『ピクセル』みたいにゲーマーも本物の戦場で活躍できる?ゲームと戦争の違い、兵士らが語る

「オタクに指揮権を!」
2015年の映画『ピクセル』では、未知の宇宙人が地球を襲来する。彼らが80年代に流行したレトロゲームの形と行動を模していたことから、この年代のゲームに精通しており、『ギャラガ』の元世界チャンピオンであるサム・ブレナーが大統領の指名を受け米軍に加勢する。保守的なアメリカ海軍は「オタク」の登場をはじめは快く思っていなかったが、サムはかつてのゲームプレイで培った筋金入りのテクニックと知見を活かし、敵の弱点を見破って思わぬ活躍を見せる。屈強な兵士とゲームオタクの間のヒエラルキーは一気に逆転し、サムは現場の指揮権を獲得していく──。
最新のゲーム画面は、実写映像と見紛うほどリアルに進化している。近年ではVRゲームも注目を浴び始めており、バーチャルと現実の境目はますます曖昧になっていく。
では、ゲームで培ったスキルは、『ピクセル』のサムやエディ・プラント、”ワンダーボーイ”ラドローのように実際の戦場で活かされることはあるのだろうか。特に、戦争をリアルに再現したFPSゲーム(一人称視点のシューティングゲーム)の達人は、コントローラーを本物のアサルトライフルに持ち替えれば、サム・ブレナーのように次々と敵を撃ち落とすことはできないのだろうか。
ゲームと戦争の違い
実際の兵士たちの声を紹介しよう。彼らも娯楽としてFPSゲームを楽しむことはあるが、たとえゲームがどんなにリアルになろうと、本物の戦場とは決定的に異なる点がいくつもあるという。
海兵隊員のニコ・レクエスト氏は、「ゲームでは敵が自分の目の前に現れているけど、実際の敵はあんな風に撃たれにやってくることはありませんよ」と言う。同じく海兵隊員のアンソニー・アンドラダ氏も、「(実際の戦場は)ただ動き回って撃つだけでは済みませんから」と加える。
アンソニー氏はまた、ゲームでは絶対に再現できないものとして「長時間にも及ぶ実行動と日々のストレス」を指摘。その間、兵士らは限りある武器を携帯し、使い所を瞬時に判断する必要がある。
「ゲームでは、ありえない量の弾薬がありますが、実戦で持ち運べる弾倉はせいぜい30丁。そこで我々は、弾薬を無駄にしないために”ワンショット・ワンキル”というテーマを学ぶのです。私もゲームでは、アホみたいに弾薬を消費しますけどね。」
さらに、ゲームと実戦では戦術も大いに異なる。レクエスト氏が「ゲームでは、飛び出して撃てばいい。私もよくゲームでは突進して撃ちまくります。(ゲームでは)カバー(=援護)や潜伏という考え方がほぼ無いですよね」と語ると、アンドラダ氏は「ゲーマーの戦術は実戦では絶対に役に立たない」と述べている。
映画『ピクセル』では、主人公サムはパターンのあるレトロゲームを好んだ。アフガニスタン赴任を経験したブライアン・ゴンターマン軍曹は、実際の戦場は当然ながらより複雑だと語る。それは、現代のゲームに登場するAIでも敵わない。「ゲームでは敵の動きを察知できる。一方で現実世界は、状況が日々変化します。現場で学んでいくものなのです。」
ゲーマーは実際の戦場でも活躍できるだろうか。アンドラダ氏はこのアイデアに否定的だ。自身もゲームのファンとして楽しくプレイしているというが、「ゲームと現実はぜんぜん違うんです」とキッパリ。もしもゲーマーが志願する際は、本気で身を捧げる覚悟がある者だけにして欲しいと語る。
また、元海兵隊員でライフルやピストルのインストラクターを務め、兵器を扱った回数は数千回に及ぶジョン・デイヴィス氏もQ&Aサイトで自身の見解を述べている。やはり、武器や戦術、そして戦場での現実の多くはゲームに投影されていないという。そんなジョン氏も、あくまでも娯楽としてFPSゲームを楽しんでいる。ある時、人気ゲームの『ヘイロー』のコマーシャルを見かけたジョン氏は、このゲームにリアルな「海兵っぽさ」を感じた。興味を持って調べてみると、「これは未来の海兵の姿だ!未来の海兵はエイリアンと戦ってるんだ!」と大興奮。実際にプレイしてみると、ゲームのストーリー共々非常に楽しんだという。
訓練にVR取り入れる米軍
ゲーマーが”ネクスト・ステージ”として実際の戦場を選ぶよりも、現実には兵士らにゲームで実戦シミュレーションをさせることのほうが現実的だ。実際に、VR(ヴァーチャル・リアリティ)は軍の訓練に導入されている。ヘッドギアを装着した兵士らは基地から一歩も出ること無く、安全に、様々な状況をシミュレートした仮想空間下で訓練に励むことが出来る。例えば、悪天候下や凹凸の地形で車両をどう運転するべきか、様々な環境下で落下傘部隊はいかにパラシュートを扱うべきか、などを仮想訓練する。
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