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『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』ジェームズ・ガン監督が降板 ― 過去の発言が問題視される【コメント全文和訳】

ジェームズ・ガン
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/28557194032/

映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3(邦題未定、原題:Guardians of the Galaxy Vol.3)』から、シリーズの過去2作品を手がけてきたジェームズ・ガン監督が降板することとなった。理由は、ジェームズ監督による過去の不適切な発言が多数取り上げられ、問題視されたことだった。

今回の降板はディズニーからの一方的な解雇となっている。マーベル・スタジオを有するウォルト・ディズニー・スタジオのアラン・ホルン会長は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』や今後のディズニー関連作品にジェームズ監督を関与させない方針を発表したのである。

「ジェームズのTwitterアカウントから発見された不快な姿勢や発言の数々は、擁護できるものではなく、我々のスタジオの価値観とは相容れないものです。私たちは彼(ジェームズ監督)とのビジネス関係を解消しております。」

この「不快な姿勢や発言の数々」とは、2008~2011年ごろにかけてジェームズ監督が発信していた、小児性愛(ペドフィリア)や強姦などに関するジョークを指すものだ。指摘されているツイートの数が膨大なため多くをご紹介することはできないが、たとえば「小さい男の子に触ってもらうのが好き」「レイプされて一番良いことは、終わったあとに“気持ちよかった、レイプじゃない!”と思うこと」「笑いは最高の薬。だから僕はエイズ患者を笑う」などといったものが含まれていた。

激しい批判を受けて、2018年7月19日(米国時間)、ジェームズ監督は一連の発言を釈明している。

「私のキャリアを追ってくださっている多くの方々がご存知のように、活動を始めたころ、私は自分自身を挑発的な人間だと捉え、乱暴でタブーに触れる映画を作り、ジョークを口にしていました。公に何度もお話ししているように、私が人間として成長するにつれ、作品やユーモアも成長しています。良い人間になったとは言いませんが、数年前とはまるで別の人間になったのです。現在、私は怒りではなく、愛情や繋がりに根ざした仕事をしようとしています。単にショッキングな内容だから、単に人々の反応が欲しいから何かを言っていたような日々は終わりました。」

ところがディズニー側は、どうやらジェームズ監督の発言を非常に重く見たようだ。7月20日(米国時間)午前にアラン・ホルン会長は上記の声明を発表、ジェームズ監督を解雇したことを告知したのである。この決定に対して、ジェームズ監督はメディアを通してコメントしている。

「10年近く前の発言や、挑発的であろうとする不幸な努力は、当時から完全に間違っていたものです。以来、私は長年後悔してきました。愚かで全く面白くないだけでなく、非常に無神経で、私自身が望んでいた挑発とも違うものだったからです。また、それら(の発言や態度)は、現在やこれまでの私を反映するものでもないからです。

それから長い時間が経ちましたが、私は今日のビジネス的な決定を理解し、受け入れます。長い年月が経過してもなお、当時の自分自身のふるまいについては私に全責任があります。今できることは、心から、誠実に後悔の念を表明すること以上に、私自身がなりうる最高の人物になるということだけです。受け入れ、理解し、平等性に貢献し、公の場での発言や責任に対してさらに思慮深くなるということです。私の関わる業界、またそのほかの皆さんに、改めて深くお詫びいたします。皆さんへの愛をこめて。」

ただし本件については――もちろんジェームズ監督の過去の発言を肯定するものではないが――やや複雑な経緯があることを押さえておかねばならないだろう。
以前よりジェームズ監督は、ドナルド・トランプ米大統領の政策や本人の人格を厳しく批判するツイートを繰り返しており、それによって大統領の支持者との議論が生じること、あるいは支持者から監督への一方的な攻撃がなされることは珍しくなかった。一連の投稿をこのたび最初に発見して問題視したのも、米国の保守系ニュースサイトThe Daily Callerだったのである。さらに過去の発言を多数発掘し、拡散したのは親トランプで知られる“自称政治工作員”ジャック・ポソビエック氏だった。ちなみに映画やポップカルチャーに関していえば、「スター・ウォーズは女に乗っ取られるまでは最高だった」と発言した人物であり、これについては、ライアン・ジョンソン監督が中指を立てたキャリー・フィッシャーの画像で対応したことも話題となっていた。

こうした経緯を受けて、米国メディアでは、“今回の一件はすべてジェームズ監督の失脚を狙って画策されたものであり、その目的は完全に達された”とも報じられている。なおジェームズ監督は7月20日にポップカルチャーの祭典「San Diego Comic Con 2018」に登場する予定だったが、今回の降板を受けて出演はキャンセルとなった。

現在、ウォルト・ディズニー・スタジオ/マーベル・スタジオは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』の今後について発表していない。2020年の米国公開を目指してジェームズ監督は脚本を完成させており、マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長は近々撮影準備に入ることを明かしていた。ジェームズ監督が降板した今、同作に新たな監督が起用されるのかどうかはわからない。

しかし『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』とは、ユーモアとドラマのバランス感覚、卓越した音楽センスなど、ジェームズ監督固有の作家性に多くが委ねられた映画シリーズだ。もしも別の監督が起用されたとして、それはファンが望む、そしてそもそもマーベル・スタジオが望んでいた『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の最新作になりうるのだろうか。また、このタイミングでジェームズ監督が降板となったことは、クリス・プラットやゾーイ・サルダナをはじめとした出演者にも大きなショックを与えるものだろう。あくまで筆者としては、どうかこれ以上誰かが悲しまずに済むことを祈るばかりである。

映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3(邦題未定、原題:Guardians of the Galaxy Vol.3)』は2020年米国公開予定

Sources: THR, Variety(1, 2), Deadline(1, 2), TDC, Jack Posobiec
Eyecatch Image: Photo by Gage Skidmore

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。