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「フォーティチュード/極寒の殺人鬼」雪原クライムミステリーだと思ってたら、奇奇怪怪のオカルト・スリラーでした

フォーティチュード/極寒の殺人鬼Ⅱ
©2016 Sky UK Limited. All Rights Reserved.

「フォーティチュード/極寒の殺人鬼」というTVシリーズをよく知っているという方は、日本ではまだそんなにたくさんはいないのではないだろうか。イギリスの英国の有料放送局Sky Atlanticが推定約38億円といわれる製作費で描いた、極寒の白銀景色で繰り広げられる濃厚なクライム・ミステリーだ。そう、“極寒のクライム・ミステリー”なのだと、日本で配信・放送のスターチャンネルの公式ページでは謳われている。ところが実際のところ本作は、画面から目を思わず逸らしたくなるような、ハードなオカルト・スリラーだったのである。

舞台はノルウェーの北極圏に面したフォーティチュードという町で、これは架空の地である。人口は700人ほどの小さな社会で、人口よりシロクマの頭数の方が多いから、町の皆さんは雨傘感覚でライフルを持ち歩いている。氷で覆われた雄大な風景や夜空に舞うオーロラが非常に美しいということで、過去を捨てて心機一転のために越してくる者もいる。ここは一度も暴力的な犯罪が起きたことがない“地球上最も安全な町”というのだが、物語の殺人事件とは、そんな土地でこそ起こるものだ。それも、とびきり残酷に。

雪景色を舞台に繰り広げられる殺人ミステリーといえば、例えばコーエン兄弟の『ファーゴ』(1996)とか、タランティーノの『ヘイトフル・エイト』(2015)とか、ジェレミー・レナー主演の『ウインド・リバー』(2017)を思い浮かべるかもしれない。少し遡れば『シャイニング』(1980)といった名作もある。深雪の地は、いつだってミステリー作家や映画製作者お気に入りの舞台なのだ。

こういった雪原×ミステリーの作品には、閉鎖的な孤立環境だからこそ事件を展開させやすいといったことや、雪原の真っ白な静寂を美しくも恐怖的にも描けるというひねりの効かせやすさといった魅力がある。それから、雪景色に鮮血がよく映えるといったビジュアル的な利点もあって、とりわけ『ファーゴ』や『ウインド・リバー』のポスタービジュアルを見ればそれは明らかだ。

というわけで、きっとこうした雪原×ミステリーものに、イギリス製作ならではのアガサ・クリスティ的な推理要素、『ミレニアム』シリーズのようなダークな物語が観られるのかなと思って鑑賞してみたら……もちろんこうした楽しさもありつつ、ちょっと斜め上からの魅力もあることに驚かされることとなった。それは、身の毛もよだつオカルト要素である。

 フォーティチュード/極寒の殺人鬼Ⅱ
©2016 Sky UK Limited. All Rights Reserved.

オカルト、SF、ホラー…… ジャンルの融合

「フォーティチュード」で起こる事件は、とても残虐で気味が悪いものばかりだ。血まみれの殺人現場や、腹ワタや骨が飛び出した惨殺死体、遺体を切り開く解剖シーンと、描写はもはやスプラッターの域。シーズン1では氷の中からマンモスの死骸を掘り起こしたことがきっかけで、とある脅威が出現。それは、精神を侵され凶暴化したり、肉体が蝕まれたりするといった、未知の感染症の恐怖だった。

脚本・製作総指揮のサイモン・ドナルドは、こうした奇怪さこそが本作の魅力だと考えている。シーズン1 当時のインタビューでは、とあるシーンの描写について「モンスターもののようにしたかった。頭に浮かんだのは『遊星からの物体X』でした」とすら話しているのだ。確かに『遊星からの物体X』(1982)といえば、これまた氷雪地を舞台に、得体の知れない未知の恐怖が、ヒトとしての尊厳をおどろおどろしく奪っていく恐怖映画。この怪作からもインスピレーションを授かっているというから、「フォーティチュード」の異質ぶりが分かるだろう。さらにドナルドは、こんな風に語ってもいる。

「視聴者に考えて欲しいんです。これはSFなのか?ホラーなのか?超常現象モノなのか?って。こういった道は、全て開かれています。なぜならこのドラマを観る人は、こう考えるからです。“一体どういうことなんだ?ここはどこなんだ?こいつらは誰だ?自分はどのジャンルにいるんだ?”ってね。」

更なる怪事件相次ぐシーズン2&3

シーズン1では、ひとまず恐怖の殺人連鎖は断ち切られるように思われたのだが(ネタバレはしないでおくが、相次ぐ怪死の原因はスティーヴン・キング的なトラウマものだった)、シーズン2でも新たな恐怖が吹き荒れる。第1話の冒頭で見られるは、1942年の恐ろしいフラッシュバック映像だ。

