『E.T.』公開1982年当時、日本での反応 ─ 「E.T.ちゃんがグンバツ」評や淀川長治の分析など

巨匠スティーブン・スピルバーグ監督による不朽の名作『E.T.』。スピルバーグ監督の数ある名作の中でも、本作は監督自身の孤独な少年時代、そして想像力豊かなスピルバーグが思い描いた異星人への憧れを映像にした、特別な思いが込められた1作だ。
少年エリオットと地球外生命体E.T.の友情物語は、本国アメリカのみならず世界中の人々の胸を打った。日本でも1982年12月に公開となり、すぐさま大ヒットを記録。1997年の宮崎駿作品『もののけ姫』にその記録を破られるまで、約15年間も日本国内の興行収入でトップの座にい続けた。公開から約40年が経った今でも、日本国内の歴代累計興行収入は14位を記録している。
そんな誰もが愛してやまない『E.T.』は公開当時から世界中で注目の的となった。もちろんそれは『E.T.』の興行成績から推測できるが、実際のところ当時の熱狂ぶりはどのようなものだったのだろうか。これを知るために公開当時の雑誌を遡ると、封切り前にもかかわらず日本でも凄まじく盛り上がっていたことがわかる。
本記事では、『E.T.』への愛に溢れた作品批評や、出演した子役たちへの注目度、そして幾つかのエピソードを通して、日本での「E.T.」ブームを読み解いていく。
アメリカでは「6時間待ち」、公開直後に届いた友人からの手紙
日本の映画ファンの多くが、『E.T.』を待ち望んでいた中、本国アメリカでは約半年早く(1982年6月公開)封切りを迎えた。インターネットがない時代にもかかわらず、ひと足早く公開されていたアメリカや海外各国での熱狂ぶりが伝わってきてのことだろう。ここでは、公開時のアメリカでの反応がいかなるものだったのかを記しておきたい。
1982年10月号の「SCREEN」誌には、日本での公開が2ヶ月後に迫る中、試写会で『E.T.』を一足先に鑑賞した映画評論家の垣井道弘氏による「情報先取り特集」が組まれている。数ページのミニ特集といった印象だが、何よりまず目を引いたのが「6時間並ばなければ見られない!」という見出し。垣井氏によれば、ロサンゼルスに住む友人から、『E.T.』の熱狂ぶりを物語るエピソードが“手紙”で送られてきたのだそう。それが以下の通り。
「週末になると『E.T.』をやっている映画館のチケットがソールドアウトになる。だから、チケットを買うために3時間並んで、映画館に入るのにまた3時間も並ぶ。映画をみるために並ぶのはこっち(アメリカ)では普通だけど、『E.T.』は異常だ。」
垣井道弘,「情報先取り特集」,『SCREEN』,1982年10月号,pp.121-124,近代映画社
…ということなのだ。「この異常ぶりはロスだけでなく全米とカナダを覆い尽くしてしまった」と垣井氏も記事にまとめている。アメリカでの『E.T.』フィーバーは、垣井氏の言葉を借りれば「“E.T.ちゃん”がグンバツで人気集中」だったという。
少し早く『E.T.』と遭遇した垣井氏は「試写をみてしまった夜から、夜ごとうなされっぱなし」と鑑賞直後の様子を綴る。「かなり重い“E.T.病”で、E.T.ちゃんがやってくる夢までみる。この調子だと正月までもつのかなと心配」と健康にもその影響が及ぶほどのドハマリぶりだ。記事の終盤、垣井氏は最後のひと押しで『E.T.』愛を炸裂。「日本公開まであと3ヶ月ちょっとのシンボウ、やめられない、とまらない。いまボクは、E.T.ちゃんにラブ・シック!」と特集を締め括っている。
日本公開直後の反応
日本での『E.T.』封切りは12月上旬。公開前、公開後の時期の各雑誌は大々的に『E.T.』特集を組んだ。1982年12月号の「SCREEN」誌では、全16ページに渡る「とじこみ特集保存版 30倍お楽しみBOOK」がフィーチャーされている。同特集内では、太田宏明氏による「E.T.」のオリジナルイラスト付きで解説される「かわいい異星人E・T大図鑑」が特に目を引いた。そこには「びっくりすると首が伸びる!」とピンク色のポップな見出しで、「E.T.大解剖」が行われている。
「なぜE.T.と呼ばれるのか?」「E.T.はどこからやってきたのか?」「シワだらけのET。いったい、何歳なのか?」「宇宙で暮らしても性格はネアカ?」「異星人E.T.、実は植物学者だって?」。まるでディスカバリー・チャンネルのような、ハテナ続きの大解剖コーナーなどからは、当時の日本での「E.T.」という異星人への関心の高さが伺える。
公開後は多数の映画ライター、評論家が『E.T.』への批評・感想を寄稿。その多くがスピルバーグ監督への称賛に溢れており、中には「E.T.」を“E.T.ちゃん”と親しみを込めて呼んだり、“グロテスク”とその容姿を表現したりするものもある。映画ライターの遠田輝成氏は、「笑った。泣いた。感激した。とにかくめちゃくちゃ面白い」とシンプルに表現。一方、映画評論家のおかむら良氏は、「ホロリとさせ、ユーモアいっぱいのE.T.ちゃんに大感激なのです」と記事タイトルにその愛を詰め込んでいる。「『E.T.』を観た瞬間、ETちゃんが♡♡♡大好きになってしまった」との惚れ込みぶりだ。