ペニーワイズ役ビル・スカルスガルド、『IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー』語り尽くす ─ 「ピエロらしくふざけてただけです」


──第7話「ブラック・スポット」では1908年の回想があり、旅回りのカーニバルで芸人として働く“本物のボブ・グレイ”が登場します。“それ”がコピーしているため顔はあなたそのものですが、髪型や声、所作はまるで別人でした。彼を演じるにあたって、ご自身で自由にアプローチできる余地はどれくらいあったのでしょうか?
素顔の僕にはそんなに似てないと思いますよ!映画版にはボブ・グレイの写真が出てくるので、あの巨大な禿頭と偽の眉毛の特殊メイクで再現しました。今回のドラマシリーズでも、その時の見た目を踏襲しています。映画2作目でも、ペニーワイズが血でメイクをするボブ・グレイのシーンがありましたけど、あれはあくまで“それ”がボブ・グレイの姿を借りている形で、今回のように“本物の男”としてしっかり見せたことはなかったんです。
──『IT/イットウェルカム・トゥ・デリー』のボブ・グレイは悪人ではなく、情けない男として描かれています。娘(のちのカーシュ夫人)のために衣装を作るなど、父親らしい顔も見せますね。
脚本の段階では、「なんて優しいお父さんなんだ」と感じてもらえるように書かれてたんです。妻を亡くした、無垢で優しい男、という設定です。娘を愛してるのは間違いないけど、僕は彼をただの単純な“いい人”にはしたくなかった。彼はアルコール依存で、人生に不満を抱えている。昔は大きなサーカスにいたのに、今はこんなドサ回りのカーニバルに落ちぶれてしまった。娘はいるけれど妻はいないし、酒に溺れ、皮肉屋で、どこか投げやりな男。出番は少なかったけど、そういう複雑さを入れたかったんです。ペニーワイズとはまったくの別人としてね。
──第7話の1908年の回想では、納屋から不気味な少年の姿をした“それ”が覗き見る中、ボブ・グレイによるピエロのステージが描かれます。
「ボブ・グレイがペニーワイズを演じる」というのは本当に面白い挑戦でした。“人間版ペニーワイズ”をどう表現するか。“悪魔的な存在”ではなく、その“悪魔が模倣している人間の姿”を演じるわけです。
──ステージの扉を開けると、見慣れたメイクに、禿頭のカツラの継ぎ目が見える。まるで安っぽい仮装のペニーワイズのようでした。
物語の舞台は1900年代初頭なので、当時のヴォードヴィル(寄席演芸)によくあった、大げさな模倣芸のような雰囲気を出したかったんです。あれは楽しかったですよ。正直、ボブ・グレイというキャラクター自体を完全には掴めていなかったんですが、「ボブ・グレイを演じ、ボブ・グレイがペニーワイズを演じている」と考えることで、演技にレイヤーが生まれました。レイヤーを重ねれば重ねるほど、素の自分から遠ざかることができて、役に入り込めるんです。
──実際の彼は、かなり面白いピエロでした。不気味なところはあまりなく、本当に子供向けのショーでしたね。
あのショーはすべて振り付けが決まっていて、脚本上でも動きが細かく指定されていたんです。ある種の切なさがありますよね。ボブ・グレイは自分の人生そのものをエンターテインメントにしてしまうアーティストなのだと思います。だから、妻を失った悲しみさえもパフォーマンスに取り込んでいる。でも子どもたちはそれを楽しんでいる。それが大事なんです。つまり“それ”は、子どもたちがこのピエロに魅了されている様子を見て、そこに“利用価値がある”と判断したんです。
──ショーの終わりに、ボブ・グレイが客席の方へ振り向いて微笑みます。笑顔自体は普通です。ただ隣の人形も振り向くと…その巨大な前歯は、まるでペニーワイズのようでした。
あれは意図的な演出です!そのジリスの人形が黄色い目と大きな出っ歯なのもあえてです。“それ”は、ボブとあの人形、その両方の要素を取り込んで融合させているんです。まさにその通り。
──ボブ・グレイの声について教えてください。とても特徴的な話し方ですよね。音程が上下する音楽的な抑揚があって、W.C.フィールズを彷彿とさせます。
あの時代設定なので、「よし、この方向性なら遊べるな」と思ったんです。あのメイクをした顔を見たとき、「この顔を完成させるには、それに合う声が必要だ」と直感しました。いわゆる“昔気質”な男を演じようとしたんです。彼の本当の生い立ちは誰にも分かりませんが、過ぎ去った時代の人間で、とてもドライで、タバコを吸いすぎている。そういう要素が自分の中でふつふつと湧き上がって、あの声になったんです。
──その夜、“それ”はあの不気味な少年の姿でボブに近づき、森へ誘い込もうとする。それに対してボブは煙草をふかし、酒を飲みながら、いつもの癇癪まじりに「見てのとおり忙しい」とあしらいます。最高の拒絶でしたね。
ボブ・グレイを演じるのは本当に楽しかったよ、特にあの少年のシーンはね。実は脚本だと、ボブはもっと心配するような人物として書かれていたんです。現れた子供を見て『あぁ、助けてあげるよ……』と森へついて行ってしまうような。でも僕は「絶対そんな男じゃない」と思ったんです。彼は子どもなんて好きじゃないし、休憩時間は酒とタバコでいっぱい。それに1900年代初頭の大人が、あんな浮浪児みたいな子どもに、そう簡単に優しくするとは思えなかった(笑)。シリーズ全体で一番笑ったのはこのシーンですね。ボブ・グレイはとても面白いキャラクターでしたよ。























