『ジョン・ウィック:コンセクエンス』監督来日インタビュー、重要エピソード多数明かす

キアヌ・リーブス主演『ジョン・ウィック:コンセクエンス』が、2023年9月22日よりついに日本公開を迎えた。伝説の殺し屋、ジョン・ウィックの壮絶な戦いが、ついに決着。シリーズ史上最長の2時間49分は、怒涛のアクションシーンの連続だ。
公開前週にはシリーズ第1作『ジョン・ウィック』(2014)から全4作にわたって監督を務めたチャド・スタエルスキが本作プロモーションのため来日。大の親日家キアヌ・リーブスと揃っての登場が期待されていたが、残念ながら俳優組合ストライキのため、プロモーションには参加できず。日本でのプレス対応は、スタエルスキ監督がひとりで行った。
THE RIVERでは、前作『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019)に続いてスタエルスキ監督への2度目の来日インタビューが実現。初登場の日本人キャスト、リナ・サワヤマや真田広之に関する興味深い舞台裏エピソードや、ドニー・イェンが演じたケインのモデル、逝去されたシャロン役ランス・レディックとの最後の思い出や、アニメ化構想、「Ghost of Tsushima」実写化の話題など、多数の重要な話を一気に引き出した。映画『ジョン・ウィック:コンセクエンス』を観る前にでも、観た後にでも、じっくりお読みいただきたい。
『ジョン・ウィック:コンセクエンス』チャド・スタエルスキ監督 来日単独インタビュー
──チャド・スタエルスキ監督、よく日本に戻ってきてくださいました。今回はキアヌ・リーブスが一緒ではなく、寂しいですね。
キアヌもとても寂しがっていましたよ。彼は日本が大好きですからね。
──彼も日本に来ているのですよね?彼のバンド「Dogstar」のコンサートのために来日しているはずです。
彼はもう、先週ロサンゼルスに先に帰国したんです。連絡は取り合っていますが。
──日本で合流できましたか?
いいえ、私は北日本の方まで視察に出かけていたので、会えずじまいです。
──お二人は『ジョン・ウィック』日本ツアーの最後に帝国ホテルのバーで乾杯するのが恒例だとおうかがいしていたので、残念ですね。
はい、今回は一緒には行けなかった。でも、一人で山崎(チャドとキアヌが大好きなウイスキーの銘柄)を嗜みましたよ(笑)。
──さて、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』では、新たにアキラという日本人キャラクターが登場します。歌手でモデルのリナ・サワヤマが演じています。監督はアキラ役にアニメの女性キャラクターのような要素を求めていて、そこで日本人のポップスターやダンサーをYouTubeでリサーチしていた。するとリナ・サワヤマのMVが何度も表示されて、関心を持ったということですね。
そうです。彼女のいろいろなビデオがずっと出てきてね。日本語だったこともあって、初めは全て同一人物だとは気づかなかった。クリックして視聴してみて、いろいろと見進めていくうちに、同じ人なのかということがわかった。調べていくうちに、気づいたら彼女のビデオを20作ほど見ていました。
それから3日かけて、たくさんの映像を何度も見返していくうち、なんだか良い予感がしてきた。エージェントに連絡をして、彼女と繋いでほしいと頼みました。本人とZoomで話してみたら、とても印象が良くてね。30分くらい話したところで、「ジョン・ウィックの新作映画に出てみたい?」と聞いてみた。すると彼女は「そんな、とんでもないです」と。だから「よし、こうしたらどうだろう?」と探ってみた。どこにいるか聞いてみたら、彼女はロンドンですと言う。こっちは今ベルリンだから、ロンドンか、ベルリンで、キアヌも混ぜて会おうと提案してみた。翌日、彼女はベルリンまで顔を出してくれた。僕とキアヌと彼女でミーティングをしたんです。
僕は「彼女でいいんじゃないか?」という感じでしたが、キアヌは「ふーむ」と(笑)。そこで彼女をスタントチームに引き合わせて、少し体を動かしてもらった。その1時間にはもう、「この仕事を引き受けないか?」ということになっていましたよ。

