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『オッペンハイマー』どんな映画? ─ あらすじ、海外の反応、アメリカでの鑑賞レビュー、公開情報

オッペンハイマー
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【更新】『オッペンハイマー』第96回アカデミー賞で作品賞を含む最多7部門(作品賞、主演男優賞、助演男優賞、監督賞、撮影賞、作曲賞、編集賞)に輝いた。


映画『オッペンハイマー』が、2024年3月29日に日本公開となる。原爆を作った人物の半生を綴る物語であることや「バーベンハイマー」ミーム問題も相まって物議を醸したが、その一方で鑑賞を望む声があったのも事実だ。

本記事では、『オッペンハイマー』に関する基本的な情報をまとめてみた。あらすじや海外での評価、一足早くアメリカで鑑賞した筆者による簡単な感想も交えながらご紹介していきたい。

あらすじ

『オッペンハイマー』の主人公は、第二次世界大戦中に進められた原子爆弾の開発・製造を目的とする“マンハッタン計画”を主導した理論物理学者、J・ロバート・オッペンハイマー。

1920年代、ハーバード、ケンブリッジと名門大学に在籍した後、ドイツのゲッティンゲン大学へ留学したオッペンハイマーは理論物理学の道を志すようになる。博士号取得後、アメリカへ帰国しカリフォルニア大学バークレー校で教鞭を取っていたところ、原子爆弾開発に遅れを取っていることに焦りを感じた米軍が発足したマンハッタン計画のリーダーに指名される。

マンハッタン計画の拠点に選ばれたのは、ニューメキシコ州のロスアラモス。主要メンバーを集めたオッペンハイマーは家族を連れて同地へ越し、本格的に原爆開発へ乗り出していくのだった……。物語はマンハッタン計画を起点に、過去、現在、未来を行き来しながら展開され、オッペンハイマーという1人の人間の視点を通して原爆開発の余波を描いていく。

監督:クリストファー・ノーラン

クリストファー・ノーラン
HellaCinema https://commons.wikimedia.org/wiki/File:DunkirkFilmGearPatrolLeadFull.jpg

メガホンを取るのは、『ダークナイト』トリロジーや『インセプション』(2010)『インターステラー』(2014)などを手掛けてきたクリストファー・ノーラン。カイ・バード&マーティン・シャーウィンによるノンフィクション『オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇(上・下巻)』(PHP研究所)を原作に脚本も自ら執筆した。

オッペンハイマーという人物にフォーカスを当てるべく、ノーランは自身初となる「一人称での脚本執筆」を行った。劇中では原爆投下の描写が登場しないことも公開前から明らかになっていた。

海外での評価

上述の通り、海外では2023年7月21日より順次一般公開を迎えた。本記事掲載時点で、米辛口レビューサイトRotten Tomatoesでは、批評家スコア93%(レビュー数:481)、観客スコア91%(レビュー数:10,000+)と高水準を記録。批評家スコアは、『ダークナイト』(2008)と『メメント』(2000)に次ぐ記録となっている

封切り前にSNSで投稿された海外ジャーナリストたちによる最速レビューでも絶賛のコメントが多数寄せられ、「ノーラン最高傑作」と評価する声も。主演のマーフィーやダウニー・Jr.の演技への評価も目立った。

業界全体で好意的な意見が多い中、米The New Yorkerのベテラン批評家リチャード・ブロディは米辛口レビューサイトMetacriticで100点中50点の評価を下した。「この映画は、オッペンハイマーというキャラクターに注意を払わず、彼を葛藤する良心の象徴として」意図的に描いた「モザイク画のような構造をした」作品だと記している。

『オッペンハイマー』については、ハリウッドの業界人たちからも意見が寄せられた。『タクシードライバー』(1976)『レイジング・ブル』(1980)『最後の誘惑』(1988)の脚本を手がけたポール・シュレイダーは「『オッペンハイマー』は今世紀で最も重要な最高傑作」と絶賛。「今年、劇場で映画を1本観るとしたら、それは『オッペンハイマー』でしょう」と完成度を称えた

『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)や『マルコムX』(1992)『ブラック・クランズマン』(2018)などで知られるスパイク・リー監督の発言も話題を呼んだ。リー監督は「批判ではなく意見です」と前置きしながら、「私なら、この映画の最後に、原子爆弾を日本に2発投下したことで何が起きたかを見せたいと思ったでしょう」と原爆描写が登場しないことへの見解を示していた。のちにノーラン監督は同コメントに反応し、「物事を違う風に解釈するのは当然のこと」と意見を尊重していた

興行面では、同日公開を迎えた『バービー』との連続鑑賞を促す自然発生的なムーブメント「バーベンハイマー現象」の盛り上がりも相まって大成功を収めた。現時点までに、全世界累計興行収入は9億5,000万ドルを突破。ノーラン監督史上最高成績を記録しただけでなく、伝記映画における歴代興収成績が2018年の『ボヘミアン・ラプソディ』を抜いて首位の座を獲得したことも話題となった。

