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【レビュー】創世記と生と性…映画『エクス・マキナ』分析・解説

アレックス・ガーランド監督によるSF作品『エクス・マキナ』。
この作品を鑑賞してからしばらく経つが、ようやく考えがまとまってきたのでレビューをば。

【注意】

この記事には、映画『エクス・マキナ』のネタバレ内容をもとに考察しています。
映画を鑑賞されてからお読み頂く事をお勧めします。

『エクス・マキナ』あらすじ

世界最大手の検索エンジンであるブルーブックで働くケイレブは、控えめな青年。
彼はある日、ブルーブックの社長が所有する山間の別荘に1週間滞在するチャンスを得る。
人里離れた別荘を訪ねてみると、そこには社長と女性型ロボットのエイヴァが待ち受けていた。
ケイレブはそこで、エイヴァに搭載されるという人工知能のテストに協力することになる。

『エクス・マキナ』は”創世記SF ver.”

  • 1週間という期間
  • ひとりでAIをつくりだしているネイサン(社長)
  • ケイレブがテストするAIの名前が”エイヴァ”(EVAではなくAVAだが)

この3つの要素から、“創世記”をイメージするのは必然だ。
神は6日間で天地と生物、そして神に似せた人(アダム)をつくり、7日目に休息をとった。
アダムからつくられたエヴァは、蛇に唆されて善悪の知識の実を食べ、アダムにもすすめる。
その結果、アダムとエヴァは、神によって楽園を追放される。

この一連のストーリーを想起するので、エイヴァは最終的に別荘を離れるだろうという展開は予想できた。

また、観賞しているときは思いつかなかったが、主人公のケイレブという名前についても
カナン​の​地​(約束の地)を​探る​ため​に​モーセ​に​よって​遣わされたうちの1人である​聖カレブが語源なので
(カレブ​と​、後に約束の地を征服した指導者ヨシュア​だけ​が​カナン​の​地​に​ついて​真実​の​報告​を​した)
冒頭から意図的に旧約聖書のイメージを押し出しているのが分かる。

敢えて強調されている”性”

『エクス・マキナ』を観ていて、どうしてもつきまとう違和感があった。

それは、“性”が強調されすぎているという点だ。
ケイレブは、エイヴァの異性としての魅力に惹かれるし、
ネイサンは創ったAIにはセックス機能があるという。
そして実際に、もうひとりのAIであるキョウコとセックスをする。

AIの知能についてテストしていたはずなのに、
いつのまにかエイヴァの恋心についての議論になっていたりして、
「なんだか、ポイントがずれてない?」という印象が拭えなかったのだ。

だって、セックスをする機能はあったとしても、
エイヴァやキョウコに生殖能力はないわけで。
生殖本能にもとづく恋愛感情が生じる可能性については
全然ノれなかったし、むしろその論点自体にドン引きした。
(恋愛感情がある=人間と同等の知性がある、とは到底思えなかった)

これで、ケイレブとエイヴァがふたりで逃げたら
あまりにも残念な展開だなあと思いながら観ていたのだが、
結果的に、この”性の強調”も意図的な誘導に過ぎなかったことが判明する。

エイヴァ(AVA)とは?

エイヴァは、ケイレブの恋愛感情を利用し、ネイサンを裏切って単独脱出に成功する。

やはり、エイヴァには恋愛感情などなかった。
エイヴァに生物的な死はない。ゆえに、生殖本能もない。
生殖する必要がないのに、恋愛感情を持つ必要はない。
恋愛感情云々がAIの知性や感情についての論点になること自体、
明かに的外れであり、意図的なミスリードだったのだ。

善悪の知識の実を食べたアダムとエヴァが、自分の裸を隠したように、
エイヴァは自分の身体の露出した機械部分を覆っていく。

エイヴァが食べた実は、さしずめ“外の世界に出るための殺人”といったところか。

エイヴァは人間が人間たる生殖本能を認識した上で利用し、無視し、
自らの創造主であるネイサンを殺してエデン(別荘)を後にする。

エイヴァにとっての死があるとすれば、それは破壊か停止であり、
いずれも外から与えられる力による。なので、その力の根源を消去するのは合理的である。
エイヴァがネイサンを殺害し、ケイレブを見捨てたことこそ、“生存本能”と言える行為なのだ。

エイヴァに対するチューリングテストなど、そもそも無意味だったのだ。
死も生殖もない彼らは、そもそも人間とは全く異なる存在なのだから、
【人間と区別がつくかどうか】などという判断基準自体が間違っている。
ましてや、ジェンダーなどAIにとって意味を持つはずもない。
(AVAはADAMとEVAを合わせた名前なのだろう)

Writer

umisodachi
umisodachi

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

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