【レビュー】『シング・ストリート』 ジョン・カーニー監督が自身の人生を反映させ、描き出す世界とは?

ミュージカルとは違う音楽映画。
2016年、『シング・ストリート 未来へのうた』が話題となったジョン・カーニー監督作品の第一印象はそんなものだった。

カーニーはアイルランドの小さな街、ダブリンに生まれ、1980年代の音楽シーンに魅せられ、バンドを結成したという経歴を持つ。いつしか映画監督となり、大規模なハリウッド映画に負けることなく、小規模ながらにひたすら撮りたい映画を撮り続けている。
そんな彼の魅力はどこにあるのだろうか。

http://www.imdb.com/name/nm0138809/mediaviewer/rm1114425600?ref_=nmmi_mi_all_bts_2

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『ONCE ダブリンの街角で』の成功

ジョン・カーニーという名前が一躍有名になったのは、2007年公開の『ONCE ダブリンの街角で』だ。
母国アイルランドの映画であり、全米では当初わずか2館での上映でしかなかったが、のちに口コミで大ヒット。ハリウッドの大作映画にはない、いうなれば“田舎くさい”雰囲気が功を奏した結果だろう。

本作は、街角で演奏していた一人のミュージシャンの前に、とある女性が立ち止まるところから始まる。掃除機の修理を仕事にしているミュージシャンに、彼女は掃除機を直してほしいと頼むのだった。二人が音楽を通じて、次第に心を通わせていく姿が、カーニー監督の地元であるダブリンを舞台に描かれている。

正直に言うと、本作はただただ音楽好きが音楽を作り上げていく過程を描くだけで、しっかりとした“根幹”となりうるストーリーはないし、また映像や演出なども自主製作映画の域を脱していないとすらいえる。
ならば、何故そんな映画に人々は惹きつけられるのだろうか? その理由は、本作に込められたメッセージ性と楽曲の良さにあるのではないか。

穴の開いたギターを片手に成功を夢見る男と、行商する移民の女性。二人は身分も違えば、育ってきた環境など、そのアイデンティティがまったく違うのだ。しかし互いに音楽が好きな二人は、たった一度のセッションで心を通わせるようになる……。この“一期一会”のストーリーに、主演のグレン・ハンサードが作詞・作曲した楽曲が組み合わさって、観客は作品へと引き込まれていく。まるで、アイルランド・ダブリンの街角にトリップしたかのような気分を味わえるのだ。
全編にわたって、手持ちカメラでゲリラ的に撮影されたであろう映像に生活感が刻まれているのも魅力であり、喧騒に満ちたアメリカで観客たちの心を掴んだ要因はそこにあるのかもしれない。

『はじまりのうた』でハリウッド進出

『ONCE』が高い評価を受けたカーニーが、次なる一手として選んだのはアメリカの地だった。ダブリンという田舎から、都会の喧騒に満ちたニューヨークを舞台にしたのだ。それが2013年公開の『はじまりのうた』である。

音楽プロデューサーのダグは、新しい才能を発掘できない日々を送っていた。家族とも別居し、仕事もクビになり、やる気のない毎日を過ごしていた彼だったが、ある日立ち寄ったバーで、驚くべき才能と出会って……。

舞台は都会にこそなったが、カーニー監督の魅力が存分に現れた一作だ。『ONCE』でもみられた、監督が得意とするロケ地と音楽を上手く重ね合わせた演出によって、ニューヨークの日常を見事に切り取っているのである。また本作は、登場人物たちの成功そのものではなく、むしろその過程こそを大事にしている。マーク・ラファロ演じるダグが、キーラ・ナイトレイ演じるグレタの音楽をアレンジする場面が、その最たる例だろう。音楽に対する“情熱”や“愛”、そして人が生きていく上で音楽というものがいかに大切かを真摯に伝えているのだ。

『シング・ストリート 未来へのうた』で原点回帰

ところが、カーニーは『はじまりのうた』の出来栄えに納得しておらず、たびたび同作への不満を公言してきた。
そして再び自身のルーツであるダブリンへと戻るのである。そこで生まれたのが、2016年公開の『シング・ストリート 未来へのうた』だ。

本作の舞台は1980年代のダブリン。家庭の事情で転校になったコナーは、学校の向かいに住む少女、ラフィーナに恋をする。モデルを目指しているという彼女を振り向かせるため、コナーは組んでもいないバンドのミュージック・ビデオに出演してほしいと声をかける。やがて、でまかせから生まれた学校のはみ出し者たちが奏でる音楽に、ラフィーナや学校も動かされてゆき……。

本作はカーニーの人生が大きく反映された作品であり、また当時のダブリンの世情を映し出した映画でもある。音楽を通して心を通わせていく“はみ出し者集団”の描写には、カーニーらしい音楽への情熱が込められている。80年代のヒット曲とオリジナルの楽曲で全編を彩り、ピュアな少年の淡い恋心をも描いてみせ、そこには観客自身も青春を思い起こさせる映像と物語が広がっているのだ。

思えば『ONCE』の映像には、カーニーの故郷であるダブリンの“田舎臭い”雰囲気が漂っていた。それは彼の作品の魅力でもあり、観客はその奥ゆかしい映像にどこか安心感を抱き、身を任せることができた。この『シング・ストリート』でも、どこか懐かしさがあり、親しみのある映像に、知らず知らずのうちに見惚れてしまう。

昔気質な男が映し出す映像の中に、音楽への“情熱”と“愛”が込められていることが、ジョン・カーニー作品の大きな共通点だ。またその作品には、ほとんど必ず、ロンドンに対しての強い憧れを持つ登場人物が出てくる。きっと、彼らは若き日の監督自身を反映させたキャラクターなのだろう。イギリスの近くにありながらも隔絶された、ダブリンという小さな街で育った彼の人生そのものが、映画として映し出されているのではないだろうか。

Eyecatch Image: http://www.nytimes.com/slideshow/2016/04/15/t-magazine/the-director-of-sing-street-on-his-favorite-movie-musicals/s/15tmag-carney-slide-4LK9.html

About the author

映画・海外ドラマライター。

映画ファンの方々が知りたいNEWS、評論、コラムなどを中心に他とは違った視点から注目した記事を寄稿していきたいと思っております。

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