米国での鑑賞レビュー

筆者は2023年7月の米公開時にロサンゼルスの劇場で本作を鑑賞する機会に恵まれた。公開直後とあり、映画館のメインロビーは「バーベンハイマー現象」に沸き立つ観客たちで賑わい、なかでもピンク色の洋服を身にまとう若者たちの姿が印象的だった(オッペンハイマーに変装した観客は見かけなかった)。

アメリカではいくつかのシネコンでIMAX 70mmフィルム上映も行われ、筆者も初日を狙ったが、公開3日前の時点で早くも完売。3時間の上映時間ということもあり、上映頻度は1日3回と少なかった。それでも深夜0時スタートの回が満席だったことには驚愕するほかなかった。幸運なことに、なんとかIMAX 70mmフィルム上映で鑑賞する機会を得ることが出来た。

さて、本題に入ろう。『オッペンハイマー』は、ノーランのフィルモグラフィーと照らし合わせれば、『インセプション』や『インターステラー』と同等の感情体験を堪能できる1作となっている。物語は、原子爆弾が引き起こした歴史的惨事についてよりも、オッペンハイマーという1人の人間に対する徹底的な探究を突き詰めている。

時間軸を行き来しながら進んでいくストーリーテリングは、ノーラン節炸裂といったところで、ファンの期待を裏切らない巧みな編集と心を打つ劇伴が肝となっている。原爆開発に勤しむオッペンハイマーの姿だけでなく、戦前戦後の姿も同時並行的に描かれ、あまりにも壮絶な人生をゆっくりと駆け巡る感情の旅を味わうことができる。

しかしながら、唯一の被爆国に生まれた身としては複雑な思いでの鑑賞となった。原爆の開発実験が成功するシーンでは、まるでロケットの打ち上げに成功したかのような歓喜の姿が映し出されるが、鑑賞時にアメリカの観客に囲まれていたことも相まって、恐怖感に圧倒された。

オッペンハイマーの原爆に対する姿勢については、終戦を機に大きく変わっていくのだが、それは劇中描写を見ても明らかだ。その意味では、反戦的なメッセージを包含した1作でもある、と筆者は思う。

本作を鑑賞するには、ある種の勇気が必要となってくるだろう。しかしノーラン監督は、これまでもそうしてきたようにどちらの側に立つことなく、観客一人ひとりに解釈を委ねている。何にも干渉されないベストな環境で、オッペンハイマーの人生を内側から体験していただきたい。

キャスト・製作陣

オッペンハイマー役を演じるのは、クリストファー・ノーラン監督と6度目のタッグにして初の主演を勝ち取ったキリアン・マーフィー。それまでに『ダークナイト』トリロジーや『インセプション』『ダンケルク』に出演した。

共演には、オッペンハイマーの妻・キティ役でエミリー・ブラント、「マンハッタン計画」を指揮したレズリー・グローヴス役でマット・デイモン、アメリカ原子力委員会の会長にして戦後オッペンハイマーとの対立劇を繰り広げるルイス・ストロース役でロバート・ダウニー・Jr.、オッペンハイマーの愛人ジーン・タトロックト役でフローレンス・ピューが名を連ねている。

ほか、ベニー・サフディやケネス・ブラナー、ジョシュ・ハートネット、ラミ・マレック、マシュー・モディーン、デイン・デハーン、ジャック・クエイド、オールデン・エアエンライク、ジェイソン・クラークといった若手からベテランまで多彩なキャストが顔ぶれが脇を固めた。さらに、名優ゲイリー・オールドマンも僅かだが重要な役どころで出演している。

製作陣にはノーラン組が集結。撮影監督は『TENET テネット』『ダンケルク』『インターステラー』に続いてホイテ・ヴァン・ホイテマ、編集と音楽はそれぞれ『TENET テネット』のジェニファー・レイムとルドウィグ・ゴランソンが手掛けた。

日本公開情報

日本では長らく公開未定の状況が続いたが、2024年中に公開されることが決定した。配給を務めるのはビターズ・エンド。『不屈の男 アンブロークン』(2016)や『パラサイト 半地下の家族』(2019)の配給も担当した。

ユニバーサル・ピクチャーズ作品の日本配給は東宝東和が担当することが通例的だが、本作はビターズ・エンドの手に渡ることとなった。同社は、公開決定に伴い発表した声明で「本作が扱う題材が、私たち日本人にとって非常に重要かつ特別な意味を持つものであるため、さまざまな議論と検討の末、日本公開を決定いたしました」と伝えている。上映規模や公開日などについては、続報を待ちたいところ。

更新:2024年3月29日(金)から全国公開される。IMAX®&35mmフィルム版&Dolby Cinema®(ドルビーシネマ)で特別先行上映となるトリプル“TOKYOプレミア”も開催される。

Source:Rotten Tomatoes(1,2),The New Yorker,Metacritic,Box Office Mojo

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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