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【レビュー】『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』米メディア絶賛評価、ゴッサムのアウトサイダー頂上決戦にカラフル火花散る

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey
(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BIRDS OF PREY and all related characters and indicia c&TM DC Comics.

こんなDC映画を待ってたぜ!毒が効いていて、キュートで、カッコいい。格差社会の鬱憤をえぐり取った『ジョーカー』のDCコミックスから繰り出される次なる一撃『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』が、2020年3月20日(金)より日本公開となる。

『スーサイド・スクワッド』(2016)でモラルも常識も酸のタンクに溶かしてきてしまったハーレイが、そのクレイジーな魅力を映画一本分たっぷりお見舞いしてくれる一本。もしもあなたが『スーサイド・スクワッド』にもっと悪党らしさを求めていたなら、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』は観るべき作品だ。

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey
(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BIRDS OF PREY and all related characters and indicia c&TM DC Comics.

「『デッドプール』へのDC流アンサー」

全米でも初登場1位の大ヒットを記録。映画レビューサイトの米Rotten Tomatoesでも、批評家スコア92%の高評価を獲得している(2月5日時点)。米メディアのレビューにざっと目を通してみると、シンプルに「楽しい!」という直球評価が多く寄せられていることに気付く。例えばDark Horizonsは、「2020年、お疲れ気味なコミック映画ジャンルには、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』のような映画が必要だった。こいつは天然カーニバル・ライドだ」と綴っている。

マーベル『デッドプール』へのDC流カウンターパンチといった声も多い。『デッドプール』といえば、時に観客にも語りかけながら掟破りのバイオレンス・アクションで楽しませてくれたブッ飛び系ヒーロー映画。『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』にも共通点は多い。ルール無用のハーレイの「第四の壁」を超えたようなナレーションもそうだし、「ゴッサムで一番ワルいのは、このハーレイ・ファッキン・クイン様よ!」と悪党集団にかちこんで行く姿の自意識過剰な痛快さも、『デッドプール』の傍若無人な「俺ちゃん」イズムに通じるものがある。

New York Postは「『デッドプール』以来、一番面白いコミック映画」と、USA Todayは「激しい罵りや、ユニバース・ネタ、それにクレバーなポップカルチャー・ネタ。これはR指定版DCの『デッドプール』へのアンサーだ」と書き、Varietyは「『デッドプール』への煌めくニヒルな反抗」、The Playlistのグリフィン・シラーは「“DC版『デッドプール』にタランティーノを添えて”という作品」と表す。

ナレーションはハーレイが務めているから、言わずもがな「信頼できない語り手」である。「彼女は嘘をつくし、誇張表現も多く、さらに自分勝手に事実を曲げて話をする。また注意力も散漫なので、話が行ったり来たりする」と脚本のクリスティーナ・ホドソンは語る。観客は109分間、ハーレイ・クインにひたすら振り回されることになるのだ。まるで、彼女がバットやハンマーをブンブンと振り乱すアクションシーンのように……。

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey
(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BIRDS OF PREY and all related characters and indicia c&TM DC Comics.

キレとユーモア効いた爽快アクション

そんなアクションについて、LA Weeklyは「ある意味ミュージック・ビデオの延長のようなアクションがタップリ。だが、それがいい。ヤン監督は、いつ、どこでアクションを続けさせ、発火させ、組み立てるべきかをしっかりわきまえている」と評価している。見せ所となるアクションシーンでは、『ジョン・ウィック』シリーズでモダン・アクション・シーンを牽引する達人チャド・スタエルシキが監修を務めており、流石としか言いようのない演出。スピード感やダイナミズム溢れるアクションは、きっと想像を超えた驚きがあるはずだ。

しかも、そこにユーモアが加わるから面白い。男たちを蹴散らしながら、ハーレイが仲間のブラックキャナリーにヘアゴムを手渡すのだ。戦いながら髪をまとめ上げ、気合を入れ直す。この映画らしさが凝縮されたワンシーンには、『チャーリーズ・エンジェル』も嫉妬することだろう。USA Todayは「『アベンジャーズ』ではお目にかかれないようなシーン」と、Colliderは「シンプルなシーンだが、すごくすごく意義深い。男性監督では絶対に思いつかない演出だ」と称する。

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey
(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BIRDS OF PREY and all related characters and indicia c&TM DC Comics.

