クリスマスにはベネディクト・カンバーバッチ版の『グリンチ』を観てほしい ─ あまり話題にならないオススメ映画

毎年11月に入ると無性に観たくなる、クリスマス映画。『素晴らしき哉、人生!』(1946)のようなクラシック作品や、日本でも人気の『ホーム・アローン』シリーズなど様々な定番作品がある中で、筆者がぜひ推したいのは、2018年公開のCGアニメーション映画『グリンチ』(2018)である。
“グリンチ”と聞けばジム・キャリー主演の実写版『グリンチ』(2000)、“イルミネーション作品”と聞けば『ミニオンズ』や『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が最初に思い浮かぶ人は多いはず。本作はイルミネーション・エンターテイメントが手がけ、『ドクター・ストレンジ』シリーズやドラマ「SHERLOCK」のベネディクト・カンバーバッチが主演を務めたにも関わらず、あまり話題にならない印象だ。当記事では、そんな本作の魅力を紹介していきたい。

ベネディクト・カンバーバッチ版『グリンチ』どんな映画?
ドクター・スースによる児童文学の3度目の映像化となる本作。フーの村の住人たちがクリスマスの準備に張り切る中、北の洞穴に暮らすひねくれ者のグリンチ(ベネディクト・カンバーバッチ)は、大嫌いなクリスマスの到来に不機嫌になっていた。そこでグリンチは愛犬マックスと共に、村からクリスマスを盗むことを計画。一方、シンディ・ルー(キャメロン・シーリー)という少女も、クリスマスに向けてある計画を立てる。

あらすじから分かるように、大筋は原作や実写映画版と同じ。しかし本作は原作に敬意を払いながら、現代的なアレンジを加えているのがポイントだ。本作のシンディ・ルーは、聡明で自立心旺盛な性格。たった6歳にも関わらず、自分と弟たちのために昼夜働く母親を気にかけ、サンタクロースに「ママを助けてほしい」と頼むことに。プレゼントよりも母親の幸せを優先するシンディ・ルーの優しさにジーンとくると同時に、作り手が込めた脱物質主義的なメッセージも読みとれる。そして、母親ためにサンタを探そうとするシンディ・ルーの計画が、グリンチの悪だくみと衝突していく流れも巧妙だ。

またグリンチのバックストーリーにも、新たなアプローチがとられている。原作はグリンチがクリスマス嫌いになった理由に触れていないが、ジム・キャリー主演の実写版では、同級生から受けたいじめが原因とされていた。その結果、グリンチはとんでもなく意地悪になり、村人たちもあまり良い人間としては描かれていない。一方、カンバーバッチ演じるグリンチは元々孤児で、それゆえクリスマスで沸く人々を見て強い孤独を感じていた。 彼がクリスマスを嫌ったり、人々に嫌がらせをしたりする原因は自分や村人たちにあるのではなく、子供の頃に置かれた境遇のせいなのだ。
そんなグリンチが見せる幅広い感情を、カンバーバッチが見事に表現しているのも見どころ。カンバーバッチはこの新バージョンのグリンチを演じるため、あえて過去作を観ずに役に臨んだそう。意地悪さだけでなく、ふと優しさや寂しさを感じさせるカンバーバッチ版のグリンチは、見事に視聴者が共感しやすいキャラクターに仕上がっている。

また、大きな魅力のひとつは、グリンチと愛犬・マックスの関係だ。本作で描かれるマックスはグリンチにとても忠実で、他の作品よりも大きなスポットライトが当てられている。マックスが寝起きのグリンチのためにコーヒーを作って届ける冒頭シーンを見れば、犬好きでなくとも心を奪われるだろう。そんな愛らしいマックスにグリンチも愛情を示し、彼なりに良い関係を築いている。本作の動物キャラはマックスだけでなく、太ったトナカイのフレッドも登場。『SING/シング』『ペット』などで個性豊かな動物を魅力たっぷりに表現してきたイルミネーションが、本作でもその手腕を存分に発揮している。

ちなみに、カンバーバッチは2018年の公開当時、本作には世界が必要とするメッセージが込められていると語っていた。「クリスマスとは物質主義ではなく、喜びや優しさ、寛大さを示す日だとグリンチは気づき、我々に最も必要なのは愛と優しさだと言います。そして世界は今、たくさんの愛と優しさを必要としています」。2023年の現在も、このメッセージは世界中の人々に響くだろう。

なおカンバーバッチは、『東京コミコン2023』に初参加の予定。彼が来日するこのクリスマスシーズン、ぜひ『グリンチ』をご覧いただきたい。グリンチの日本語吹き替え声優は大泉洋だ。
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