──リナ・サワヤマは、本作が演技初挑戦となりました。
そうです。演技の経験も、マーシャルアーツの経験も持っていなかった。でも、勘がいい人です。いい感じじゃないかと思った。僕はよく、「いい感じだな」と思う人をキャスティングするんです。
──ある意味、YouTubeアルゴリズムがキャスティング・ディレクターだったというわけですね(笑)。
そうだね(笑)。僕は、人から言われてやるのが苦手でね。キャスティングについてもそうで、誰を起用すべきかについて他の人から言われるのは嫌なんです。「この人はこういう番組に出ているから起用すべき」とか、「この人は金額が高いから」とか、そういうのがね。そうじゃなくて、自分で会って、話して決めたい。人生では時々、「この人は特別だな」と感じる人と出会うことがあって、僕はその感覚を大切にしたいんです。
──アキラ役に求めていた「アニメの女性キャラクター」という要素は、具体的にどのようなものだったのですか?
説明は難しいのですが、まずは「超タフ」ということ。超強かったり、そう見えたりすること。でも正直なところ、そこもフィーリングなんです。自分が大事にしているものを感じられるかどうか。
それから、キアヌがまさにそうですが、「ハード/ソフト」であることです。とても強い(ハード)だが、平常時はソフトに見える者、ということです。そこがビシっと切り替わる瞬間。それを求めている。
──アサシンのようになる。
そうです。リナ・サワヤマにはそれがあった。彼女のMVを見ると、とてもキュートなのに、鋭い視線をカメラに向けることもできる。「コレだ」と思いましたよ。

それに、リナは大勢の観客の前に立つことにも慣れている。もちろん、歌手と役者はちょっと違うものですが、このシリーズに出演しているイアン・マクシェーンも、ローレンス・フィッシュバーンも、キアヌ・リーブスも、ウィレム・デフォーも、みな舞台役者出身です。観客と生で向き合い、その反応を受け止めることに慣れているわけです。カメラの前での演技のみで、舞台経験のない役者もいますが、僕は舞台役者の方がより生々しい感覚を強く感じていると思っています。リナ・サワヤマのようなポップスター、歌手、パフォーマーたちも、それと同じようなものを持っているのではないかと。
──ちなみに、アキラは一般的に男性の名前ですが、名の由来は?
『AKIRA』、僕の大好きなアニメからです(笑)。
──やっぱり(笑)。そして、リナ・サワヤマと真田広之(シマヅ)の親子関係も素晴らしかったです。二人が現場で絆を深める様子はいかがでしたか?
あの二人は親子として完璧でしたね。ヒロユキ・サナダは極めてプロフェッショナルであり、極めてフレンドリーであり、非常に良い人です。二人が初めて顔を合わせる日、リナが私のところにやって来て「彼のことが大好きなんです」と言いました。広之は彼女に大阪弁の訛りを教え、我々にも日本語や会話、美術について様々な助言をくれました。とても助かりましたよ。広之さんとは、あと10回くらい一緒に仕事をしたい。素晴らしい方です。

──リナ・サワヤマと真田広之は現場で、日本語でやり取りを?
そうです。二人で、ずっと日本語で話されていました。
──真田広之とドニー・イェン(ケイン)の決闘も見られます。戦いが始まる前、二人は“間合い”を取り合います。一触即発の空気感が演出されていました。
あそこは侍映画、チャンバラ映画です。ドニー・イェンにとっては、武侠映画だったでしょう。しかし決闘シーンの描かれ方は、武侠映画でもチャンバラ映画でも、あるいは西部劇映画でも同じ。つまり、相手へのリスペクトがあるということです。お辞儀をして、「頼む、あなたとは戦いたくない……」、だが戦わなければならない。あのシーンの良いところは、広之は戦いを望んでおらず、ドニーも望んでいないところ。しかし二人とも、少しの憂いを帯びながら、この戦いは避けられないとわかっている。“コンセクエンス(因果応報)”なのです。
──二人があまりにも上手くやるから、演出を諦めて、二人に任せたとか(笑)。
(笑)。ただ、監督としての演出にはいろいろな手法があるんです。「ああしろ、こうしろ」と指示するのが監督だと考える人もいるようですが、実際にはそんなケースは稀。僕は船長なのです。色々な人が、航海を手伝ってくれる。キアヌ・リーブスがいて、ローレンス・フィッシュバーンがいて、スコット・アドキンスやビル・スカルスガルド、ドニー・イェン、真田広之がいる。こんな素晴らしい人たちに、指示だなんてしませんよ。