そのキャラクター性は、ハーレイのアピアランスにも現れている。「ハーレイの行動はすべてが常軌を逸している」と、主演マーゴット・ロビーは説明する。「たとえば、戦いのシーンで布が垂れ下がっている大きなジャケットを着たり、地面が動く場所でローラースケートを履いて戦ったりと、いつも状況にまったく適さないものを着用している。意味のわからないことばかりをしているけど、それがハーレイらしさなんです。いちばん面白そうな武器だからといって、銃撃戦に野球のバットを持って登場するのがハーレイなんですよね。

ハーレイ・クインが体現する絶妙なバランス

ハーレイの魅力に心底惚れ込んだマーゴットは、本作でプロデュースも手掛けている。「マーゴットには、このキャラクターの魅力がハッキリ見えていたのだ。実際に、2015年にワーナー・ブラザースに(単独映画化の)アイデアを持ち込んでいる。『スーサイド・スクワッド』公開1年前の時点で、である」と、Hollywood Spotlight誌は本作特別号の中で紹介している。

『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)『スキャンダル』(2019)と、その邦題どおりスキャンダラスな役柄でアカデミー賞ノミネートが続いたマーゴットは、今ハリウッドで最もノっている人気女優のひとり。Atranticが「ここ10年のハリウッドで最も自然体の映画スターであるロビーだが、そんな彼女の自然なカリスマ性に魅了されるパフォーマンスだ」と彼女の才能を賞賛すれば、LA Weeklyからは「ロビーはハーレイがワルい女であることを決して忘れさせない」とその憑依っぷりを評価する声。「狂おしくワルい女で、映画の最後にはそんなハーレイが大好きになっている。

マーゴットが表現するハーレイは「“好き”と“ウザい”」、「“不快”だけど“誠実”」、「“救いがいがある”けど“いつもそうしたいわけじゃない”」の間で「微妙なバランスを取っている」と評価するのはIndieWireだ。「『スーサイド・スクワッド』の時もそうだったが、彼女はこの難しいバランスをうまく取っている。現状に興味がないというスーパーヒーローの多面性、それから、“良いこと”をするために“良いヤツ”になるという考えにお構いナシなところ。」

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey
(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BIRDS OF PREY and all related characters and indicia c&TM DC Comics.

「ジョーカーと別れたハーレイ・クイン」という設定を活かした芯も通っている。ゴッサムを脅かす犯罪王子の彼女として、裏社会の面々から手出しされずにいたハーレイは、ジョーカーと別れたことで一転、恨みを買う悪党たちから狙われる目に。A.V.Clubはこの点について、「“ジョーカーのカノジョ”という文脈を取り払い、共感できるキャラクターに肉付けされている。前作のハーレイは、ずっとボーイフレンドの話をしているだけだった。でも今回のハーレイは、ぶっ放すのも、ちょっとした破壊活動をやるのも楽しそう」と書いている。

ユアン・マクレガー演じるブラックマスクに絶賛評

そんなクレイジー天真爛漫お一人様新生活絶賛謳歌中のハーレイに、ゴッサムの裏社会で台頭するローマン・シオニス/ブラックマスクの魔の手が迫る。ハーレイは、ブラック・キャラリー、ハントレス、レニー・モントーヤ、カサンドラ・ケインと即席チーム“バーズ・オブ・プレイ”を結成し、「悪vs悪」の過激な戦いに転じていくのだが……。

