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【インタビュー】『犬ヶ島』パペット製作者が、動き出すアニメを初めて見るまでのお話

犬ヶ島
©THE RIVER

我が子を慈しむように、アンディ・ジェント氏は筆者に『犬ヶ島』撮影用パペットを紹介してくれた。「この子が小林アタリだよ、今から表情を変えてみせますね」と言うと、アタリ少年の顔面パーツをパカリと取り外し、銀幕を駆けたパペットの「オフの顔」を見せてくれた。少々驚く筆者に構わず、アンディはアタリ少年の表情をテキパキと切り替える。

犬ヶ島
©THE RIVER
続いて、アタリ少年の愛犬スポッツのパペットを動かして見せてくれた。「良かったら、その手で実際に動かしてみるといいよ」と勧めてもらったので、スポッツの首をいくらか動かしてみる。アーモンド色のスポッツの瞳は無垢そのもので、筆者の動きに健気に応える。可動部は固すぎず、柔らかすぎない。つまめるほどの忠犬の内側には、とてつもなく大きなものがギッシリ詰まっている気がした。

映画『犬ヶ島』は、小さなパペットたちの中に何を詰めたのか。そのパペットたちがはじめて息をしたとき、創造者は何を思ったか。THE RIVERでは、本作でパペット製作のリーダーを務めたアンディ・ジェント氏にお話を訊いた。

犬ヶ島
©THE RIVER

日本の影響 すみずみに

──『犬ヶ島』は、近未来の日本を舞台としながら、昔懐かしい日本映画からの影響を存分に感じられる映画でした。ウェス・アンダーソン監督は黒澤作品からの影響が最も強いことを公言していますね。こうした日本芸術の影響は、パペット製作にどのように現れましたか。

ウェス監督からは、40作にも及ぶ映画作品のリストが与えられました。ほとんどが日本映画で、黒澤映画やジブリ映画がありました。観たことがあるものや、全く観たことのない作品もありました。宿題として、40作全てを観るようにということでした。プロダクション・デザイナーのポール・ハロッドは日本映画が大好きなので、むしろ大喜びしていましたね。とにかくウェスの造詣の深さには驚きました。あんなに知識深い方は他に知りません。

この宿題を観ながら、例えば『七人の侍』(1954)や『悪い奴ほどよく眠る』(1960)、『もののけ姫』(1997)などに影響を受けて、「このシーンのこのキャラクターが良いね」「この衣装、このメガネがカッコいいね」とアイデアを溜めていったのです。もちろん、そっくりそのまま拝借するのではなく、変化を加えながら。日本映画からは、様々な要素を参考にしています。

あるキャラクターについて、「これって黒澤明の『乱』(1985)に出てくる人にちょっと似すぎたりしないかな?」なんて話し合ったことを覚えています。常に様々な調整を施しながら、山ほどある参考資料から得たアイデアを自然な形で表現したかった。今作は日本を舞台にした映画ということで、中でも1950年代の日本の持つ空気感を出したかったんです。やるべきことは全てやりました。あらゆる方面に注意を払っています。上手くいっていると良いのですが。

映画『犬ヶ島』メイキング画像
©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
ウェスが日本の漫画作品について言及していたかどうかは、覚えていません。でも、大勢いたスタッフの皆は、もともと日本の漫画が大好きな人たちばかりだったので、漫画を意識しないという方が難しい。『AKIRA』を意識したこともあったでしょうし、漫画的感覚というものがスタッフ間で自然と共有されていました。この世界観におけるバックグラウンドですね。漫画に限らず、日本の作品の影響は無意識的に現れています。たとえば小林市長のスーツは、ヤクザ映画の影響ですね。

──ウェス監督のパペットへのこだわりに、どのようにして挑んだのでしょうか。

良い質問ですね。パペット製作は、まず始めに犬からスタートしました。なぜなら、犬を基点として他のパペットやセットのスケールを決めたかったからです。犬が出来れば、その他の事も自動的に決まっていきますからね。

私達が犬のパペット製作にあたっている間、ウェスはニューヨークでキャラクター・デザイナーのフェリシー・ヘイモスという女性をはじめとする人たちと仕事をしていました。先ほど述べたように、様々な参考資料からアイデアをかき集めて、アレも良いコレも良いと言いながら人間のキャラクターのイラスト製作を行っていました。ウェスはその絵を見せながら、まずは犬のパペットを作ってみて、組み合わせたらどうなるかを見たいと言ったのでした。

Writer

THE RIVER編集部
THE RIVER編集部THE RIVER

THE RIVER編集部スタッフが選りすぐりの情報をお届けします。お問い合わせは info@theriver.jp まで。

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