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マーベル『エターナルズ』日系脚本家、広島原爆を語る ─ 「二度と起こらないように」

エターナルズ
(c)Marvel Studios 2021

この記事には、『エターナルズ』のネタバレが含まれています。

エターナルズ
(c)Marvel Studios 2021

『エターナルズ』は、人類史の裏に人知れず存在したエターナルズと呼ばれる者たちを描いた物語。エターナルズの10人はそれぞれ固有の能力を活かして、人類の発展を促してきた。

発明の才能を持つファストスは、人類に「車輪」や「エンジン」など様々な道具を提供していたことが劇中で語られる。人類の技術進化を促してきたファストスだが、1945年、彼は自らの能力を呪うことになる。日本の広島に、原子爆弾が投下されたのだ。

キノコ雲の下で

このシーンでファストスは、「僕のせいだ(I did this.)」と原爆の責任が自身にあると悔やむ。MCUのヒーロー映画の中に、現実に起きた歴史の悲劇が取り入れられるのは前代未聞だ。キノコ雲に、焼け野原、原爆ドームが映る風景は、日本の観客にとってショッキングなシーンとなった。

なぜマーベル映画に広島原爆が登場したのか?これには、脚本家の1人カズ・フィアルポが、日本にルーツを持つことに由来する。「私は日本人のハーフで、家族は超アメリカン。ひいひいおじいさんは日本出身です。(原爆は)世界的に大きな出来事。アメリカの学校でも習います」と、カズは米Polygonで語っている。

カズが通ったカリフォルニアの公立学校では、広島原爆投下の擁護派と反対派でクラスを半分に分け、ディベートを行う授業があったという。「戦争における倫理的なグレー・ゾーンについてしっかりと議論をする、とても有用なものだった」とカズは話している。

カズは『エターナルズ』で人類史の一部を題材にするにあたり、7年生(日本で言う中学1年生)の時に行ったこのディベート授業を思い出し、脚本に取り入れた。「原爆を落とすべきだったのかという正解はありません。原爆は本当に100万人を救ったのだろうか?誰にもわかりません。」

ところで、唯一の被爆国である日本で育った観客は、カズが原爆投下について「グレー・ゾーン」で「落とすべきだったのかという正解はない」と話していることに、驚きを禁じ得ないだろう。なぜなら日本の学校教育では、広島・長崎の原爆投下は世界大戦という異常事態が招いた人類史上最大の誤りであり、二度と起こしてはならないという非核三原則の重要性が徹底して教えられるからである。

日系人であるカズがこれを「グレー・ゾーン」と考えていることからは、アメリカでは今も「原爆正当化論」が根強いということが窺い知れる。

原爆正当化論と溝

「原爆正当化論」とは、第二次世界大戦当時のアメリカ大統領ハリー・S・トルーマンが主張した、原爆投下によって戦争の早期終結が実現したという考え方のこと。原爆によって日本が降伏したことにより、アメリカ軍の日本上陸作戦が実行されずに済み、これによって想定されていた米兵100万人の犠牲が回避できた、という説だ。カズが「原爆は本当に100万人を救ったのか?」と疑問を口にしているのは、これが由来である。

正当化論について象徴的な場面が、2005年のTBSドキュメンタリーで確認できる。マンハッタン計画に参加し、原爆搭載機エノラ・ゲイに乗って広島への飛行に同行、有名なキノコ雲の映像を撮影した張本人であるアメリカのハロルド・アグニュー博士が、「あの日」以来初めて広島を訪れる様子の一部始終を映すものだ。

この番組でアグニュー博士は原爆ドームの展示を見て周った翌日、実際の日本人被曝者2名と対談。被爆者らは原爆によって広島の人々がどれほどの地獄を味わったか、声を震わせながら伝えるのだが、アグニュー博士は戦争の早期終結のために原爆が必要だったという主張に終始。日本の被害者や遺族に謝罪をする思いは少しでもあるかと確認されても「まさか(No way)」「謝罪はしない(No apology)」と平行線で、被曝者側が涙を呑む形で対談は終わる(取材を終えてホテルに戻った時、同行した博士の妻が「あなた、謝ればよかったのに…」と言うと、博士は「いや、謝れないんだよ」と答えたという。その後、アグニュー博士は2013 年に亡くなる)。

なお「原爆正当化論」については、現在までに様々な歴史考証が登場し、原爆投下の必要性は必ずしもなかったことを証明しているのが実際のところだ。

『エターナルズ』脚本家のカズ・フィアルポは原爆投下に対する自身の解釈を「グレー・ゾーン」に委ねることで明言しなかったが、劇中では原爆開発に間接的に関与したという設定のキャラクターに、これを後悔させるようなセリフを与えることで、日本側に一定の同情を寄せている。ファストスは涙を流し、無力感に苛まれて膝を落としているのだから、そこに込められた意味は明らかだ。

ちなみに原爆投下のシーンを巡っては、映画製作側の間でも「対立的だ」「恐ろしすぎる」と懸念の声もあったという。しかし、同シーンはすべてのバージョンの脚本に組み込まれていたといい、最後まで本編に残すためにクロエ・ジャオ監督が「本当に戦った」とカズは証言しているから、確たる信念があったものと思わされる。また米Inverseに対しては、「ディズニー映画がジェノサイド(大量虐殺)を描いたのは、我々が初」とも語っている。

『エターナルズ』が広島の原爆投下を扱ったことに対しては、「ジェノサイドの悲劇を矮小化している」との批判の声もあった。これに対してカズは「日本に家族を持つ日系アメリカ人として、これは私の人生や歴史における大きな一部。人間の悲劇を避けて通りたくなかったんです。二度と起こらないように、皆さんに考え、話し合いをして欲しいんです。悲劇を軽んじてはいません」と反論している。「すべての年齢、人種、出身の観客に、あの出来事を考えさせたいのです」。

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Source:Polygon,Inverse,TBS NEWS,TBS NEWS note

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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