Menu
(0)

Search

【解説レビュー】サスペンス、それともスリラー?史上最恐にスリリングな恋愛映画『ゴーン・ガール』

そう、全ては彼女が仕組んでいたことなのだ。……が、ここまでならミステリ作品には割とよくあるオチかもしれない。この作品の凄いところは、この事実を中盤に明かしてしまうところだ。むしろ『ゴーン・ガール』はここからが本番で、妻に嵌められた愚かな夫と、狡猾でぶっ飛んだ妻の化かし合いが繰り広げられることになる。

http://nylife09.blog28.fc2.com/blog-entry-2649.html?sp
http://nylife09.blog28.fc2.com/blog-entry-2649.html?sp
自らの命が懸かっているため、弁護士を雇いメディアの印象を変える作戦に出るニック。姿を隠しながら、手持ちのカードを使って夫を追い詰めるエイミー。あらすじだけを見て、この展開を予想出来る人間もそうはいないだろう。しかし『ゴーン・ガール』の魅力はまさにそこにある。

この後も、ニックの愛人アンディやエイミーの元彼が登場することで状況は二転三転する。ミステリかと思えば笑っちゃうようなシーンが続き、かと思えばいきなりスリラーを思わせる演出が挟まれる。最後までまったく予想も油断もできない。

ただ、ここで一つの疑問が浮かぶ。このストーリーの意味するものは何なのだろうか。予想外の展開で観客を翻弄しているだけなのか。そもそも、『ゴーン・ガール』の根幹にあるテーマとは一体何だろうか。

やっぱりこれは恋愛映画だ

エイミーがニックに幻滅した理由は浮気をしていたからだ。だけど「完璧なエイミー」よりも好きだと言ったニックが、なぜ浮気をしたのだろう?

https://monkeysgonetoheaven.wordpress.com/2014/12/31/girl-gone-bad-why-amy-elliott-dunne-is-the-literary-anti-hero-of-2014/
https://monkeysgonetoheaven.wordpress.com/2014/12/31/girl-gone-bad-why-amy-elliott-dunne-is-the-literary-anti-hero-of-2014/
エイミーの独白から分かるのは、彼女が常に理想の男性を求めていることだ。彼女は自分に相応しい模範的な夫でなければ満足できない。エイミー自身も両親の理想を押しつけられていたにも関わらず、だ。そんな妻にニックは耐えられず、アンディに救いを求め、それが更にエイミーの怒りを買った。

これまでのニックは人に好かれたいと思い行動していた。しかし、それが逆に周囲の反感を買ってしまっていた。自堕落でどうしようもない夫だと印象づけられたニックは、あらゆる人間から叩かれ続ける。彼自身の立場や本心なんかお構いなしだ。妻を失った男に相応しくない振る舞いは、ついには彼自身を窮地に追い込むことになる。

しかしそんな最中、彼は行動にでる。軽薄で、浮気をする自堕落な夫だと自ら認めたのだ。ひたすら妻の身を案じ、彼女の帰りを待ち続けているとカメラのレンズを通して訴え始める。以前エイミーに接していたのと同じように、自分を偽り、他人の望む姿を演じることで、彼はエイミーへの反撃に出るのである。

友人同士だろうと、家族同士だろうと、人はいつも他人から理想の姿を押しつけられる。もしその姿を演じることができなければ、場合によっては排除されてしまう。反対に演じきってしまえば、他人をコントロールすることだってできる。そしてその関係は、夫婦でも変わりはしない。

この映画は、真っ向から夫婦という関係を描ききっている。ニックとエイミーはまさにその象徴だろう。

最終的に、彼らは再び結びつくことになる。悲劇的な状況から奇跡的に生還した妻と、かつて不貞を働きながらも誠実に生まれ変わった夫として。たとえ本心が別にあろうとも、彼等は夫婦として生活していくのだ。

http://bunka.hatenablog.com/entry/gonegirl
http://bunka.hatenablog.com/entry/gonegirl
エイミーのキャラも物語の展開も、非常に刺激的で現実から乖離しているようにも思える。だが、最終的にはそれら全てが、夫婦というごく日常的な関係に回帰してくるのだ。フィクションだと思って油断している観客は、生々しい夫婦の関係を見せ付けられることになる。の失踪を他人事のように受け止めていたニックが、散々苦しめられた挙げ句に元通りの関係に落ち着いてしまうのも、なんだか象徴的だ。

だからこそ、これは間違いなく最恐の恋愛映画と言える。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly