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観客の恐怖の記憶を呼び戻す!美しい悪夢『エヴォリューション』レビュー

そこはユートピア、天国か
ディストピア、地獄か。
「エコール」のルシール・アザリロヴィック監督が描く 美しく残酷な物語、映画『エヴォリューション』のレビューです。

『エヴォリューション』ストーリー

ある人里離れた島、そこに住んでいるのは女性と少年だけ。毎日奇妙な薬を飲まされ、定期的に病院に連れて行かれる少年たち。「何かがおかしい」と少年ニコラは島の異変に気付きはじめる・・・

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「エコール」は閉鎖された空間に住む少女たちの物語でしたが、今回の物語の登場人物は女性と少年だけ。その響きだけでなんだか、甘く危険な香りがしてきます。

映像は不気味なまでに美しく、寒色で統一された世界観は圧巻。白やグレー、濁ったブルー・・・人間の肌の露出が多い映像で、この視覚的に寒そうな色使いが よりいっそう私たちを身の毛のよだつ思いにさせれくれます。

出てくる少年たちはみんな天使のような美少年。みずみずしい少年たちの魅力と ちっとも笑わない女性たちの凄みのミスマッチさといったら・・・まさにユートピアとディストピアが交互に降りかかってくる、恐ろしい81分間でした。

誰もがよみがえる幼い頃の恐怖

小さい時、最も恐ろしい場所の1つといえば”病院”だったのではないでしょうか。親に連れてこられ、知らない大人たちに診察され 周りを取り囲むのは白く無機質な壁。座る椅子はひんやりと冷たく、次は何をされるか分からない。

その”何が起こっているか分からない”のに 例えば注射の”痛み”や固いベッドの感触はリアル。そして”怖い”という感情は強烈に焼きつくんですよね。まさにこの『エヴォリューション』では、その恐ろしく心細い”幼い頃の病院の記憶”が描かれていると思います。

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薄暗い廊下やライトがチカチカと点滅するエレベーター、お化け屋敷かよ!と突っ込みたくなるぐらいの不気味な病院。女性の医師たちはやっぱりみんな無表情。
この『エヴォリューション』はとてもセリフが少ない作品です。

少年たちの心細そうな表情、主人公ニコラのいぶかしげな瞳、女性たちの生気のないロボットのような表情がとても印象的。きっと少年たちの瞳が映るたびに彼らに同情し、観ている私たちも同じく不安な気持ちを駆り立てられることでしょう。

エヴォリューション、”進化”とは?

タイトル『エヴォリューション』、”進化”を意味するこの言葉。
この映画の舞台は海に囲まれた島。様々な海、水の映像が多く登場します。

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みなさんプールに入って息を止め底まで潜り、キラキラと光る水面を下から眺めたことはありませんか?とてもきれいだと思うと同時に、なんだかほっと落ち着く気持ちになりませんでしたか?

この作品に登場する海の生き物 ヒトデやイソギンチャク、大きなカニなどは なんだか人間の内臓を連想させます。ゆらゆらと揺れるイソギンチャクは美しいですが、なんだか気味が悪くてグロテスク。静かな波も時には激しくなり、それは体内を流れる血潮を連想させます。
人間は海からやってきたのか、それとも私たちの体の中に海があるのか、私たちは何から進化を遂げているのか。そんな果てがない、途方もない想像と考えに取り憑かれてしまうことでしょう。

まさに”美しい悪夢”

『エヴォリューション』、とにかく”訳が分からない”映画なんです。

とにかく何が起こっているか分からない。何が進められているのかも、これはなんなのかも、何を見させられているのかも、何が目的なのかも訳が分からないんです。きっとそれはこの作品がとにかく”悪い夢”だから。

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作品自体は81分間と長くはないですが、実際もっともっと長く感じられると思います。あの注射の順番を待つ時間が過ぎていくようでなかなか終わらない心臓の圧迫感、「悪い話があるんだけれど」と切り出されて聞くまでのあの嫌な間・・・そんな時間がずっと続いているといった感じでしょうか。
“ 痛み”を感じさせる生々しさ、グロテスクさ そして”生”を感じさせるダイナミックな海と 登場人物たちの美しさ。知りたくないけれど、見たくないけれど、先に進みたくなってしまう。まさに悪夢を体験できる作品だと思います。

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きっと脳裏にいつまでも焼きつく余韻と衝撃。『エヴォリューション』この悪い夢が醒めるか、醒めないかは ぜひ劇場で確かめてみてください!

Writer

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Moeka Kotaki

フリーライター(1995生まれ/マグル)

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