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「MeToo」から読み解く『ゲティ家の身代金』 ― 前例なき再撮影で実現した、名優と監督による達成とは

ゲティ家の身代金
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映画界の大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ騒動は燎原の火のように燃え広がっていき、いまなおハリウッドでは火種がくすぶっている。欧米では、この映画業界の一大スキャンダルに端を発するセクハラ撲滅運動(「#MeToo(私も)」「Time’s Up(もう、おしまい)」)も各地を駆け巡り、いまやハリウッドに収まりきらない世界的な社会問題として広く認知されている。

こうした運動にあやかる形で多くの女優たちが被害を発露し、ケイト・ブランシェットやアンジェリーナ・ジョリーら大物女優が一様にして声をあげた。セクハラ告発ムーブメントの熱気が高まる業界では、これら一連の騒動を受けて、一本の作品がお蔵入り寸前の危機に瀕していた。それこそが本作ゲティ家の身代金だ。

『ユージュアル・サクペクツ』(1995)、『アメリカン・ビューティー』(1999)のオスカー俳優ケヴィン・スペイシーが石油王ジャン・ポール・ゲティ役を演じ、撮影も滞りなく完了した状況の中、それは起こった。スペイシーが過去に行った当時14歳の少年に対するセクハラ疑惑が発覚し、なんと米国公開ひと月半前にして異例の降板劇が巻き起こったのだ。ここでは、フェミニズム映画としての観点から作品の本質を紐解いていく中で、トラブル続きの映画製作にも言及しつつ、考察していきたい。

フェミニズム映画の新たな傑作

1973年7月、夜のローマ。石油王ジャン・ポール・ゲティ(クリストファー・プラマー)(以下、ゲティ)の孫、ジョン・ポール・ゲティ三世(チャーリー・プラマー)(以下、ポール)は、観光客で賑わうロマンティックな繁華街を抜けて、娼婦が根城にする薄暗い通りをひとり散策していた。この冒頭に映したわずか20~30秒足らずのモノクローム映像は、次第にゆっくりとカラー映像へ推移し、このあとに起こる煩雑な事件のはじまりを告げているようだ。

新星チャーリー・プラマー(クリストファー・プラマーとの血縁関係はない)が演じる青年ポールは、まだ少年の雰囲気が残るあどけない顔立ちだが、冒頭シーンでは娼婦の誘惑を気にも留めずに飄々(ひょうひょう)とした態度で夜を楽しんでいる。しかし、17歳の青年ポールは何者かによって拉致され、観客たちをこの誘拐事件の混沌へと瞬く間に誘うのだ。この1973年に起きた実際の身代金誘拐事件は、後に身代金の支払を拒んだ祖父ゲティの振舞なども話題となり、ここ日本においても大々的に報じられることとなる。

石油会社を設立し、巨万の富を築いたゲティ。彼の懐具合はまさに当時世界一で、その総資産はおよそ50億ドル(当時のレートで1.4兆円)にも及ぶという。しかし彼は、巨額の総資産を有しておきながらも、孫の身代金1,700万ドル(50億円)さえ支払うことを拒否する、稀代の守銭奴であった。本作で描き出されるのは、誘拐された息子ポールを救い出すために尽力する母アビゲイル・ハリス(ミシェル・ウィリアムズ)(以下、ゲイル)と、石油王ゲティの物語だ。

誘拐犯からの身代金要求と、義父ゲティとの駆け引きに苦境するゲイルは、重度なる困難が降りかかろうとも決して諦めることをしない、一本芯の通った強い女性像を見事に体現している。そしてこの映画では男性優位の社会を生き抜く、鋼鉄のような信念を持ち合わせたただ一人の女性として、ゲイルの存在感は美しく輝いている。まさに、セクハラ被害を告発する勇気あるハリウッドの女優たちの意志、あるいは意地のようなものと共鳴しているようにも感じてしまう。そういったキャラクターである。ゆえに本作は、フェミニズム映画としての側面を極めて強く訴えているだけでなく、映画業界に根付くジェンダー間の格差を暗に、しかし明確にテーマとして扱っているのが分かるはずだ。本当にタイムリーな問題を備えた社会派ドラマであり、傑出したフェミニズム映画であると言えるだろう。

女性の活躍や男女同権を求める動きは近年再び注目されている。特に映画業界では前述したワインスタインのセクハラ問題を発端とする形で徐々に過熱している。そうした中でリドリー・スコット監督の撮る映画は、現代ハリウッドの実情に即した作品として評価するべきものが多い。例えば彼の代表作である『エイリアン』(1979)や『テルマ&ルイーズ』(1991)などは強く逞しい女性を描いているだけでなく、そこに付随するかたちで女性の公的領域への拡張を訴えているような気がしてならない。そういった意味で、『ゲティ家の身代金』も昨今における性的暴行事件などの闇を抱えるハリウッドの実態にノーを突き付けている作品なのである。

Writer

Hayato Otsuki
Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。

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