『バーバラと心の巨人』アンダース・ウォルター監督インタビュー ─ 「10代の頃はひたすら漫画を読んで絵を描いていた」

アメリカで最も権威ある漫画賞のウィル・アイズナー漫画業界賞にノミネートされ、第5回国際漫画賞にて最優秀賞を受賞したグラフィックノベル「I KILL GIANTS」を実写化した映画『バーバラと心の巨人』が、2018年10月12日(金)より全国で公開される。

本作の監督として抜擢されたのはアンダース・ウォルター。重い病を患う少年と病院の清掃員の交流を描いた短編映画『HELIUM(原題)』(2014)でアカデミー賞短編賞を受賞した実力派だ。

そんなウォルターにとって、意外にも本作が長編映画デビュー作である。ウォルターは主人公バーバラの内面を丁寧に表現し、バーバラと”巨人”、そして周囲の人々との関係を繊細に描き出すことに成功。本作のプロデューサーを務める『ホーム・アローン』(1990)や『ハリー・ポッター』シリーズのメガホンを取ったクリス・コロンバスの期待に見事応えた。

THE RIVERは、アンダース・ウォルター監督へインタビュー取材を行い、本作の監督を務めるに至った経緯や、バーバラの物語を伝える上で大切にした点などに関してお話を伺った。

『バーバラと心の巨人』

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

監督への大抜擢の理由

── 素敵な作品をありがとうございます。まずは、『バーバラと心の巨人』監督就任に至った経緯を教えてください。

ありがとうございます。確か、クリス・コロンバスと製作陣が『HELIUM』を観てくれたんだと思います。『HELILUM』はアカデミー賞を受賞しましたからね。あと、ロサンゼルスの僕のエージェントは、クリス・コロンバスのエージェントと同じなんですよ。なのでクリスが『バーバラと心の巨人』の監督を探していると知っていて、僕のエージェントはわざと『HELIUM』を彼に送ったんだと思います。それで同作を観てくれて、ミーティングに繋がったんです。当時は僕よりベテランの監督らとも話し合いを行っていたらしいんですけど、そちらは実現しなくて。一時期はクリス自身が監督することも考えたそうですよ。結局はプロデューサーのみ務めることを選択しましたけどね。

そんなこんなで彼らが監督を探してた時、『HELIUM』を気に入ってもらえて、チャンスが与えられたんです。僕たちは似たビジョンを持っていて、3、4ヶ月の間にどんどんミーティングをする回数が増えて行きました。その時は、一度も監督に就任できたとは言ってくれませんでしたけどね(笑)。毎回戻ってきてはアイデアなどについて話していったんです。

── そんな中でご自分が監督に決まった決定打は何だったと思いますか。

デンマークであるビデオを作ったんですよ。あ、僕はデンマーク出身なので、デンマークに住んでいるんです。そこで、『バーバラと心の巨人』のシーンのいくつかを役者と英語で撮影して、他の映画の素材と繋げて本作の予告編映像らしいものを作ったんです。どんな音楽を使いたいなど、自分がしたいことをきちんと正確に伝えたかったからね。そして、その予告を送ったら彼らがとても気に入ってくれたんです。とても感動してくれて、そこから僕が監督になることが決まりました。

結構長い時間かけて決まったんですけど、かなり頑張って説得しないといけませんでしたね。僕は長編映画の制作は初めてだし、英語の作品を作ったことがなかったので。短編を4作、デンマーク語で作ったことしかなかったんです。クリスたちは僕のことを人として気に入ってくれたし、アイデアも気に入ってくれたけど、採用するのは大きなリスクだったと思いますよ。でも、やっぱりあの予告編映像の存在が一番大きかったな。

『バーバラと心の巨人』

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

短編映画を撮影することとの違い

── 長編映画を初めて監督するにあたって苦労したことはありますか?