あるグループが吹雪の中を突き進んでおり、小屋に立ち入ってみると、ランタンに照らされて首吊り死体が浮かび上がる。続くシーンでは、泣き叫ぶ赤ん坊を抱く男性の後ろ姿。ボリボリという不気味な音が聞こえると、赤ん坊の泣き声が止み、小さな脚がピンと伸びて動かなくなるのだ。振り返った男の口元には血が乱れている。なんとこの男、赤ん坊を生きたまま喰っていたのだ!いきなり胸糞である。しかも、猟銃で撃ってもまた立ち上がり、夜の吹雪の中にふらふらと歩き去っていくではないか。その空では、真っ赤に染まった「血のオーロラ」が、不気味に揺れている……。

この第1話では、舞台が現代に移ると、雪の下から首なし死体が発見されるという、これまた恐ろしい展開に。頭はどこに?付近を探しても見当たらない……。さらに、犬の斬殺死体や、次なる首なし死体が発見されたりと、おぞましい事件は続々と起こる。ほかにも、眠り続ける女を実験台にする医師や、謎のシャーマンなど、異様な人物が次々と登場。これのどこが“地球上最も安全な町”だって?

 フォーティチュード/極寒の殺人鬼Ⅱ
©2016 Sky UK Limited. All Rights Reserved.

「フォーティチュードは(シーズン2以降も)まだ、非常にドラマチックに残酷な殺人の世界にあることは間違いありません」と、シーズン1から続投している出演者のソフィー・グローベールはインタビューで話し、こんな舞台裏エピソードも明かしている。「朝、メイク室に出演者のみんながそれぞれ椅子にかけていているんですけど、隣に座った人に“今日はどんなシーンをやるんですか?”って聞いたら、“あぁ、今日は赤ん坊を食べるシーンかな”なんて言うですよ」。

「フォーティチュード」の魅力が、単なるクライム・ミステリーの枠に留まらないということは、もうお分かりになっただろう。本作は隔絶された雪の街を舞台とする猟奇的なオカルト・スリラーであり、凍てつくようなサスペンスであり、謎めいたSFであり、そして奇奇怪怪のホラーでもあるのだ。先に挙げた『ファーゴ』のような雪原ミステリーのファンはもちろん、スティーヴン・キング作品のような恐怖映画、ハンニバル ・レクターや『セブン』(1995)といった猟奇殺人モノがお好きな方もお楽しみ頂けるだろう。

 フォーティチュード/極寒の殺人鬼Ⅱ
©2016 Sky UK Limited. All Rights Reserved.

豪華キャストも見逃せないポイント。高評価を得たシーズン1では、『ハリー・ポッター』ダンブルドア校長役でおなじみのマイケル・ガンボンが出演していたほか、『プラダを着た悪魔』スタンリー・トゥッチが英国ドラマ初出演ということで話題を集めていたが(トゥッチはシーズン1で役目を終える)、シーズン2では『デイ・アフター・トゥモロー』(2004)など往年の映画スター、デニス・クエイドが参戦。物語を大きく動かす漁師マイケル・レノックスを演じている。

ほか、『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(2016)主演のルーク・トレッダウェイや、「ゲーム・オブ・スローンズ」からはリチャード・ドーマーとミシェル・フェアリーも出演。「THE KILLING/キリング」で主演を演じたソフィー・グローベールや、『バイオハザード』シリーズのシエンナ・ギロリーも重要な役どころで出演している。ちなみにシーズン2の第1話には、ブレイク前夜のジェシカ・ヘンウィック(『マトリックス レザレクションズ』バッグス役)がちらっと登場しているところも面白い発見だ。

この冬は、暖かい部屋で身も凍るようなスリルを。海外ドラマ「フォーティチュード/極寒の殺人鬼」シーズン2(全10話)は「スターチャンネルEX」にて全話独占配信中、シーズン3(全4話)は2月1日(火)から全話配信開始だ。「BS10 スターチャンネル」でも放送となる。

海外ドラマ「フォーティチュード/極寒の殺人鬼Ⅱ」 (全10話)

<配信>「スターチャンネルEX 」
【字幕版】全話配信中

<放送>BS10 スターチャンネル
【STAR1 字幕版】 2月7日(月)より 毎週月曜23時 ほか
【STAR3 吹替版】 2月17日(木)より 毎週木曜22時 ほか

海外ドラマ「フォーティチュード/極寒の殺人鬼Ⅲ」 (全4話)

<配信>「スターチャンネルEX 」
【字幕版】2月1日(火)より全話配信

<放送>BS10 スターチャンネル
【STAR1 字幕版】【STAR3 吹替版】4月放送予定

Souce:Vox,The Killing Times

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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