでもドア」を手に入れたわけです。今までのMCUは、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」以外は基本的に地球が舞台でしたが、これ以降のMCUはこの「どこでもドア」ありきで、必要に応じて、時には強大な外宇宙の敵を、時には新たなるヒーローをストーリーに出し入れすることが今までより自由自在にできるようになったわけです。
とにかく、前提となる今作を見なければ、これ以降のMCUは始まらない、そういった意味でも見逃せない重要な作品であります。
Photo:©2016 Marvel.