【全私が震撼した】罪の意識を問う、実在する犯罪一家を描いた『エル・クラン』全然シャレにならなかった解説レビュー
“罪の意識”を問うラスト
さて、誘拐を黙認する家族の中で、三男同様、罪の意識を持ち、葛藤していた事で唯一共感できた我々のホープ、長男アレハンドロ。しかし、犯罪に加担していく中で、父親から「よくやった」と身代金から自分の取り分を出された時、彼は「ありがとう」と目を見開き感嘆とした表情で受け取る。この時、我々の希望は失われたと思った。
しかし、彼の深層心理にはまだ罪悪感が残っていた。逮捕された時、彼は罪を認めようと腹をくくっていたのだ。しかし、一方で恋人の存在、そして家族や何も知らない仲間が「無罪を訴え続けろ」と応援していたせいで、わけがわからなくなってしまい、また罪の意識が揺れ動いていく。
我々は、彼が父親によって追い詰められていく様を見ていたから、いち被害者に思えて少し同情してしまうだろう。だが、彼が犯罪に加担した事実は拭えないので彼も有罪であるのは確かだ。
それをボーッと見て、また歩き出すアルキメデスを捉えて映画は幕を閉じる。
自身の息子が身を投げ、周囲の人間が発狂しているのに対し、父親は涙を流すどころか表情ひとつ変えることなく歩きだすのだ。えっ、もうなんなの?いやいや怖いんだけど、理解できないんだけどって困惑するのも当たり前だ。軍事独裁政権の思想に取り憑かれたサイコパスなのだから。
留置場で息子に自分を殴らせようとした行為は、明確的な偽造工作であり、彼自身が犯罪行為は行った自覚があることを表している。しかし一方で、本当の意味でそれに対して罪の意識を持っていないことも表している。つまり、この男最初から最後まで「僕なんも悪いことしてないもんね」って具合なのだ。末恐ろしい。
エンドロール前のテロップでは、投身自殺を計った長男は奇跡的に一命をとりとめ、刑務所入り。その後精神を病み、何回も自殺を計ったのち若くして亡くなってしまう。一方、父親アルキメデス・プッチオは、終身刑を受けながらも、23年ほどの刑期を受けた後に出所。しかも弁護士資格を取得し、最後まで自分の無実を主張したそうな。
まさに、本当にあった怖い話。いやー、配給宣伝を専門で学んだ身として、この作品のチラシや予告編が本当によく作られているなと思う。なんだよ、「1983年、プッチオ家が起こした〈ユ〜カイな事件〉の真相」って!ダジャレに見事だまされたけど、全然シャレにならないぞこの映画!
自分の常識やモラルが一切通じない、終始困惑してしまうショッキングな映画体験、あなたも挑んでみてはいかがだろう。