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『オッペンハイマー』は「道徳的な責任から逃げていた」とジェームズ・キャメロン ─ 原爆投下を描く新作準備中、視点の違いが浮き彫りに

映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』来日記者会見

広島・長崎への原爆投下を題材とする映画『Ghosts of Hiroshima(原題)』を準備中の巨匠ジェームズ・キャメロンが、アカデミー賞7部門を受賞した、クリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』(2023)は「道徳的な責任から逃げていた」と述べた。

キャメロンは『Ghosts of Hiroshima』について、題材ゆえに「自分にとって最も興行収入の低い映画になるかもしれない」と考えていることを以前明かしていた。しかしながら、原子爆弾の開発・製造を指揮した理論物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの伝記映画である『オッペンハイマー』の世界的ヒットと高評価は、この題材が人々の興味を惹くことを示している。

もっともキャメロン自身は、『オッペンハイマー』について「彼(ノーラン)が回避したものに興味がある」と米Deadlineにて語った。「素晴らしい映画製作だと思うけれど、道徳的な責任から逃げたところがあると思う」と。

「オッペンハイマーは(原爆投下の)影響を知らなかったわけではありません。ほかの監督の作品を批判したくはないですが、あの映画には、彼(オッペンハイマー)が集まった観客のなかに焼けた遺体を見る短いシーンがあり、そのあとはいかに彼の心が動いたか描かれます。しかし、私はテーマから逃げていると感じました。」

キャメロンが挑もうとしているのは、まさにその“テーマ”だ。『Ghosts of Hiroshima』は、チャールズ・ペレグリーノによる2本のノンフィクション作品に基づき、広島と長崎で2度被爆した“二重被曝者”の山口彊(やまぐち つとむ)氏を描く構想。キャメロンは2009年に山口氏と面会し、15年以上にわたって企画を温めてきた。

「スタジオやクリスが(原爆投下の影響に)触れてはいけないと感じたのかはわかりませんが、私はそこに真っ向から挑みたい」とキャメロンは言っている。ノーランが描かなかったのであれば、「私がやる」のだと。

ちなみにキャメロンのコメントは、『オッペンハイマー』公開当時のスパイク・リー監督による「僕なら、原子爆弾を日本に2発投下したことで何が起きたかを見せたかった」という発言とも重なっている。

ただしノーラン自身は、『オッペンハイマー』を主人公の視点から描くことに当初からこだわり、倫理と欲望の相反する関係をあらかじめ視野に収めていた。「オッペンハイマーは原爆投下の事実を、世界と同じタイミングで知った。自分の行動がもたらした予期せぬ結果を、だんだんと正確に理解していく人間を描きたかったのです。見せることと同じくらい、見せないことも大事だった」とは本人の弁だ。

また、ノーランはリーの発言が話題を呼んでいた当時、このようにも言っている。「彼はきわめて具体的かつ敬意をもって、“自分ならこうする”と発言してくださいました。映画監督はそれぞれ物事に違った解釈をするものです」。

Source: Deadline, Variety, Yahoo! Entertainment

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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