一つは、もちろん言語かな。英語は話せるんですけど、第二言語なので小さなニュアンスを掴むのが難しい時もありましたね。でも脚本が本当に素晴らしかったので、脚本に沿えばよかったし、アドリブもありませんでした。それより、監督として自分をうまく表現できない時がありましたね。そこまで影響はなかったですけど。

言語より大変だった違いは、制作規模の違いですね。短編映画の時は僕とプロデューサーしかいなかったので、製作上のディスカッションは2人の間で済んだんです。でも長編では6〜7人のプロデューサーがいて、エグゼクティブ・プロデューサーも8人います。そうなると色々な部署と話し合わなければいけないので、当然意見も増えるし、ディスカッションも増えるんですよ。

僕は監督としての務めは、自分が何を求めているかはっきりと理解すること、きちんと大切なことを議論できるようにすること、そして周りを説得することだと考えています。そして、多くの場合必要になるのは、自分と違う意見を持つ人を説得すること、自分のビジョンが正しいと説得することです。もちろん横柄になってはいけませんけどね。相手が正しい場合もありますから。長編では、より多くの人と対話をし続けなければならないストレスはあります。

でも映画製作の本質にいる時、つまりはセットに立って俳優や撮影監督、美術監督と対話している時は、正直セットの外で起こっていることを忘れてしまいますね。なので結局は自分がやっていることにコミットして集中していたら、短編と同じなんですよ。俳優を監督して、泣いて笑って、彼らの演技を見て、喜んだりイライラしたりして、でまた対話して。なので全体としては同じだけど、会議に参加しなくてはいけないなどの政治的な面や、皆を束ねることなどはチャレンジングだったし、短編を撮影するより難しかったですね。

バーバラと心の巨人

© I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

── 本作のプロデューサーを務めたクリス・コロンバスは、初監督だったウォルター監督に対して、何かアドバイスをしてくれましたか。

クリスはキャスティングについてアドバイスをくれたました。『ホームアローン』とか『ハリーポッター』を製作していたから、子役のキャスティングについては特に詳しくて。でも、彼はあくまで僕自身が考えて映画を製作して欲しいと願っていましたよ。クリスは監督を務めたこともあるので、監督として大切なのは自信を持つことだと知っていたんだと思います。なので、初監督の自分にも自分自身で重要な決断を下せるようにしてくれたんですね。

もちろん、クリスと議論が全くできないわけではないですよ。でも「僕は、何かを指図したりしない。何をしたかの確認はするけど、最後は自分で決めてほしい」と、言われました。編集の時、好き嫌いは言ってきますけど、それはどのプロデューサーもすることですからね。一番ありがたかったのは、少し距離を置いて見守る姿勢でいてくれたことです。初監督の僕が自分の声を見つけて、その声を信じられるようにしてくれました。

バーバラと心の巨人

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

── 本作の撮影地にアイルランドを選んでいますが、その決め手は何でしたか?他の選択肢はありましたか?

この質問の答えには、プロダクションの本質で実践的な部分が関わってきますね。本当は映画の舞台であるロード・アイランドで撮影をしたかったんですけれど、予算がなくて。そんな中ヨーロッパの会社から資金を提供して頂けたので、税金の関係でアイルランドかベルギーってことになったんですよ。なので、逆にアイルランドで撮影して、成功させるしかなかったですね。でも、アイルランドは好きでしたよ。ロード・アイランドの自然と似ている部分もありますし。それに僕たちは、具体的な場所として思い浮かベることができない、少し変わった場所として本作の舞台を描きたかったんです。なので、アイルランドで撮影できたことは逆によかったですね。東海岸のニューヨークやボストンといった北のほうにあるイメージは描けましたし。あと、アイルランドでは自分一人だけしかいないような感覚を味わえるんです。これは、バーバラの孤独だけどユニークな性格を表しているようで気に入りました。

まぁでも、選択肢としては候補地はなかったですね。とにかくアイルランドに行って、ロケ地を探して成功させろって言われましたから(笑)。

『バーバラと心の巨人』

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

「バーバラは僕が物語と恋に落ちた理由」

── 本作には、個性豊かなティーンエイジャーが登場します。監督はどんな個性を持った子供でしたか?

監督になる前は、20年間コミックブックのイラストレーターをやっていました。なのでティーンエイジャーの時はとにかく絵を描くのが好きでしたね。授業中、放課後、夜とずっと描き続けていて、それが僕の人生でした。次世代の巨匠コミックブックス・アーティストになりたかったんです。ちなみに僕は日本の漫画『AKIRA』の大ファンでね。日本の漫画とかヨーロッパの漫画が大好きでしたよ。なので、コミックブックを読んで、自分でもコミックを描いていました。もちろん、女の子も好きだったけど(笑)。でもやっぱり、自分の世界に入り込んでストーリーを考えて描くのが大好きでしたね。

