【解説レビュー】サスペンス、それともスリラー?史上最恐にスリリングな恋愛映画『ゴーン・ガール』
そう、全ては彼女が仕組んでいたことなのだ。……が、ここまでならミステリ作品には割とよくあるオチかもしれない。この作品の凄いところは、この事実を中盤に明かしてしまうところだ。むしろ『ゴーン・ガール』はここからが本番で、妻に嵌められた愚かな夫と、狡猾でぶっ飛んだ妻の化かし合いが繰り広げられることになる。
この後も、ニックの愛人アンディやエイミーの元彼が登場することで状況は二転三転する。ミステリかと思えば笑っちゃうようなシーンが続き、かと思えばいきなりスリラーを思わせる演出が挟まれる。最後までまったく予想も油断もできない。
ただ、ここで一つの疑問が浮かぶ。このストーリーの意味するものは何なのだろうか。予想外の展開で観客を翻弄しているだけなのか。そもそも、『ゴーン・ガール』の根幹にあるテーマとは一体何だろうか。
やっぱりこれは恋愛映画だ
エイミーがニックに幻滅した理由は浮気をしていたからだ。だけど「完璧なエイミー」よりも好きだと言ったニックが、なぜ浮気をしたのだろう?
これまでのニックは人に好かれたいと思い行動していた。しかし、それが逆に周囲の反感を買ってしまっていた。自堕落でどうしようもない夫だと印象づけられたニックは、あらゆる人間から叩かれ続ける。彼自身の立場や本心なんかお構いなしだ。妻を失った男に相応しくない振る舞いは、ついには彼自身を窮地に追い込むことになる。
しかしそんな最中、彼は行動にでる。軽薄で、浮気をする自堕落な夫だと自ら認めたのだ。ひたすら妻の身を案じ、彼女の帰りを待ち続けているとカメラのレンズを通して訴え始める。以前エイミーに接していたのと同じように、自分を偽り、他人の望む姿を演じることで、彼はエイミーへの反撃に出るのである。
友人同士だろうと、家族同士だろうと、人はいつも他人から理想の姿を押しつけられる。もしその姿を演じることができなければ、場合によっては排除されてしまう。反対に演じきってしまえば、他人をコントロールすることだってできる。そしてその関係は、夫婦でも変わりはしない。
この映画は、真っ向から夫婦という関係を描ききっている。ニックとエイミーはまさにその象徴だろう。
最終的に、彼らは再び結びつくことになる。悲劇的な状況から奇跡的に生還した妻と、かつて不貞を働きながらも誠実に生まれ変わった夫として。たとえ本心が別にあろうとも、彼等は夫婦として生活していくのだ。
だからこそ、これは間違いなく最恐の恋愛映画と言える。