極悪人ブラックマスクを演じるのは、なんとユアン・マクレガーだ。『スター・ウォーズ』のオビ=ワン役などの凛々しさや、『トレインスポッティング』『ドクター・スリープ』のような迷える男の印象あるユアンが本格的な悪役を演じるのはこれが初めて。それも、獲物を徹底的にいたぶるのが趣味のサイコパスだ。古代人の干し首を収集してアジトに飾るという悪趣味ぶりで、「絶対に関わっちゃいけないタイプのやつ」である。

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey
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ユアンも、この挑戦的な役に手応えを感じている様子だ。「彼は完全なるナルシストで、誰でも魅了できると考えていた。また彼のアンガーマネジメントの問題も表面化し、さまざまな場面でキレて怒り狂う。そのふたつの側面を演じるのはとても楽しいことだった。」

その怪演は、さながらタランティーノ映画の悪役、もしくは『スカーフェイス』に迫る恐ろしさ。全体的にハーレイのキュートさが楽しい映画だが、ユアンのブラックマスクが画面に登場すると、本格的なマフィア映画のようなヒリつく空気を纏い始める。「悪vs悪」と一口に言っても、「悪」のジャンルが全く異なる両者が激突、アドレナリンMAXのクレイジー・アクションがカラフルな火花を散らす。最凶最悪のアウトサイダー同士が激突する『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』、果たして、ゴッサムの悪を制するのはどちらなのか?

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey
(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BIRDS OF PREY and all related characters and indicia c&TM DC Comics.

「これまで、DCユニバースには“ヴィラン問題”があった。キャラ設定的にも、ビジュアル的にも」と指摘するScreenRantは、「ユアン・マクレガーのブラックマスクはDCユニバース史上最高のヴィランだ」と絶賛している。「演技がズバ抜けている。」「とにかくキャラ設定もその背景も面白い。彼は、批判を許さないナルシスト。ファミリーを軽蔑しながらも、彼の行動は全て、自分が剛腕のビジネスマンだとファミリーに証明するためのものだ。内心は不安なのに、自信があるように振る舞っている。これまでのDCユニバースではあまり見られなかった、味わい深い悪役だ。」同レビューは、「ユアン・マクレガーがDC映画におけるヴィランの在り方を書き換えた」と言うまでの褒めっぷりなのである。

絶賛評は他にもある。「ユアン・マクレガーがかっさらっていく。コミック・ヴィランの演技としてマジで好き。超オススメ」とは人気ゲーム実況者Cabooseのツイートで、ライターのプリティ・チッパー氏は「ユアン・マクレガーが『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』で着てたスーツのファッションショーをやるっていうのは?みんな観に行くよね。色々なスーツ着てランウェイ歩くだけでいいから」と、劇中で見せたファッショニスタぶりにも夢中の様子だ。Nerdistのダン・ケイシー氏からは、「ユアン・マクレガーは世界の宝」との言葉も。優れたコミック映画には“優れたヴィラン”の存在が不可欠だが、ユアンは確かにアメコミ映画史上最高レベルの魅力ある悪役を演じあげている。

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey
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監督にはスーパーヒーロー映画史上初のアジア人女性、キャシー・ヤンを抜擢。『Dead Pigs』で2018年のサンダンス映画祭審査員特別賞を勝ち取った若手だ。脚本は『バンブルビー』(2018)を書いたクリスティーナ・ホドソン。両名とも新進気鋭だが、彼女たちの若い感性に作品を委ねたDCコミックス/ワーナー・ブラザースの采配も、業界に対する有意義なメッセージとして受け取ることができよう。『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』は、『ジョーカー』とはまた違った道で、アメコミ映画の新時代を切り開く重要作だ。

映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は2020年3月20日(金・祝)全国ロードショー。

Source:Dark Horizons,New York Post,USA Today,Variety,griffschiller,LA Weekly,Collider,Atrantic,IndieWire,A.V.Club
“Hollywood Spotlight The Complete Guide to Birds of Orey”,Centennial Media,2020

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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