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『インセプション』夢世界の構造は「iPodメニュー画面の分岐メカニズムを参考」とノーラン ─ 『ダークナイト』とスマホ文化の思わぬ関係も

インセプション
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映画監督クリストファー・ノーランのフィルモグラフィにおいて、『インセプション』(2010)は今もなお非常に人気の高い作品だ。レオナルド・ディカプリオ演じるドム・コブと仲間たちが、人の頭脳にアイデアを植え付けるという困難な任務のため、多重構造の夢の中へ潜っていくSFアクションである。

The Atlanticでは、ノーランが『インセプション』に描かれた“テクノロジーの恐怖”のインスピレーションを自ら解説。「コブが夢を共有するテクノロジーにのめり込む様子と、現代人がテクノロジーにどんどん没入していく現象に重なるところはあると思いますか?」との質問を受け、本作とスマートフォン、そしてiPodの関係を明らかにした。

「本作が公開された2010年には、スマートフォンが爆発的に普及していました。(劇中で描かれる)夢の内部の構造には、実際にiPodの分岐メカニズムを基にしたところもあります。iPodのメニュー画面には分岐のネットワークがあり、さまざまなカタログにより深く潜ることができる。また当時は、かつてウィリアム・ギブソンが純粋なSFとして書いたような、“世界を丸ごとポケットに入れて持ち運べる”という可能性を人々が初めて知った時代でもありました。そういったことが日常生活の一部になり、人々が現実を異なる目で見るようになった。現実の中の現実について考えはじめたわけです。」

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古くからSFファンであるノーランは、“SF”を「サイエンス・フィクションではなく、スペキュレイティブ(思索的な)フィクション(speculative fiction)と呼んだほうがいいと思うことがある」という。「SFは科学技術や社会、経済の傾向や、その行く先を考察し、現在を誇張して描く」ものだからと。代表作の『ダークナイト』3部作でさえ、ノーランにとってはサイエンス・フィクションではないというのだ。

「ゴッサムシティは、よりドラマティックな要素を引き出すべく、あらゆる形で現代のアメリカの都市を誇張したものでした。弟(ジョナサン・ノーラン)の脚本が強調したのは、携帯電話で監視ができるという、時代を先取りしたアイデアだったのです。当時はまだ、携帯電話で都市をまるごと画像化できるだなんて、到底ありえそうもない、おかしな発想でした。私も弟に、“本当に信じてもらえるかな?”と話したのを覚えています。」

もっともノーランは、自身のSF作品がその後の社会やテクノロジーを予見したような側面は、実際には「すべて偶然」だと言い切る。「自分たちの過去の仕事を、あたかもすべてが計画的で意図的だったかのように話してしまいます。自分の脳内で起きたこと、世界と重なったことを分析しようとするのです。しかし私は当時も、そして今後も本能的かつ無意識的でありたい。この世界で自分を動かすものにオープンでいたいと思っています」。

特筆すべきは、ノーラン自身がアナログ主義であり、今もスマートフォンを持ち歩かず、自分ではメールさえしないと言っていることだ。ストーリーテラーとしての想像力と、明晰な分析力には驚くほかない。

Source: The Atlantic

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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