『ダンケルク』クリストファー・ノーランの哲学「可能性を広げる責任を感じている」 ― 本物主義の撮影、複雑なストーリーの理由

最新作『ダンケルク』が日本にて2017年9月9日に公開されたばかりのクリストファー・ノーラン監督が、9月10日(現地時間)にトロント国際映画祭に登場した。ノーランにとって初めての“実話映画”そして“戦争映画”となった本作は、ついに彼をアカデミー賞へと導く作品になるのではないかともいわれている。

映画祭の会場にてQ&Aに応じたノーランは、本作の大きな特徴である「本物主義」と、陸・海・空の3視点からなる複雑なストーリーテリングの意図について話している。そこからは、映画監督クリストファー・ノーランの仕事に対する哲学が浮かびあがってきた……。

注意

この記事には、映画『ダンケルク』の軽微なネタバレが含まれています。

c2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

c2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

なぜ執拗に「本物」にこだわるのか

『ダンケルク』でノーランが挑んだひとつの挑戦とは、第二次世界大戦中の1940年に起こった「ダンケルクの戦い」をなるべく再現することだった。それもなるべくCGに頼らない形で……。
その結果、撮影現場にはフランスのダンケルクが選ばれ、本物のタンカーや船舶が船に浮かび、本物の飛行機が空を飛ぶことになった。俳優たちが乗り込む船や戦闘機には当時さながらの装飾が徹底して施されたという。しかし言わずもがな、そういった工夫の数々は今や“CGでも代用できる”ものだ。

ではノーランは、なぜそこまで本物にこだわったのか? その答えはあまりにも明快だった。

「(船や飛行機を)完璧にCGで作ることもできたでしょう。でも本物だとは感じなかったでしょうね。(イメージを)一致させなければと思っていました。長い時間をかけてできたような艶をCGで作っても、第二次世界大戦のイメージには全然マッチしなかったんです。」

またノーランは、監督としての自らの仕事を「戦時中はこうだったに違いない、というものをできるかぎり再現すること」だったとも述べている。そうしたこだわりが演技にもプラスに作用すると信じていた彼は、爆発の起こる砂浜に、若い兵士を演じたフィオン・ホワイトヘッドやハリー・スタイルズらを立たせることにしたのだった。

「彼らがビーチにいると爆発が起きるんです、次々にね。グリーン・スクリーンは使っていません。本当に起きていたんです。」

c2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

c2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

複雑なストーリーテリングの理由

『ダンケルク』の大きな特徴は、「ダンケルクの戦い」が起こるに至った時代背景や経緯をほとんど説明せず、しかも劇中の場面をダンケルクの砂浜と海上、さらに空を飛ぶ戦闘機という3つの視点に絞り込んだことだ。
「観客をそれぞれの場面に放り込みたかった」と語るノーランは、作品の構造を極限まで削ぎ落とした理由について、まずはこう語っている。

部屋の中に将軍たちがいて、地図を囲んで出来事が進んでいく……そんな場面は入れたくなかったんです。過去の素晴らしい第二次世界大戦の映画は、だいたいがそういう場面から始まりますよね。」

しかし本作はこのように一見シンプルな構造を取りながらも、非常に複雑なストーリーテリングで先へ先へと進むことになる。なぜなら陸・海・空の3視点はそれぞれ扱う時間の長さに差が付けられており、陸は1週間、海は1日、空は1時間の出来事を描いているのだ。ずらされた時系列はクライマックスに向かって収斂していくが、その見事な構成は時に観客を混乱させてしまうことにもなるだろう……。

「脚本家兼監督としての私の仕事は、この映画の観客になることです。私たちはみんな、映画で面白いもの、エキサイティングなものを観たいと思いますよね。先週映画館で観たものとは違うストーリーを観たいと思うんです。
私は(ハリウッドの)スタジオ・システムで自分自身のちょっとした自由をなんとか生み出してきました。だから、常に可能性を広げていくという大きな責任を感じているんです。

仮に“ノーランだから許される”ようなものであっても、常に大作映画におけるストーリーテリングの可能性を切り拓いていくこと、複雑で専門的な内容でも大作映画に組み込めるのだという可能性を示すこと。しかし『インセプション』(2010)や『インターステラー』(2014)がそうだったように、『ダンケルク』でもノーランは観客を置いてきぼりにしない親切さも用意している。

あるいは技術の進歩が著しい映画業界において、CGでもやれなくはないことを“それでもこちらの方がリアルだ”として本物にこだわり抜くこと。もしかすると、それはデジタルに傾きがちな映画製作をアナログに繋ぎとめながら、次の世代に“本物で撮る”可能性を提示することになっているのかもしれない。IMAXカメラを商業映画に導入したノーランが、後に続く監督たちに私物のIMAXレンズを貸し出していたというエピソードも、そんな想像があながちありえない話ではないことを思わせるだろう。

映画『ダンケルク』は2017年9月9日より全国の映画館にて公開中。ノーランによる徹底したこだわりと、その紛うことなき技術の高さを大スクリーンで堪能してほしい。

Source:?http://variety.com/2017/film/festivals/christopher-nolan-dunkirk-no-green-screen-1202553547/
c2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

 

About the author

稲垣 貴俊(Takatoshi Inagaki)。THE RIVER編集部。わかりやすいことはそのままに、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすくしてお伝えできればと思っております。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

ポップカルチャーは世界を変える

TwitterでTHE RIVERをフォローしよう!


こちらの記事もオススメ

JOIN THE DISCUSSION

※承認されたコメントのみ掲載されます。