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【レビュー】中国の巨匠チャン・イーモウが手掛けた『グレート・ウォール』がまさかの怪獣スペクタクルだった!

チャン・イーモウ監督といえば、『初恋のきた道』で女優チャン・ツィイーを発掘、『単騎、千里を走る』といったドラマ作品から『HERO 英雄』などの武侠アクションまで、幅広い作品で手腕を奮う中国を代表する巨匠だ。そんな監督が、ユニバーサル・ピクチャーズ、レジェンダリー・ピクチャーズと手を組みマット・デイモンを主演に迎えて映画を作ったのだから驚きである。しかも万里の長城を舞台に、「万里の長城は襲い来るモンスターから都を守るために作ったもの」という設定で壮大なアクションが繰り広げられるというのだから、正直「監督、どうした」と思わざるを得ない。

確かに近年のレジェンダリーは『パシフィック・リム』『GODZILLA ゴジラ』『キングコング:髑髏島の巨神』と、怪獣(モンスター、クリーチャー)映画に力を注いでいる。とはいえ、さすがに中国を代表する監督である。これまでのように絢爛なセット、衣装で匠の作品に仕上げてしまうのだろうと思っていた。

(C) Universal Pictures
(C) Universal Pictures

異様なノリと熱量の、モンスター・アクション大作

ところが蓋を開けてみたら、なるほどこれは『バトルシップ』枠である異様なノリと熱量を内包した、紛れもないモンスター映画なのだ。しかもモンスターの数は中国版『スターシップ・トゥルーパーズ』、そして歴史的な視点は『キング・オブ・エジプト』の如し。イーモウ監督特有の作品全体を引き締める静謐さやアーティスティックな解釈はなりを潜めている。ところが、だ。それでもそんなモンスター映画が滅法面白いのだ。芸術性よりもエンタメとしての視点を強調して、まさに大作仕立ての作品に徹している。

本作は万里の長城でのファーストバトルから魅せる。まずは鼓舞隊の集団が一糸乱れぬ動きで、ヌンチャクをバチ代わりに太鼓をドンドコドンドコ叩き鳴らす。アップからロングショットへとカメラが引いていくと太鼓のリズムに合わせ戦闘部隊が陣形を取り、序盤から「これから凄いものをお見せしますよ」とでも言うような演出で、この時点からやたらとカッコイイ。そして怒涛の如く押し寄せるモンスター・饕餮(とうてつ)の群れ、その数万単位。長大な万里の長城と饕餮の尋常ではない群れのスケールはどう見ても映画のクライマックスの規模で、いきなり風呂敷を全力で広げたような気前の良さだ。そして戦闘能力によって色分け、編成された部隊がそれぞれの戦法で饕餮を迎え撃つ。激突する両者のアクションはあまりの勢いで、確かにイーモウ監督のスタイリッシュなバトル演出を見せる暇などなく、文字通り兵士と饕餮の激突がこれでもかと繰り広げられる。それでも饕餮の波に飛び込む決死のバンジー隊や投擲による火球攻撃など、スピーディーな演出の中にも武侠映画で培ったイーモウ監督のビジュアルセンスが遺憾なく発揮され、観客は一気に「戦争」の渦中へと放り込まれるはずだ。

(C) Universal Pictures
(C) Universal Pictures

主演を務めるマット・デイモンの描き方も、イーモウ監督がこれまで描いてきたような繊細さと美しさを備えた強い中国人キャラクターとは違う、西洋人らしい無骨さが異国の地で良い味を出している。戦略や瞬間的な判断に長け、自ら死地へと乗り込むヒーロー性はイーモウ監督にとっても新鮮だったのかもしれない。

また、イーモウ監督が「万里の長城」をテーマにした作品を構想していたというだけあり、登場するモンスター、饕餮は実際に中国神話に残る凶獣の一種だ。全体像としては『レリック』に登場した“コソガ”や『グエムル 漢江の怪物』のクリーチャーに似ているが、肩付近にある眼や頭部の模様に饕餮の特徴が表現されてもいる。圧巻のバトルシーンなどビジュアルエフェクトをILMが担当し、武器や甲冑のデザインを『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどで知られるWETA ワークショップが手掛けているので、それだけでも見応えは十分にあるといえるだろう。

(C) Universal Pictures
(C) Universal Pictures

キャストはデイモンのほか、ペドロ・パスカル、ウィレム・デフォー、中国側のキャストに『キングコング:髑髏島の巨神』にも出演したジン・ティエン、アンディ・ラウ。そろそろ劇場公開も終了となってしまう作品だが、ド迫力の戦闘シーンを堪能するためにも、可能ならばスクリーンでの鑑賞をお勧めしたい。

Eyecatch Image: (C) Universal Pictures

Writer

ashimigawa

映画・映画音楽ライター。愛知県出身。
竜巻映画『ツイスター』で映画に覚醒。映画音楽に魅了されてからはサウンドトラックも買いあさり、映画と映画音楽漬けの日々を送る。

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