ただアイデアやコンセプトを話し、それを聞き、カメラが回り、演出をする。ドニー・イェンがまだやったことのないものを一緒に作りましょう、そんな感じですよ。広之やキアヌがやったことのないことをやりましょう、と。もちろん、ファイトシーン自体は全員やったことがあります。だから今回作りたかったのは、観た人が「悲しくなる」ファイトシーンということです。
──ドニー・イェンの演じたケインは盲目で、スティックタイプの武器を使って戦います。彼が『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で演じたチアルート・イムウェとも共通していますね。
少し違うと思います。ケインのモチーフは座頭市です。僕は『座頭市』の大ファン。勝新太郎です。目指したのは、ドニー・イェン版『座頭市』です。

そしてドニーも同じような役を、『ローグ・ワン』でやったことがあった。『ローグ・ワン』は良い映画ですが、あっちのドニーはもっと“戦う僧侶”だったと思います。今回はそうではなく、“盲目のジョン・ウィック”のようにしたかった。チョウ・ユンファや、ブルース・リーに匹敵するようなね。
ドニーも「カッコいいキャラクターにしたい、サングラスをかけたい」と求めた。彼が望んだのは、ジョン・ウィックに匹敵する、いや、それ以上に強いようなキャラクター。ケインはそうやって生まれたんです。
『ローグ・ワン』よりも楽しげな、カッコいいキャラクターになったと思います。あっちのドニーはシリアスで、中国の僧侶のようだった。こっちのドニーはもっとクールで、チョウ・ユンファって感じ。

──少し辛い質問をさせていただきます。コンチネンタル・ホテルのコンシェルジュ、シャロン役を演じられたランス・レディックが逝去されました。彼との最後の思い出をお聞かせいただけますでしょうか。
ランスは、1作目の『ジョン・ウィック』で、僕が一番最初に起用した役者でした。今では『ジョン・ウィック』は誰もが知るところになりましたが、2014年当時は誰一人知らなかったわけです。ただ、アクション・スクリプトがちょっとあるだけの状態だった。だから、役者を捕まえるのは一苦労でした。ランスは、そんな脚本を最初に読んでくれたうちの一人で、「やりたい」と言ってくれた方なんです。
ランスとの初めてのミーティングを思い出します。一番好きな思い出です。
もともと、僕の方は彼の大ファンでした。「THE WIRE/ザ・ワイヤー」というテレビドラマに出演されていてね。当時一緒にやっていたデヴィッド・リーチも彼のファンでした。一番最初に、僕とリーチと二人で「ランスに連絡してみようよ!今、撮影でニューヨークにいるんだってさ!」と盛り上がったんです。
ミーティングの場が持たれると、5分とせずに彼は「イエス」をくれた。彼は、『ジョン・ウィック』のはじまりの頃から、とても大きな部分を担ってくれました。彼との初めてのミーティング、それは僕にとって最高のミーティングの一つとなりました。
それで、彼との最後の思い出。ロサンゼルスで話した時のことでした。亡くなる1週間前のことでした。本作のプレスツアー中で、お互いにジョークを言い合ったり、笑い合ったりしました。ランスはとても良い体つきをしていてね。彼が現れると……(思い出し笑いをしながら)、いつも「良い体してるね〜」とジョークを言って笑っていたんです。それから、プレミアでしこたま飲んでやるんだ!とも言っていました。
それが彼との最後です。悲しいです。

──話していただいて、ありがとうございます。
いいんだよ。
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