『バーバラと心の巨人』

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

── ストーリーを考えるのが子供の頃から好きだったとのことですが、本作のストーリーを製作した際、何に注意を払いましたか。

僕は常にストーリー全体の軸を意識して制作するので、巨人の正体についていつ明らかにするのかは常に心に留めていました。本作は他の映画と少し違って、何が起きているのか本当に最後の方まで分からないんです。巨人がいるけれど、それが現実なのか架空なのかも分からない。それにお母さんの秘密も、皆さんとても驚かれますね。

僕は本作を製作するにあたって、明らかに巨人が作り上げられた存在だと示す場面を全て取り除きました。例えば、原作では妖精が登場して、バーバラが妖精と話すシーンがかなり存在したんです。でも、そういったシーンを映画でも描いたら、観客はすぐに巨人はファンタジーだとわかってしまうでしょう。なので観客にできるだけ長い間、巨人は現実だと思ってもらえるように、そういったファンタジーらしい部分を全部取り除いたんです。何が真実で何が虚構か分からない状態で物語が進行していき、最後にお母さんのことを知る。その心にズシッと来る瞬間が脚本の一番チャーミングで美しい部分だと感じたので、守りたいと思ったんですよね。

── ズバリ、本作で大事にしたことは何ですか?

基本的に人間ドラマにフォーカスしました。『バーバラと心の巨人』には巨人が登場するので、ビジュアル的な魅力はあります。でも、本作、原作ノベル、そしてオリジナルの脚本全てに共通して中心となる存在はバーバラなんですよ。バーバラは僕が物語と恋に落ちた理由なんです。

他には登場人物の人間関係や、それぞれが対立したり結束する様子を丁寧に描くことを心がけました。巨人を使用してただのエンターテインメント作品にすることもできたけど、僕にとってこの映画はキャラクター中心の映画だったんです。なので、脚本や俳優の演技を通してどうキャラクターに命を吹き込み、深く掘り下げるかを意識しながら、真実味のある物語を作り上げることを心がけました。

『バーバラと心の巨人』

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

── キャラクターを丁寧に描くことにフォーカスされたということですが、実は本作の主要な登場人物は全て女性ですね。男女平等運動が盛り上がる今のタイミングで公開となったのには理由があるんでしょうか。

確かに面白いことに、本作は2018年の初めに公開されたんです。そして、これから日本でも公開される。この公開時期については、女性エンパワーメントの運動が活発に行われているパーフェクトなタイミングだと、実際に何人かに指摘されましたね。でも正直に言うと、本作は何年もの年月をかけて製作されたんです。たまたま最終的に出来上がって公開された時期が、強い女性を”求める”今だったんです。

── では、そんな女性の登場人物たちへの思いをお聞かせください。

まず、男女平等を求める動きについては嬉しく思いますね。本作にも女性の登場人物しかいないことは気付いていましたし、男性として、そしてこれまでほぼ男性のみが登場する短編映画を製作してきた身として、この設定には魅力を感じましたよ。5人の女性登場人物を掘り下げられることに興味を持ったんです。ちなみに、僕は『ワンダーウーマン』(2017)が好き。『ワンダーウーマン』もエンパワーメントの象徴の一つと感じているんですけど、少し洗練されすぎてるなとも思いましたね。みんなワンダーウーマンになれるわけではないし、戦いに行ってシャンプーしたばかりの髪の毛をなびかせて、肌に一つも汚れがつかない人ではないんです。

『バーバラと心の巨人』

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

一方で、バーバラの魅力は、彼女が強い女の子で力強い性格を持っていることです。彼女が他の女性から助けを得て、問題を解決していく姿が気に入っています。多くの映画では、女性が問題に直面した際、解決の手助けをするのはいつも男性なんですよね。なので、本作で強い女性たちがお互いを助け合う姿を描けることにとても魅力を感じたんです。彼女たちがそれぞれの問題を乗り越えるために、男性は必要なかったんですね。僕には20年間一人で暮らしてきた母と同じく何年も一人暮らしの姉がいるから、女性が他の女性と共に人生に強さを見つけ、サポートし合う姿を見てきたんです。なので、そういった姿には非常に共鳴しますし、自身も影響を受けています。

『バーバラと心の巨人』は2018年10月12日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。

『バーバラと心の巨人』公式サイト:http://barbara-movie.jp/

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THE RIVER編集部。アメリカのあちこちに住んでいました。

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