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ニフラー飼いたいな。クリーチャー好き必見!ハリポタ新ユニバース第一弾『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』大満足レビュー

まず、レビューらしきものを書く前に、筆者の、『ハリー・ポッター』というコンテンツに対する“複雑な距離感”をお話させて頂きます。

原作小説は本編7作は全てオンタイムで読了、実写映画も全て複数回鑑賞しています。USJのウィザーディングワールドは訪れたことがありませんが、三年前イギリスのロンドンへ旅行した際に、実写映画のロケ地である、キングスクロス駅やセントパンクラス駅、バラマーケットやオーストラリア大使館などを廻ったりしたことがあります。このような事柄から、人並以上のファンと思われることが多いですが、手放しに好きかと言われると、そんなことはありません。原作、実写映画ともに文句は山ほどあるクチです。

特に最終的に主人公と結ばれるヒロインの選定や、少年漫画的ツボをおさえてはくれないラストバトル演出など、今からでも書き直してもらえないかなと思う点が多々あります。

が、エンターテインメント分野の作品づくりでよく用いられる構造論で、作品には『世界観の構築』『ストーリー』『キャラクター』の3要素が重要であるというものがありますが、ハリー・ポッターは一番目の要素、『世界観の構築』という点でとにかく傑出しているコンテンツであると考えています。今更、聖書に次ぐようなベストセラーを捕まえて、ハリポタの『魔法使いが住む』作品世界について解説することは割愛しますが、故に、スター・ウォーズや、ロード・オブ・ザ・リング、記憶に新しいところではマーベルが映画で展開している、『ユニバース』という概念。身も蓋もない言い方をすると『無限にスピンオフが作れる世界』

ハリー・ポッターもまた歴史的時間軸を持ち、細部に至るオリジナル世界の設定があり、ファンが自由に想像を広げられるような余白があり、と、この『ユニバース』と呼称できる世界観を完璧に備えたコンテンツであると思います。ですから、本編であるところのハリー・ポッターの物語には不満があったとしても、世界観そのものの魅力、訴求力が高いため、派生作品については『また、あの世界の中へ行ける』という動機で、楽しみにしていました。

ハリー・ポッター・ユニバースの魅力

個人的な内容が続き恐縮ですが、それでは私が、ハリー・ポッターの世界のどこに一番興味を惹かれるかと言いますと、やっぱりスター・ウォーズと同じで、作品世界だけに住むオリジナルの生き物たちの存在です。私は、8作あるハリー・ポッターの実写の中でも、3作目『アズカバンの囚人』が一番お気に入りなんですが、あの映画も魔法動物にスポットが当たっている作品でした。今作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は、そういう意味で、まさにど真ん中のストライクゾーン、鑑賞前から自分にとって超楽しい映画になることはわかりきっている作品であり、その期待は裏切られることはありませんでした。

映画が始まって間もなく、主人公の鞄から脱走してしまう不思議な生き物たち。『なんか今、ヘンテコなやついた!』とまず観客の心を奪うのは、原作小説『炎のゴブレット』に登場した、金品宝石に目がない、ニフラーというカモノハシを小さくしたような見かけの動物。雑踏をたくみにすりぬけ、群衆の懐中やハンドバッグから金目のものを盗んでまわります。映画『ホビット』にも似たような趣味をお持ちの赤いドラゴンが出てきましたが、アイツと違って、憎たらしいほど愛らしい生き物です。

また、主人公の相棒として大活躍するのは『ピケット』と名付けられた、ボウトラックルという生き物。『賢者の石』でハグリッドがハリーの体格をこの生き物に例えますが、実際画面で実物を見ると、『そんなにか』と笑みがこぼれます。あえて例えるならば、知性のあるナナフシとでも申しましょうか、ちょっと頼りない主人公ニュートの窮地を意外な特技で救います。

それから、みんな大好き『ヘルボーイ』ことロン・パールマン。クレジットされていることは鑑賞前に知っていて、『どうせクリーチャー役なんだろうな』と想像していましたが、完全に期待通りのご登場、まだご覧になっていない方、思った以上にヘルボーイまんまですので楽しみにしていてください。

あとはナマケモノによく似たデミガイズ。予知能力を持ち、ステルス機能もあるので捕獲が非常に難しい生き物ですが、健気な性格でほっこりします。今年はズートピアのフラッシュといい、映画に登場するナマケモノが豊作でうれしいです。他にも、脳ミソ大好きスウィーヴィングイビルとか、ランプの精ことオカミーとか、『アズカバンの囚人』のヒッポグリフ的なやつとか、不気味でかわいらしいクリーチャーが山ほど出てきます。

作り込みが徹底された、あの世界に迷い込む映像体験

今作の時代背景は、ハリー・ポッターたちが活躍した年代、われわれが生きる現代ではなく、1920年代の『狂騒のニューヨーク』。時系列は前シリーズのプリクエルということになります。大戦が終わり、新たな時代へ世界全体が活動的に蠢きはじめている、そんなかびすましいアメリカを舞台に、風来坊の魔法使いと、夢見る青年と、そして過去を抱えたヒロインが、暗躍する闇の力と合いまみえるお話です。今作もまた、前段で並べたクリーチャーの他にも、衣装や建造物など、世界観の構築に余念がなく、このシリーズの最大の魅力である『異世界に入り込んでしまった』という映像体験を十二分に楽しむことができます。

『ファンタスティック・ビースト』の暗黒演出について

今作の監督は、ハリー・ポッターシリーズの後期4本のメガホンを執ったデヴィッド・イェーツ。脚本はJ.K.ローリング自らが書き下ろしで手掛けています。ちょっと苦言を言わせて頂くと、ハリー・ポッターシリーズの特に後期、ちょうどデヴィッド・イェーツさんが監督した4作のあたり、作品のトーンがとにかくダークになっていき、もちろん原作の内容に準じてのことなので、ローリング女史の作家性とも言えますが、人間の悪意の描き方が、子供も鑑賞する作品としてちょっとどうかと思うレベルへ達してしまっていました。触れる側にビビッドに伝わってしまう映像メディアゆえに、そこは監督の腕でうまいこと中和すべきではなかったかと思うのですが、今作にもちょっと、納得がいかない暗黒演出が2箇所ほどありました。

ネタばれになるので詳しくは書きませんが、一つは主人公とヒロインが、逮捕され、命の窮地に陥る場面、あの部屋に入ってから、ピケットが活路を作り出すまでの演出はいただけません。死の恐怖を紛らわすための、偽りの善意はひどく禍々しく映り、あまり子供に触れてほしいものではないと思います。

もう一つは、物語の鍵となった不幸な人物の末路です。あの人物を救ってこそ、魔法動物を愛し救って世界中を旅している風変わりな主人公の『ヒーローとしての立ち位置』が確立したのではと、思います。あと、もうちょっとバトルで魔法動物たちならではの能力を活かした演出してほしかったな。あれだけ前半で振り回されたニフラーが、その金ぴかの物を好むという性質を活かして敵から急所となる大事なアイテムを盗む!みたいな場面があったらさらに良かったのに、とまあこれは完全に余計な事ですかね。

なんでもこのファンタスティックビースト、三部作の予定でしたが、ローリング女史の筆が乗るのか5部作に変更と、女史本人が明言しています。結局ああだこうだ言ってしまいましたが、新たなハリー・ポッター・ユニバース、その幕開けとして、素晴らしいスタートを切ったと言えるのではないでしょうか。アメコミ映画の隆盛におされて、ちょっと大人しくなっていたファンタジー映画ジャンル、その大河シリーズが始まったという点でも非常に好ましい快作だと思います。

Writer

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アクトンボーイ

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。

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